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「帰ってこねぇな、兄ちゃんと姉ちゃん……」

「そうですね……」

 心配そうに少年が呟き、智多は曖昧に笑って答えた。本当は、智多も心配でたまらないのだろう。先ほどから、奏響に渡された腕輪にしきりに触れている。そんな二人の元へ、芳萬が近寄ってくる。

「あの二人なら大丈夫だよ。ああ見えて二人とも一騎当千のツワモノなんだからね。それよりも、もう随分と遅い刻限だよ。子どもは早く寝ちまいな」

 そう言いながら、芳萬は二人を寝床へ入れようとする。その時だ。

 チリン……という微かな音を、智多の腕輪が発した。その音に、智多と芳萬はハッと顔を強張らせる。だが、事情を知らない少年は不思議そうな顔で智多の腕輪を見ている。

「何だ? その腕輪。鈴がいっぱいついてるけど、お前のいた村じゃそんなのが流行ってたのか?」

「え? ……えぇ、まぁ、そんなところです。ところで、僕は寝る前に忠龍さん達が帰ってきていないかちょっと様子を見てきます。すぐに戻りますので、先に寝ていてください」

 そう言って、智多は戸口の方へと足を向けた。途中、芳萬と目が合う。芳萬は無言で頷くと、少年を促して寝床へと入れた。すると、やはり眠さが限界だったのだろう。すぐに静かな寝息が聞こえ始めた。それを確認して、智多は外へ出た。空気は予想以上に冷たいが、今の智多は空気の冷たさよりも忠龍に何が起こったかの方が気にかかる。

 奏響は、腕輪が鳴ったら智多を迎えに来ると言っていた。その言葉を信じて、智多は辺りを見渡した。辺りはシンと静まりかえっている。だが、暫くすると、村の出入り口の方から何やら音が聞こえ始める。それは、風の音のようだが足音のようにも聞こえる。

 やがて、智多の前で一陣の風が巻き起こった。そして、それが止むと同時に奏響、放風、文叔の三人が智多の前に姿を現す。

「おかえりなさい、奏響さん、放風さん。それと……陛下!? 何故ここに!?」

 思いもよらぬ出来事に、智多が目を丸くした。すると、説明する間も惜しいと言わんばかりに、放風が言う。

「話は後だ。智多、察しはついているだろうが、忠龍達に何かが起こったらしい。すぐに援護に向かうぞ!」

「はっ、はい!」

 智多が答えるや否や、奏響が智多を抱き上げ、背に負ぶった。そして、またもや何か呪文を唱えると、奏響、放風、文叔は再びつむじ風を巻き上げながら走り出した。

 目的地は、忠龍と月華のいる場所。月華が髪に結えた鈴の音が、それを奏響に教えてくれる。奏響を先頭に、三人はただひたすらに走る。

 その途中、走りながら放風は道端に何かが落ちているのに気付いた。月の光を受けて鈍く輝くそれを見て、放風は歩みを止めた。その様子に気付いた奏響と文叔も、足を止める。

 そして、放風の見付けたそれを見て、智多を含めた全員が顔を曇らせた。それは、見間違える筈もない。忠龍が常に腰に帯びている剣だった。

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