くちびるに花
窓を開ければ
朝の光が入るような単純さで
日々を受け入れられたのなら
啜るこの珈琲のように
いつか苦みにも慣れていくのだろうか
並べた靴の踵が
すんなりと入らない
そんな小さな引っ掛かりに
気を取られ
そして忘れ去る日々
道端の花の名を覚えても
披露する機会もないから
口の中で反芻する
唇からひらひらと
こぼれ落ちる花びら
電車のドアから
流れ出る人波に逆らわずに
辿り着く場所はやさしいだろうか
過ぎ行く景色の中で
私を追い続ける太陽
口の中の青臭い苦み
想いに名付けることを
止めたとしても
その色で
その香りで
咲きつづけるから
寂しさは名づけられずとも
寂しいかたちで
胸にあって
本当は
恋しいものすべて並べて
ぜんぶ欲しがっている
珈琲の中の渦
靴擦れは傷なんかじゃないなんて
決めつけないで
それからの日々も
それまでの日々も
人ごみに流され
途方に暮れても
微動だにしない
壁の花になりたくはない
想いに名付けることを
止めたとしても
道端の花の名を
片っ端から上げて
歩きつづける
いつか忘れ去ろうとも
そこに咲いてなお
揺れつづける
花の名前を口ずさんでいる