第20話 強盗退治!
辺境町ウードブリックにて。
僕は強盗殺人の常習犯が経営する店で品物を見ていた。
――驚くほどのゴミしかない。
よく見ると、だいたい破れたり穴が開いたりして破損している。
それでも、じっくり見ていく。
狭い店にぎゅうぎゅうに詰め込んであるだけあって、品数だけは多い。
――と。
手袋や靴下に埋もれている水筒を見つけた。
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【ドワーフの水筒】☆☆☆
何の変哲もない水筒。
ただし、酒を入れると水の10倍入る。
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僕は水筒を掘り出して念入りに見た。
「水筒欲しかったんだ~。これなら手ごろそう。いくら?」
「こいつぁ、ちょっとやそっとじゃ壊れない一品だ。銀貨6枚だな」
「え~。中古なのに相場の倍以上じゃないかぁ。ここ凹んでるし。もうちょっと安くして」
「しょうがないなぁ。銀貨1枚。これならどうだ?」
「う~ん。うううううん。――わかった。つやつや光ってるし、それで買うよ」
「まいどあり~」
僕は銀貨を1枚渡して水筒を受け取り、小脇に抱えた。
――たぶん、めちゃくちゃ安い。
やっぱり見る目がない。
それから時間をたっぷりとかけて、見ていった。
目ぼしいものを見つけ出す。
といっても4つだけど。全部☆2つ以上。
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【物乞いの服】☆☆
防御+2 『幸運上昇』
詳細……見た目はボロボロ。小銭やドロップアイテムを手に入れやすくなる。
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【賢者ミトラのローブ】☆☆☆☆
防御+125 『魔法威力50%上昇』『呪文詠唱速度上昇』『魔法攻撃反射』『詠唱集中』
詳細……見た目はボロボロ。色も地味。しかし魔力伝導率の高いクリスタルスパイダーの出す魔力念糸が織り込まれており、自身の魔法を格段に増幅させる。魔法使いには最適。
攻撃を受けても魔法を途切れずに唱えたという、清貧の大賢者ミトラの愛用したローブ。
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【メロディタクト】☆☆☆
『魔力+10』『呪歌無効』
詳細……曲の演奏や指導がしやすくなる。
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【腐敗箱】☆☆
詳細……中に入れたものを腐らせたり、発酵させたりする。
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下2つはアレだけど。
タクトはニーナちゃん用。
箱は、味噌や醤油、納豆やたくあんが作れないかなと思って。
まあ、ミトラのローブが掘り出し物だ。
☆4つのユニークレア。
見た目は雑巾にするしかないってぐらいボロボロだけど。
よし。そろそろ頃合いだ。
これを買った上で価値を教えたら怒ってボロを出すんじゃないかな。
何事もなくても良品ゲットだぜ。
「じゃあ、これ全部ちょうだい。いくら?」
店主のザウバはこすっからい目をして言った。
「まあ、大銀貨3枚ってところだな」
「はい。じゃあ、大銀貨3枚で」
「お、おう。……いいぜ、ほらよ」
値切らず素直に出したので、ザウバは驚いていた。
僕は品物を両腕いっぱいに抱えると、満面の笑みで言った。
「いやぁ~。いい買い物できてよかったー!」
「へぇ~、そうかい?」
「うん! これはドワーフの水筒。酒が10倍入るスーパーレアだよ。こっちは幸運を呼ぶ布の服。もちろんレア。そして何と言ってもこのボロボロのローブ。賢者ミトラが着てたローブで、ユニークレアに相当する。付与効果もすごいよ! それをこんな値段で売ってくれるなんて、おじさんは教会の司祭さまよりも聖人だね~! 頭の中、お花咲いてるんじゃないかな?」
あどけない笑みで言い切ると、ザウバのイケメン顔がみるみるうちに怒りで赤く染まっていった。
「おい、ガキ……なめてんじゃねぇぞ」
「ん~? なんのことかなぁ?」
とぼけた顔して笑いかける。もちろん怒らせるために。
案の定、奥歯を噛み締めて睨んできた。
「俺の物だ、置いてけ」
「なに言ってんのさ~。売っていい値段を言い、買っていいと思ったから買った。取引は成立してるじゃないかぁ~。大人なのに、その程度のことも知らないの? ちょっと常識か、頭が足りないんじゃないのかなぁ? 見る目が無さ過ぎるおじさんが悪いんだよ?」
半笑いで煽ると、奴の顔色が赤を通りこして青黒くなった。
するとザウバは、だだっと走って入口を閉めた。
カーテンも下ろす。
店の中が薄暗くなった。
ザウバはゆっくり振り返ると、その手にはナイフが握られていた。
「ふざけやがって! ガキが偉そうに! 素直に謝って置いていけばいいものを――こちとら、殺して奪えば済むんだからな」
「わー、こわーい。そうやって人を殺してきたんだね。……ここにある品物の持ち主のように」
「……てめぇ、生かしちゃおけねぇな」
真実を見抜かれたせいか、怒り狂うザウバの目付きが鋭くなった。
床を踏みしめて近付いて来る。
手の中でナイフをくるくると回した。慣れた手つき。
僕は動かない。ただいつでも次元移動できるように構える。
ザウバが間合いに入った。
素晴らしい速さで刺そうとしてくる。
その瞬間を狙って、二人まとめて店の前に転移した。
明るい日差しの下、人気の少ない裏通りに僕とザウバは出現する。
「な、なに!?」
ザウバは驚きつつ、それでも僕を殺す手は止まらない。
僕は二歩分、後ろに次元移動。
ナイフが空振りに終わる。
驚きで切っ先がぶれていたために避けやすかった。
そこへ声が響いた。
「何をしている! 武器を捨てろ!」
ミウに率いられてきた、兵士二人と受付嬢ナタリーがいた。
タイミングばっちり。
――まあ、ミウに渡したマーカーで見てたから当然だけど。
ザウバは両手を広げて肩をすくめた。
「勘違いするねぇ、こいつが商品を盗もうとしたんだ!」
「こいつの本名はザウバ。強盗殺人の常習犯だよ。変化の魔法で顔を変えてる」
「くっ!? くそ!」
ザウバは背を向けて逃げ出した。
僕は指差して狙いを付ける。
……切り落とさないように。
「僕からは逃げられないよ――次元斬」
ザンッ!
ザウバの足を切りつけた。
「ぐあぁっ!」
思いっきり転ぶザウバ。地面に顔面をぶつけて鼻血を出す。
足からは鮮血がかなり流れる。
ザウバは痛ぇ、痛ぇと、のた打ち回る。
……手加減なんてやったことなかったから、ちょっとミスった。
切り落とさなかったもののかなり深く斬ってしまった。
兵士が奴の腕を掴んで、背中に回して押さえつける。
「観念しろ」「殺そうとしたな」
「ちくしょお! 痛ぇ! なんの証拠があってだよ!」
僕は近付きながらにこやかに微笑む。
「逃げたからに決まってるじゃないか。逃げなきゃ、罪を認めたことにはならなかったよねぇ~。ほんと、頭が悪いよ」
「ちくしょお! ああ、くそ、痛ぇ! てめえ、絶対ぶち殺してやる!」
兵士達が押さえる横から彼の持ち物を探った。
「――あった、これだ」
奴の首から下がるペンダントを引っ張り出す。
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【変化のペンダント】☆☆☆☆
姿かたちを変えられるペンダント。身に付けている限り解除するまでずっと変化し続けられる。
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ザウバの顔色が変わる。
「な、何しやがる。勝手に触るんじゃねぇ!」
首から外したが変化は解けない。
エルフの血を引く魔法使い、ナタリーさんに尋ねる。
「これ、変化のペンダントなんですけど、解除できます?」
「こんなもの持ってたのね。ええ、確か聞いたことがあるわ――姿解除」
ナタリーさんがペンダントを握って呪文を唱えると、ザウバの顔が変化した。
黄色い乱杭歯の髭面の男。
兵士たちが驚く。
「こ、こいつは賞金首の!」「本当に、あのザウバだったのかよ!」
「くそっ、ちくしょお! 痛ぇよぉ!」
ザウバは喚きながら両肩を押さえられて引き立てられていった。
後には僕とミウ、そしてナタリーが残った。
ミウが尻尾をぴーんと立てて泣きそうな笑顔で言う。
「すごいです、ユートさん! 賞金首見つけちゃうなんて!」
「いやいや。ミウのおかげだよ。兵士とナタリーさんを連れてきてくれて。ありがと」
「ユートさんが殺されなくて、本当によかったですっ」
ぐすっと鼻をすすり上げて抱きついてくる。しなやかな体。柔らかい二つの丸み。
慰めるように頭を撫でると、猫耳がひこひこと動いた。
ナタリーが魅惑的な紫の髪を手で払って言う。
「お手柄ね。まさか、この町で堂々と暮らしてたなんてね」
「そうとう悪いことしてきてますよ。――ここの商品もほぼ強盗品です。死体は黒の森に捨ててたんでしょう」
「悪人にとっては楽園ね」
彼女は肩をすくめた。
僕は眉を寄せて尋ねる。
「なんでこんな奴が商売できてたんですか? 認可とか厳しくないんですか?」
「この辺境町は特別なのよ。身分証があって町にさえ入れば、認可状要らずで誰でも商売ができる。――認可状の取得金がいらない。商人ギルド登録金も必要ない……だから一旗上げようと考える人が集まるし、場所代の要らない露店が多いのよ。もちろん税金も安い」
「なるほど……人を集めるためか」
「そうでもしないと、黒の森のすぐ傍の町になんて、冒険者以外誰も来たがらないわ」
「冒険者だけでは当然、日々の生活物資に困る、と。なるほど」
「悪いことばかりじゃないわ。大通りのゴードンみたいに、露店売りからこつこつ頑張って、いまや大商店を構えるぐらいになってる商人もいるし。町に入るのは大変だけど、大勢いて活気があるでしょ」
「確かに、大きくていい町ですね」
――経済特区みたいなものか。
僕も商売していいってことか。
とは言え、売り物が思いつかないけれど。
ナタリーはモデルのように立ちつつ、紫の髪をかき上げた。
「てか、あなたたち。任務忘れてない?」
「あ、はい。行きます――僕たちに対する取調べとかないんですか?」
「賞金首だし、こちらでうまくやっとくわ」
「ありがとうございます」
それにしてもミウはまだ抱きついている。
ちょっと抱き締め返してもいいかなと思って、腕を回した。
お尻をぎゅっと触った。
するとミウの小さな体がビクッと跳ねた。
真っ赤な顔して、上目遣いで僕を見上げる。
「し、尻尾の付け根は敏感だから、触っちゃダメです……っ」
「ご、ごめん……じゃあ、ゴードンの店にも行こう」
「はい」
ミウが体を離して横に並ぶ。
ふと気が付いて振り返った。
「あ、ナタリーさん、この買ってしまった商品はどうしましょう?」
「持ってればいいんじゃない? この人たちの無念を晴らしたのはあなただし。有効活用してあげればもっと喜ぶんじゃないかしら」
「わかりました」
――転売できなくなった気がする。
ナタリーさんと別れて大通りへ向かった。
ミウと並んで歩く。
僕の腕に抱きつきながら嬉しそうに尻尾を振る。
「ユートさん、杖以外に何か買ったんですか?」
「ああ、えっとね……」
背負い袋から取り出しながら説明した。
ドワーフの水筒。幸運を呼ぶ布の服。賢者ミトラのローブ。メロディタクト。発酵箱。
ミウが目を見開く。
「そ、そんなにも凄いものがあの店にあったなんて! 大賢者ミトラの使っていた物なんて、金貨数十枚で取引されてますっ!」
「まあ、これら以外はいいのなかったけど――少しは気が晴れた?」
「えっ! ひょっとしてユートさんはわたしのために……!? ありがとうごじゃいまず~、ユートさぁぁぁんっ!」
ミウは泣きながら抱きついてきた。
耳はピコピコ動き、すらりと長い尻尾が僕の足に絡んでくる。
――ほんとに泣き虫だなぁ。
そんなところが可愛いけど。
とりあえず、だいぶ僕を信用してもらえるようになったかもしれないなと思った。
周りの視線を感じつつ、ミウを慰めて歩いた。
そしてゴードンの店では、普通の服と下着を買った。
ついでに布と紐も。
全部で大銀貨1枚。
新しく買った下着とズボンの上に、賢者のローブを着た。
ウインドブレーカーやジーパンは次元倉庫にしまった。
というわけで残り『金貨1枚』『大銀貨1枚』『銀貨7枚』『銅貨14枚』になった。
さあ、冒険して稼ぐぞ! もう達成してるけど。
――と、その前に、昼食を食べに向かった。




