第14話 お礼ラッシュ
湖の底にいた変態ヒュージスライムを倒した僕は、子供たちを助け出してから水を元に戻した。
スライムの巨体が消えたため、6割ぐらいの水位になった。
村の中央にある酒場まで帰ると、子供たちが駆け出した。
中に入るなり泣きながら叫ぶ。
「おとーさぁぁん!」「ままぁぁっ!」「母さんっ!」
「うおおお!」「ああっ! よく無事で!」「怪我はないかいっ!?」
中へ入ると親子は全員抱き合って泣いていた。
周りの大人たちも泣き笑いで喜んでいる。
その光景を見ていると、嬉しさがこみ上げてくる。
――うん、手の内が少しばれた気がするけど、それでも助けることができてよかったな。
ニーナが笑顔でカウンターにいる父の元へ駆けていく。
「おとーさん! すごいの! あのね、あのね! 池に、とーっても大きなスライムがいたの! それをね、お兄ちゃんがやっつけたの!」
グラハムは太い眉をぐいっと上げて僕を見る。
「本当か?」
「はい、ヒュージスライムでした。透明の」
アネッサが僕の手を引いて、微笑みながらカウンターへ向かう。
「本当よ。この目で見たわ。あんなに大きなヒュージスライム見たの、生まれて初めてよ」
「そんなに? ヌゴロ山で退治したやつよりもか?」
アネッサはおかしそうに笑いつつ首を振る。
「そんなもんじゃないわ。あれの10倍、いや20倍……だって、村の池と同じぐらいの大きさだったんだから」
大人たちがどよどよとざわめく。
「マジかよ!」「池に魔物が住んでたのか!」「全然気付かなかったわ!」
「今にして思えば、兆候はあったのよね。池、水路工事、その他いろいろ。でも想像を絶する大きさだから、誰もそのおかしさに気付けなかったのよ」
アネッサが仕方が無いというように、肩をすくめた。
――と。
僕の後ろから申し訳なさそうに、猫獣人の少女が顔を出した。粗末な鎧を着ている。
今にも泣き出しそうだ。
「あ、あの。グラハムさん。仕事完遂することができず、申し訳ありませんでした……」
グラハムがぶっきらぼうに手を振った。
「気にするな。ミウは冒険者としてよくやった。俺やアネッサでも気付けなかったんだから、ミウには責任はない。むしろ生きててくれてよかった。頑張ったな」
Sランク冒険者にして英雄の労いの言葉に、ミウは顔を覆って泣きだした。
そう。この子は冒険者なのだった!
子供の行方不明が出始めた頃に、冒険者ギルドから依頼を受けて調査に来たうちの一人だった。
真理眼で見る。
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名前:ミウ
種族:猫獣人
性別:女
年齢:14
職業:Fランク冒険者
天恵:探求Lv4、精密手、超聴覚、忍び足、内気、泣き虫、借りてきた猫
技能:剣術Lv1、弓術Lv1、鍵罠解除Lv3、逃げ足Lv2、料理Lv2、調合Lv1
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探求スキルが宝の持ち腐れになってる気がする。
大学教授とか合いそう。この世界、研究で食べていけるのかわからないけど。
あと14歳に驚いた。
冒険者って15歳からしかなれないのかと思ったけど、それは人間の場合だけで。
獣人は13歳からなれるそうだ。
そして内気系のマイナス天恵スキルを3つも取っている。生きにくそうだ。
グラハムが僕を見た。
「ユート。お前、すげぇな。ひょっとしたら俺を越える逸材かもな」
「ありがとうございます」
「で、どうやって、そんな化け物倒したんだ? というかどうやって気付いた?」
ニーナがきゃっきゃと喜んで話し出す。
「あのね、それはね! ――んぅ」
アネッサが少女の口を押さえた。
「ニーナちゃん。それは言わない約束でしょ」
「……んぅ」
口を押さえられて、こくこくと頷くニーナ。
「あとでグラハムにだけは、説明しておくわ――まあ、とびきりの奇想天外な方法だったんだから」
「ほぉ……そいつぁ楽しみだ」
グラハムは髭面を撫でながら、ニヤリと笑った。
頭の薄くなった初老の男が傍へ来た。目が真っ赤に泣き腫らしている。
腰には幼い少年がしがみついて泣いていた。
「ユートさん。うちの子を助けていただいてありがとうございました。本当に、なんとお礼を言ってよいやら。――もう、会えないと、思っていました……うぅっ」
また泣き出してしまう。
「いえ、本当に無事でよかったです。僕も嬉しいです」
思わず微笑んでいた。素直な気持ちだった。
すると初老の男は涙を拭ってから言った。
「申し遅れました。私はこの村の村長をしておりますロバートと言います。ユートさんにはできる限りのお礼がしたいのですが……」
「本当ですか!? 実は僕……冒険者になりたいんです。でも、田舎から出てきて身分証明が無くて、保証してくれる人もいなくて……」
グラハムが苦い顔をして横から口を挟んできた。
「そいつは、ちょっと早いんじゃないか? 身分を保証した側は、お前がやらかした時の責任を取ることになるんだぜ?」
ロバート村長がしっかりした声で反論する。
「グラハムさん、私にとっては子供こそが命。ユートさんは命の恩人です。保証するぐらいなんでもない――」
「ああ、わかったわかった。ぶっちゃけ、俺は役に立てなかった責任がある。こいつの保証は俺がしよう。ロバートは身分証明の発行をしてやってくれ。――それでいいな? ユート」
グラハムは手をひらひら振って話を打ち切った。
僕は頭を下げた。
「ありがとうございます、グラハムさん、ロバートさん。とても嬉しいです」
グラハムがアネッサに目を向けた。
「ところでこいつの実力はどの程度だった?」
「ん~、そうね。能力的にはBか、それ以上の力はあるわ。発想力も素晴らしい……ただ、身のこなしからみて戦闘経験は少なそう。それに考え込むと周りへの注意が疎かになるから、まだまだ冒険慣れしてないわね。ソロはまだ危険。Dか、よくてCかしら?」
――結構しっかり観察されてたっぽい。
周りの大人たちもどよめく。
「すげぇ高評価だ!」「あのアネッサさんが、そこまで言うなんてっ」「こいつぁは将来が楽しみだぜ」
グラハムが肩をすくめる。
「まあ、しょうがねぇな――おい、ユート。顔に疲れが出てるぞ。もう休むか?」
「そうですね。実はほぼ徹夜の旅だったので、眠くなってきました」
徹夜よりもMP2200使って次元倉庫作ったのが影響していた。
グラハムは厨房へ向かいながらぶっきらぼうに言った。
「じゃ、ちょっと待ってろ。肉団子のスープ作ってやる。今日はそれ食べて、体暖かくして寝ろ」
「ありがとうございます」
カウンターに座って待つことにする。
すると子供の親たちが次々に来た。
涙ながらにお礼を言ってくれる。
「ありがとうございます、ユートさん!」「あなたは私たち家族の英雄です!」「いや、村の救世主だ!」「本当に、ありがとうございました!」
こうも素直なお礼の波状攻撃をされると、少し照れくさかった。
――助けることができてよかった。
獣人のミウも何度も頭を下げてきた。
「助けてくれてありがとうです。もうほんとにダメかと思ってました。困ったことがあったら、何でも言ってください」
「ありがとう。冒険者の先輩だから、いろいろ教えてください」
「あ、あたしが教えることなんて……」
赤くした顔を恥ずかしそうに手で覆った。耳がピッピッと戸惑うように跳ねた。
ニーナが傍へ来る。
「よかったね、お兄ちゃん!」
「うん。ニーナもありがとう」
頭を撫でてやると、えへへっと笑った。
しばらくして肉団子のスープが提供された。
熱々のスープはよく煮込まれていて肉も野菜も崩れるように柔らかく、舌で押しつぶせるぐらい。
ほろほろと口の中で崩れていく。
当然、染み出した旨味が複雑に絡み合い、とてもおいしかった。
体が芯から温まっていく。
それから二階の部屋に入った。
ベッドに倒れこんだとたん、スイッチが切れたかのように即効眠った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
次話からようやく冒険者になります。
ですが、普通は異世界にチート転生したら、もう少しハーレムを意識するのではと思ったので全体的に少し修正します。
タイトルとあらすじも少し変えるかも。
では、また。