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完璧な原発

作者: さきら天悟

「我が国の原子力発電所は完璧です」

T国政治指導者は民衆に向かって声を張り上げた。


「事故などありえません。

我が国の科学のすいを集めました」


指導者は一つ間を置いた。


「災害対策もしっかり行っています。

みなさんが被害をこうむることはありえません」


指導者の演説は続く。

T国の産業発展は目覚ましかった。

これにより人口が集まり、さらに産業の発展に拍車をかけた。

しかし、問題があった。

エネルギーである。

火力発電により電力を賄っていたが、原油の高騰、

中東情勢が不安定で安定的な資源確保に影をさしていた。

そこで注目されたのが、原子力発電だった。

わずかな物質から莫大なエネルギーを得る。

これはアインシュタインの相対性理論に基づく、画期的な発電方法だった。

しかし、危険もある。

もし事故があれば放射性物質に汚染されるのである。

放射線により、人のDNAパターンが破壊され、癌が発生する。

人はある程度DNAが破壊されても、自己補修するのだが、

その修復能力を超えると癌になってしまうのだ。

しかし、エネルギー問題は深刻だった。

T国の民衆は危険の認識に覆いをかぶせ、原発建設を容認した。

そしてT国の郊外に原発が建設されたのだった。




それから20年が経った。

T国近辺で大地震が起こった。

震源から離れていたが、高層ビルは大いに揺れた。

しかし、耐震基準を満たしたビルの倒壊は全くなかった。

しかし、驚くべき一報が届いた。

原子力発電所が被災したのだ。

地震には耐えたようだが、津波に襲われた。

津波は核燃料の冷却用電源設備を飲み込み、洗い流した。

冷却できない核燃料は核分裂を抑制できず、

ついには原子炉をメルトダウンさせた。

冷却水は沸騰し、爆発的に水蒸気となり、屋根を吹き飛ばし、

そこから放射性汚染物資がまき散らされた。

また汚染された冷却水が大量に海へと流れだしたのだった。




「われわれの原発は完璧でした」

T国の政治指導者は民衆に説明した。

民衆はテレビを見いった。

被災に遭った原子力発電所の周辺地域から非難する人々が映された。

T国の民衆は家で暖を取りテレビを見ていた。

T国の周辺では電力が止められていたのだが。


「原発を建したF国では多少の被害がありました。

しかし、原発事故での我が国の被害はほとんどありませんでした。

完璧な原発でした」

T国の民衆はほっとした。






「これこそが、日本の元凶です。

『保育園落ちた。日本死ね』も根は同じです」

彼は地方出身だった。

地元は奈良、坂部といった。


「福島の原発事故の責任は東京都民の責任です。

なぜ、東京電力が福島や新潟に原子力発電所を建設する必要があるのです。

東京都民にとっては、確かに完璧な原発だったでしょう。

原発被害はまったくない。

それにあれだけの事故を起こしても、電気代はそれほど上がらない。

そして今さら原発が危険だと騒ぐ。

そもそも東京の人間が原発を非難する権利がないんです」


観衆は声を上げた。

地元の駅前には大勢の民衆が坂部の演説を聞き入っていた。


「首都を遷都させましょう」

民衆がさらに声を上げる。


「日本の問題解決、発展にはこれしかないのです」




『完璧な原発』というショートストーリーが作られ、各地で話題となっていた。

地方の過疎・高齢化、少子化、日本の閉塞感・・・

その影響か、多くの問題が首都遷都で解決できるという雰囲気が出来つつあった。

もちろん仕掛けているのは坂部ら地方出身の与党政治家だった。

野党議員らとも連携し、新党を立ち上げる準備もしていた。

党名は『首都遷とう』、名前はダジャレだが、

どこかの政党とは異なり目的が明確だった。

そして全議員の半数が参加の意を固めていた。


だが、この話は国民にとって唐突だった。

東京オリンピックが終わると、すぐに噴き出したのだ。

しかし、坂部らは地下で黙々と計画を進めていた。

東京オリンピックを誘致し、外国人に土地を売りつける。

そして、オリンピック後に首都遷都を発表する。

だから、情報を漏らさずにいたのだ。

「この計画は実現する」と坂部は幹部らに呟いたという。

誰もこの情報を漏らさなかったのだ。



2020年、東京対地方の戦いが始まった。

首都を奪い合うという戦いが。

果たして日本に明るい未来が来るのだろうか。


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