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第18話 初めてのパーティーと任務

 冒険者ギルド一階。

 掲示板の前に僕らはいた。

 時間はすでに昼前なので掲示板の前には僕ら以外、人はいなかった。


 張り出された数々の依頼を見ていく。 

 護衛の依頼、運搬の依頼、調査の依頼、討伐の依頼、魔物退治の依頼、など。


「いろいろあるね……へぇ、賞金首とかもあるんだ」


 似顔絵とともに賞金額が書き込まれた依頼書『青い魔導書を持つ死神剣士・大金貨9000枚(9億円)』『法外な治療費を要求する、頬に傷のある黒マントの藪医者・大金貨1000枚(一億円)』や『左腕にサイコボウガンを仕込んだ海賊・大金貨300枚(3000万円)』などがあった。


 男も女も子供まで賞金首になっている。金貨1~5000枚まで。

 みんな騎士団の捜査網をかいくぐって暗躍する犯罪者らしい。



 ミウが怯えた顔して恐る恐る言う。

「はい、危険な仕事も沢山あります……でも、まずは簡単な依頼からこなして手続きの流れを覚えるのがよいかなぁって」


 ――僕が恐ろしい依頼を引き受けるんじゃないかと怯えているようだ。

 僕はバカだけど無謀じゃない。死にたくないもの。


 安心させるために快活な声で言った。

「なるほど。じゃあ薬草採集やりたい!」

 冒険者ギルドといえば薬草採集! 初心者の仕事といえば薬草採集!



 しかしミウは難しそうに顔をしかめた。

「ウードブリックには薬草採集の依頼はほとんどないと思います……ずっと南にあるプレーン町ならあるはずですが」

「えっ、マジで! 戦闘のない、初心者の基本じゃないんだ……」


「あー、このあたり、いい薬草が取れないんです。変わりに、初心者向けの採集系依頼ですと……この『ユビックの実』採集があります……でも、今は」


「えっ。ユビックの実が依頼になってるんだ……あえ!?」

 ミウの示す依頼表を見たとき、思わず変な声が出た。


----------------------------------------

【ユビックの実採集依頼】☆~☆☆☆

 ハイヒールポーションの原料であるユビックの実を集める。

 ユビックの実は黒の森にだけ自制する低木から採取できる。

 黒の森の魔物たちの食料になっているため、魔物を倒すと手に入ることもある。


依頼1・ 20個採集 大銀貨1枚(1個250円)

依頼2・150個採集  金貨3枚(1個400円)

依頼3・ 10個採集 大銀貨1枚(1個500円)

依頼4・ 50個採集 大銀貨7枚(1個700円)

依頼5・  5個採集  銀貨1枚(1個200円)

----------------------------------------


 ――え! ちょっと待って!

 数個どころか、キロ単位で持ってるんだけど! たぶん20キロぐらい?

 小さなどんぐりみたいな実は1個5グラムぐらい。

 単純計算で4000個ぐらいある、はず。


 平均とって一個400円としても、160万円になる。

 金貨で80枚ぶんかー。

 カッコ内は自分でわかりやすくなるよう計算した。


 意味がよくわからない。

 簡単に手に入ったのに。

 しかも難易度がC~Fになってる。



 という訳でミウに尋ねる。

「ねえ、なんでユビックの実、こんなに高いの?」


「大怪我すら治すハイヒールポーションと、病気や状態異常を瞬時に治すエクスキュアポーションの原料になるからです……でも最近特に値上がりしてて……昔は20個で銀貨1枚でした」

 ――1個50円だったのか。


「ポーションの需要が増えて供給が追いつかない?」


「はい。森に魔物が増えてユビックの実が取りづらくなりました。そして魔物が増えたので怪我や状態異常になる人が増えて、それで……」

 ミウはなぜか悲しげな顔で答えてくれた。

 耳がふにゃっと垂れている。



「供給は減ったのに需要が増えたのかー。そういや魔物が持ってたっけ……依頼によって値段が違うのは?」

「依頼者が違うからです。たぶん大口の注文者は他の町の商人、一番高いのはこの町の薬屋さんじゃないかと」


「なるほどね……じゃあ、1個辺りの単価が高い2つを受けてみよう。これと、これだね。大銀貨8枚になる」

「ええ!? 60個もですか!? 残り3日ですし、危険ですっ! 今はベテランでも一日10個見つかればいいほうって聞きます。一日で入れる範囲のユビックの実は取り付くされちゃってますからっ」



 ――ミストドラゴンがいるから、どの冒険者も日帰りになってしまう。


 僕はここから距離にして600キロぐらい北で取ってきたからなぁ。

 そりゃあ、人の入れない所にはたくさんあったはずだ。

 食料がないから、見つけたら採取してたけど、お金になるとは。


 ……これ、マーカー使えば大金持ちになれるんじゃない?

 供給しすぎたら値崩れしそうだけど。


 強いモンスターが出現してくれたおかげかな。

 やっぱり、しばらく様子を見よう。



 僕はミウの頭をポンポンと撫でて宥めた。

「大丈夫。もう持ってるから。旅の途中で拾ったんだ」

「え、それじゃ……パーティー組むのはよくないですね。働いてないのに報酬貰うことになっちゃう……」


 むむ。システム上、強制的にそうなるのか。

 どうしよう。

 よくよく考えると、お金の問題だけじゃないよなぁ。



 僕は何かと秘密が多い。一緒に冒険するパーティーにはそのことが知られてしまう。

 秘密を守ってもらえるだろうか。

 異世界で冒険者になって奴隷を買う話を結構読んだけど、秘密を知られないためってのは合理的だなぁ。

 

 むしろ、ミウに恩を売って黙っていてもらったほうがいいか。

 ミウの言葉の端々から、お金に困ってそうな雰囲気があるし。

 僕を裏切ると大金が手に入らなくなる、と思い込ませたほうが現状ではよさそうだ。

 


 僕は笑って言った。

「いや、一緒に行こう。ミウには世話になってるし。頭割りになっても問題ない。これからもよろしくね」

「い、いいのですか……?」


「その代わり、一つお願いがあるんだ」

「なんでしょう?」


「僕のスキルや魔法、人には喋らないでね――ある意味、口止め料だけど。喋ったらこの関係は終わりってことで」

「わ、わかりました」

 彼女は何か言いたそうに唇を震わせたが、結局何も言わなかった。



 僕は掲示板をさらに眺める。

「あとは……あった! ゴブリン退治」

----------------------------------------

【魔物退治……ゴブリン】☆

 ゴブリンを見つけて倒す。

 場所はどこでもいいが、できれば黒の森周辺のゴブリンが望ましい。

 1体につき銅貨10枚。

 ホブゴブリンや進化したゴブリンは銀貨1枚。

----------------------------------------

 初級の冒険者任務といったらこれですよ。

 薬草採集との双璧!


 ――討伐証明部位がマジックバッグに入ったままだからちょうどいい。

 そのまま出すより依頼受けてからのほうがランクポイントに反映されるし。


 グレートボアとバジリスクは、また今度にしよう。

 というか、バジリスクは☆3つだ。

 もう少し町が僕の存在に慣れてからのほうがよさそうだ。



「じゃあ、これも引き受けるよ」

「ま、まあ……ゴブリンぐらいなら……でも、あたし……」

「ううん。ミウは戦わなくていいから。僕が守る。安心して」


「はい……ごめんなさい」

 しゅんっと尻尾が足に巻きつくように垂れてしまった。

 役に立てないことが心苦しいようだ。


 ――まあ、彼女はそもそも天恵スキルにあった技能スキルを選んでいないせいだけど。

 仲良くなって言葉を信じてもらえるようになれば、いろいろ指導してみたいな。



 とりあえず、依頼の紙を3枚持ってカウンターへ行った。

 さっき僕を冒険者にしてくれた受付嬢、ドSのナタリーさんに紙を渡す。


 紫の髪を揺らして目を丸くする。

「大丈夫なの?」

「はい、できます」

 ――というかもう依頼品取得済みなんだけど。



 ナタリーの目がキラッと光る。

「……わかったわ。受理するわね。カード出して。リーダーはユートでいいのね?」

「はい、そうです」「お願いします」


 カードを重ねて穴あけパンチのような機械に置いた。

 ガチャンとレバーを下げる。

----------------------------------------

氏 名:ユート

ランク:F

登録国:オリザード王国

適 正:魔術師

備 考:パーティーリーダー(メンバー「ミウ」)

   :任務中(ユビックの実収集×2、ゴブリン退治)

----------------------------------------

 備考欄にパーティー情報と任務が書き足されていた。



「はい、カード。50個の依頼は3日後締め切りだから急いでね……うふふ」

 何か良からぬことを想像して笑っている。

 ぶつぶつと彼女が呟く「いきなり失敗、私直々のお仕置き……まだ蕾の少年に、あんなことやこんなことも……うふふっ」


 背筋がゾクッとした。

 僕とミウは逃げるように、ギルドの外へ出た。



 まだ昼間の、明るい大通り。

「じゃあ、森へ行ってみようか」

「ま、待ってくださいユートさん! その格好で行くんですか!? せめて防具ぐらいは……」


 自分の服装を見下ろす。

 ウィンドブレーカーにジーンズ。中はTシャツ。

 ……確かに冒険者っぽくないなぁ。着替えも欲しいところ。



「じゃあ、買い物してから行こう。ついでにお昼も食べちゃおう」

「はい! じゃあ、案内します!」


 ミウの猫耳が元気にピコピコと動く。

 彼女に連れられて町の中を歩いていった。

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