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第15話 夢と辺境町ウードブリック

 夢の中でエルフのフローリアとまた会った。

 真っ暗闇の中に立つ彼女は光り輝いて見える。


 均整の取れたプロポーション。大きな胸は柔らかく揺れて。

 金髪がふわりとはかなく流れる。

 そして、細い腕には僕がプレゼントした腕輪をしてくれていた。

 ――また会えるなんて。夢のようだ。夢だけど。



 でも彼女は悲しそうな顔をしていた。

「ひぅっ!? また、裸に……ユートさんが、どうして……っ」

 泣きそうな顔でうずくまって胸を隠す。細い手足でしゃがむ姿は可愛らしい。

 なだらかな背中が白く輝くように綺麗だった。


 ただ、そんな彼女の姿を見ていると、夢なのにとても悪いことをしている気分になる。

「なんだか、ごめん。でも、夢であえただけで嬉しい。いつ見ても綺麗だよ」

「ひゃうっ!? こ、これは夢じゃありません、ユートさんっ!」

「え?」



 胸を隠しながら涙目で訴えてくる。

「今、わたしは巫女の修行として夢命の間で瞑想中です。そしたら、なぜかユートさんが現れるようになったのですっ!」


「そ、そうだったんだ……え、まさか、昨日のも……」

 あの柔らかな肢体の感覚は、まだ手に残っていた。


 手をわきわきと動かしていると、フローリアは恥ずかしそうに顔を手で覆った。

「もう、お嫁にいけませんっ」

「それは、大丈夫」

「なんで、そんなことを言えるのですかっ」



「君をもらうのは僕だから」

「な、なっ、なっ!」

 彼女は、ぼうっと湯気でも出すように頬を染めた。長い耳まで赤い。


 ――自分でも大胆だなと思うけれど、なんだか夢を見ているようで、普段より積極的になれていた。



「でも、裸で瞑想するんだね」

「ち、違います! これはユートさんのイメージが強すぎるから上書きされたのですっ! どうして裸なんですかっ!」


 ――なんでだろう?

 考えたら、すぐにわかった。


「それはたぶん。初めて見たとき裸だったし。一緒にいた間は服着てた時間より、裸の時間のほうが長かったし……それに」

「な、なんです?」

 怯える声で問い返してきた。


 僕ははっきりとした声で答える。

「裸のフローリアを抱き締めた思い出が強すぎて忘れられない」



 ふにゃ~、と彼女は床に崩れ落ちた。金髪が広がる。

「だとしたら、ますます裸にされてしまいますっ」


「なんだか、ごめん。次から服を着てるとこを想像するよ……でも、正直、裸しか覚えてない。美しすぎて」

「もうっ! ユートさんは……」

 泣きそうに歪める顔すら、名画のように美しい。


 しかし彼女が言い終わる前に、夢から目が覚めた。


       ◇  ◇  ◇


 ドンドンドン、と扉が叩かれる音がする。

 寝惚けた目で窓の外を見ると明るくなっていた。


 廊下から高く澄んだ声が響く。

「お兄ちゃん、まだ寝てるの? 朝食できたよー!」

「ああ、ニーナ、ありがとう。すぐ行く」



 フローリアの美しさを思い返しながら、ベッドから起きた。

 体がだるい。寝足りないのか寝すぎたのか。

 真理眼で見るとMPは全快していた。


 ――というかさっきの夢で聞いた話は本当なのだろうか?

 ただ単に彼女を見たいという無意識の欲求が発露している夢なのかもしれないけど。

 本当なら対策を考えないと。彼女に嫌われてしまう。


 うーん、でも夢の中なので。

 なんというか、欲望が垂れ流しになってしまう……。



 考えながら部屋を出ると、少女のニーナが笑顔で待っていた。

「おはよう、お兄ちゃん! また、おうた教えて!」

「いいとも――」

 また適当に童謡を教えた。


 どんな歌でも喜んでくれた。

 ただ、こっちの知識では意味不明な歌はやめておいた。

 古時計とか、こいのぼりとか。尋ねたけど大きな時計やこいのぼりが存在しない。


 兎と亀ならいいと思ったが、これは不評だった。

 この世界の亀はめっちゃ速いらしい。

 風魔法で浮いてホバー走行をするそうだ。見てみたい。



 歌といえば本当はアメージンググレースが好きだけど、英語の歌詞なので思い出せなかった。

 天恵スキル『前世記憶』じゃ役に立たない。

 もっと高性能なスキルがあれば……いや、なかったよな?

 使い方を間違っているのだろうか?


 真理眼でステータスを見る。前世記憶のヘルプを開く。

 すると、検索窓があることに気が付いた。

 試しに「アメージンググレース」を入力。

 今まで聞いたアメージンググレースがたくさん出てきた。カバーしてる歌手ごとに微妙に違う。

 そして歌詞まで載っていた。

 いける!

 

 教えるの大変そうだけど。



 一階の酒場へ向かいながら、ニーナの歌声に耳を傾ける。

 そうするうちにあっという間に一階酒場へ付いた。

「もっともっと教えて~!」


 ニーナの柔らかな茶髪をぽんぽんと撫でながら言う。

「また暇なときにね。ちゃんと教えるから」

「うん! 絶対だからねっ!」



 それから朝食を食べ、ニーナに歌を教え、グラハムに連れられて村を出た。

「おう、言ってくるぞ。アネッサ、留守番頼んだ」

「はいはい、いってらっしゃい」


 髭が伸び放題のグラハム、僕、それに猫獣人ミウ。

 ほかに大人が3人ついてくる。集団疎開している子供たちを迎えに行くためだった。

 

 ――あ。

 グラハムにはまた会うこともありそうだし、村の近くにマーカー作っとこう。

 転移したところを見られても面倒なので、村から少し離れた丘の茂みにマーカーを設置した。


       ◇  ◇  ◇


 3時間ほど歩いた頃。

 黒の森の南に位置する町、ウードブリックに着いた。


 町へ入る人々が行列を作っている。

 門番が一人一人入念にチェックしていた。



 そんな行列の横を、グラハムを先頭にして僕たちが通り過ぎていく。

 門の横にある黒い玉にグラハムがどこからともなくカードを取り出して近づけた。

 バスケットボールぐらいの玉が金色に光り出す。


「よお、通るぜ。グラハム村、5名と冒険者1名だ。帰りは4名と子供たちだな」


 門番が気付いて直立不動の姿勢をとる。

「グラハムさま! どうぞお通りくださいませ!」

「おう、仕事頑張りな」



 何気ない会話だが、周りの人々はざわざわしている。

「金色に光った……Sランクか」「初めて見た」「あれが剣聖グラハムさん……」


 ――やはり超有名人な様子。

 村人や旅人、商人まで、みんな驚いている。


 ああ、僕は気付いていない設定だったな。

 ここで明かしておいたほうがいいか。



 町を囲う高い街壁の下を通るときにグラハムへ声を掛けた。大げさな感じで。

「ひょっとして……グラハムさんって、あの剣聖で、救国の英雄のグラハムさん!?」

「なんだよ、今頃気がついたのかよ。遅ぇよ! ――そうだ、俺がグラハム・マクリーンだ」


「えええ! 冒険者の憧れの人じゃないですか、てっきり同名の別人かと!」

「はっはっは! お前、賢いのか、抜けてるのかわかんねぇ奴だな!」

 グラハムは渋い笑みを浮かべて豪快に笑った。ごわごわした髭が揺れる。


 ――この人の豪快な笑い声、はじめて聞いたかも。

 やっぱり、気付かなかったのが相当印象悪かったようだ。

 当たり前か。



「なんだか、すいません。気付かなくて」

「いいんだよ。まあ、お前みたいなふてぶてしい奴が、将来大物になる。俺の勘に間違いねぇな」

「ありがとうございます」


 グラハムは振り返ると大人3人に言った。

「じゃあ、お前たちは子供たちのところに行っといてくれ。俺はこいつをギルドに連れてくから」

「了解です!」



 村人と別れ、土がむき出しの大通りを歩く。

 昨日、次元千里眼ですでに見た町。

 石造りやレンガ造りの建物が並ぶ、中世西欧風の町並み。


 ただ実際に歩くと、町の雰囲気が違って感じられた。

 人々が行き交い、馬車が通り抜ける。注意を促す御者の声。

 野菜や果物を売る店や、魔物や獣の肉を売る店が大声を上げる。



 当然、冒険者がらみの店も多い。

 武器屋、防具屋、魔導具屋。薬屋、素材買い取り屋。

 荷馬車が何台も止まっている。つまり商品の売買が多いのだろう。


 露店や屋台も多い。

 街中の道に、スペースがあるとそこで露店が出ている。


 建物跡のような空き地には、個人出品者がシートを広げて商品を並べ、フリーマーケットのような状態になっている。

 とても活気がある町だった。



 僕は前を歩くグラハムに尋ねる。

「人が多いですね。でも治安は良さそうだ」

「ここは黒の森に近いからな。警備や入町審査が厳しいし、珍しい一品を得ようとベテランの冒険者が集まる――お」


 ザッザッザッ!

 と、大通りの前から全身鎧を来た集団が百名ほどやってきた。全員、大斧を持っている。

 グラハムを見つけて、全員がビシッと敬礼しながら通り過ぎる。



「あれは……?」

「このウードブリックに駐屯する王立騎士団だ。通称、きこり騎士団。黒の森の木を切って、森の拡大を防いでる」

「なるほど。だから全員斧装備なんですね」


 ――ただ、真理眼で見ると、たいした騎士はいなかった。

 天恵スキル持ちも少ない。

 あ、グラハムを見抜けなかったことを反省して、すれ違う人はいちいちチェックしてる。

 今のところ目を引く人はいなかった。



 そうこうするうちに、町の中央にある大きな建物に着いた。

 周囲は役所や騎士団詰め所なので、本当に中心だ。

「ここが冒険者ギルドだ。まあ、ここは目立つところにあるから、迷わないと思うがな」

 グラハムがニヤリと笑う。


 一方で、無口だった猫獣人ミウがますます縮こまるように肩を落としていた。

 猫耳がへにゃっと伏せられている。

 ――任務失敗したせいか。



 でも、そんな彼女には申し訳ないけど、僕の心はウキウキと弾んでいた。

 三階建ての黒い石造りの建物を見上げる。

「ここが冒険者ギルドかぁ……」


 いろんなゲームや物語で知っている、あの冒険者ギルド。

 すでに心臓の高鳴りが抑えられなかった。

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