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第七話 皆様、執事は家族ではありませんよ?

言葉って大切ですね。

「初めまして。この度、望月様の好意によりホームステイさせて頂くことになりました、モリス・ヴルド・ハーカーと申します。ヴルドとお呼びください


 和室の一室。中年の男性と女性を前に頭を下げました。勿論正座でございます。

 向こうでいう応接室なのでしょう。

 お二人の奥には肖像画の代わりに風景の書かれた紙。質素ながらも決してみすぼらしさを感じさせない、素晴らしい絵です。

 靴を脱いで部屋に入るというのも、少し風変わりな気がいたしますが、こちらの文化ならば従うのが道理でございましょう。


「こ、これはこれは御丁寧に。私が望月神社の神主を務めます、望月直次と申します」

「妻の望月椎名と申します。自分の家だと思って寛いでいってくださいね?」


 お二人のたたずまいは非常に凛としております。どこかの猫背の中年とは違い背筋を伸ばし、こちらの礼に対してしっかりと返礼をしてくださいました。


「しかし、佳奈がホームステイさせたいなんて言うとは思ってもみなかったよ」


 私のすぐ隣におり、膝の上に玖珠奈様を抱えていた佳奈様が直次さまの言葉に笑い出しました。


「あ、あはははは。その、異文化交流っていう意味だと私の家だといいと思いまして。あ、あはははははは」 

「佳奈様、なぜそんなに笑っているのですか?」

「え? い、いや、そこは尋ねないでくださいぃ」


 なんとも変わっておられます。嘘を言うときに笑う癖でもあるのでしょうか。


「しかし、ヴルド君は日本語が上手いんだね」

「はい。ご主人様に習いましたので」

「ご主人様?」

「あ、お父さん。ヴルドさんは幼い頃からずっと執事をしてたんだって」

「ほう、執事を」

 

 感心したように頷かれますが、自分はそのために生まれたのですから、感心されるようなものでもございません。


「はい。自分、向こうでは執事をしておりました。ですので、こちらでも同様に扱っていただけますと嬉しく思います」

「というと?」

「はい。ですので、何かご命令が御座いましたら何なりとお申し付けください。初めは勝手が分からず、ご迷惑をおかけしてしまうかもしれませんが、全身全霊をおかけてしてお仕えしたいと思います」


 しかし、直次様は浮かない顔でございます。お隣の椎名様も困った顔でございます。


「う~ん。だが、ヴルド君はこちらに異文化交流が目的でホームステイしにきたのだろう? それなのに、小間使いのようにするのは……」

「ええ。それに私達もどういう風にすればいいのか、分からないですし。だから普通にしてくれてていいのよ?」

「いえ、自分にとって普通が執事なのです。自分は生まれた時から執事として生きてまいりました。それ以外を知りません。人に仕えてないときに何をすればいいのかも分かりません。人に仕えていた方が楽なのです。……どうなされました?」

「君は、どんな人生を……」

「まぁ……」


 ……今度からこの手の話は辞めたほうが良いのでしょうか。またしてもひどく同情されております。


「異文化交流という点でも、大変良いと思っております。自分は様々なことを申し付けられることにより、こちらの生活が分かります。皆様方は自分の住んでいた御方の文化を知ることができます。異文化交流でございます」

「だが……」

「ええ。その、私達も困るというか、ねぇ?」


 中々頷いて下さいません。どうすればよいのでしょうか。


「ヴルドさんは、どうしてもそういうのが良いのかい?」

「はい。正直申しまして、自由を与えられてもやることが大してございません」

「ふむ……。なら、こうしよう。君は今日から家族だ」

「家族、でございますか」

「ああ。だから、家族にものを頼むのは当たり前だろ? だから、僕たちもそのつもりで接するから、ヴルド君も僕たちを家族だと思って接してくれるかい?」

「お父さん。素晴らしい考え方だと思います!」

「ふふ、それならいいわね。私も男の子が欲しかったの」

「ヴルド、お兄ちゃん?」


 おそらく、開いた口が開かないとはこのことなのでしょうか。どうすればいいのでしょうか。

 執事としての扱いを求めましたら家族としての扱いになりそうです。

 皆様方はそれを望んでいるようですが……。こういうとき、どういう風にすればいいのでしょうか。


「駄目、なのかい?」

「自分は執事でございます。執事の自分が皆様の家族など、あまりに分不相応かと……。そのお心は大変嬉しく思いますが……」

「そう、か……」


 直次様が腕を組んで黙られてしまいました。そのまま、他の皆様方も黙ってしまわれてしまい、自分としてはどうすればいいのか困ってしまいます。

 どうなるのでしょうか、と思っていますと、パンッと両手を叩いたのは椎名さまでした。

 

「じゃあ、こうしましょう。あなたを執事として認めます」

「椎名さん?」

「お母さん!」

「ありがとうございます」


 直次様と佳奈様が驚いておられますが、一番いい解決方法でございます。誰もがハッピーになれる方法なのですから。


「それではお願いがあります」

「なんなりと」

「私の息子になってちょうだい?」

「……はい?」


 非常に難しい命題でございます。執事ですから、命令は絶対。しかし、そうしますと家族になり執事ではなくなる。そうすると、執事じゃなくなり、命令を聞く必要がなく、断ることができます。 ですが、そうすると執事として働くことになり、命令がががががががが――――――――――――――エラー。削除いたします。

「ヴルドさん?」

「――はい。大丈夫です」


 少し機能が停止していたようです。佳奈様に声をかけて頂くまで、止まっていたようです。

 仕方がありません。身に余る光栄でございますが、その身分を頂きましょう。 


「かしこまりました。そういうことでしたら……。ただし、自分の言葉遣いはこのままでさせて頂きます。そして、こちらはあくまで執事として務めさせて頂きます。皆様方は自分をどういう風に扱おうと問題はございません」

「ヴルドさん、頑固ですね」

「申し訳ありません。しかし、家族ですか……」


 大変困ったことが御座います。


「あ、そっか……」


 言いよどんだことで佳奈様もお気付きになられたようです。口元に手を当てて、言葉を詰まらせました。

 自分と佳奈様の行動に不審さを感じられたようで、直次さまがお声をおかけになられました。


「佳奈どうしたんだい?」

 

 その言葉に佳奈様はこちらを見つめます。……一体どういう意味でこちらに視線を向けてきたのでしょうか。

 さすがに視線で会話をできるほど、自分の性能は良くないのですが。何か言いたいことがあるのなら言ってくださらないと困ります。

 

「ヴルドさん、言っていいですか?」

「何かは分かりませんが、どうぞ」


 そう言いますと、佳奈様は頷くと姿勢をただし、玖珠奈様をお膝の上からお降ろしました。降ろされた玖珠奈様はお眠りになっておられます。よほど、心地よかったのでしょう。 


「お父さん、お母さん。ヴルドさん、両親がいないんです……。生まれた時からずっと一人で、ヴルドさんのご主人様が執事として育ててたみたいで。だから、学校にも行ってないし、人と関わるのもお客として来るマリーさんっていう人ぐらいみたいで。だから、こうして人と一緒に居るの初めてだそうです」

「……そうだったのか。だからさっきの言葉」

「それは……」

「ですが、それについては自分はご主人様には感謝しております。ご主人様が居られませんでしたら自分は生きていけませんでした」

「けれど、学校ぐらいは……」

「いえ、ご主人様が住んでいる場所は人里離れた場所でして、電気や水、ガスが通ってないような奥深くなのです。そこから人が住む場所に通うのは不可能でございます。それにご主人様が『お前に学校など必要ない』と申されましたので」


 それに付け加え『お前を学校に通わせてみろ。何をしでかすのか分かったもんじゃない』とおっしゃれましたので、思わず階段から突き落としてしまいました。非常に失礼な方でございます。

 

「そうか……。ヴルド君、大変な目に遭ってきたんだね」

「泣いていいのよ?」


 もう、どうすればいいのでしょうか。目の前のお二人の目元には涙があります。もう、ここまでくると何を言っても無駄ではないのでしょうか。


「いえ、マリー様が時折顔を見せてくださって、色んなことを教えてくださったので」

「そう。良い人もいたのね」


 マリー様は人ではないのですが。まぁ、人型ではありますので間違ってはおりません。


「ええ。とても良い御方です。前も、マスターの所から自分の所に来るようにおっしゃってくださったことがあるのです」


 様々なことを教えてくださいました。マスターのいじり方。マスターへの暴言の吐き方。マスターへの嫌がらせの仕方。本当に素晴らしい方です。


「そうか。……よしっ! 今日からよろしく頼むよ。ヴルド君、いや、ヴルド。お前はここでは私達の息子だ。君は私達をどう呼んでくれても良い。だが、もしこうして暮らしていく中で、僕たちを家族として見れる様になったら父さん、と呼んでくれないか?」

「父さん、ですか?」

「ああ。駄目かい?」

「……かしこまりました」


 家族としてみる、というのがよく分かりませんが、そういう条件なら承諾です。

 そうすると、椎名さまも嬉しそうに聞いてきました。


「それじゃあ、私もお母さんって呼んでくれる?」

「はい」

「それじゃあ、私はお姉ちゃんって呼んでくれる?」

「お断りさせて頂きます」

「何でですかっ!?」

「いえ、誕生日を確認したところ、自分のほうが生まれたのが早いので」


 姉とは自分よりも年上の対しての言葉です。つまり、年上ではない佳奈様には当てはまりません。


「うう、まさか、自分の誕生日を恨むことになるなんて思いも、っは!? なら、ヴルドさんはお兄ちゃんですか?」

「流石に自分をお兄ちゃん扱いされるのはどうかと思いますが?」

「良いです! お兄ちゃんです!」

「……かしこまりました。呼び名はお好きなように呼んでくださって構いません」

「玖珠奈は……寝てるか。まぁ、また後で良いだろう。じゃあ、改めて。ヴルド、これからよろしくな」


 そう言って直次さまが右手を差し出してきました。


「はい、よろしくお願いします」


 握り返しながら返事をしましたが、確か男性が女性のご家族に挨拶するときにする挨拶があったはずです。

 ここまで丁寧にされたのならお返ししませんと参りません。それに直次さまの要望も入っておりますのでよりよい関係を築くことができると判断します。


「お義父さん。娘さんをどうか私に下さい」


 勿論、土下座を忘れておりません。ロボット、ヴルド。執事としてしっかりします。



望月家から見たご主人様。

ヴルドを幼い頃から働かせている鬼畜な人。しかも、学校に行かせもせず、日々こき使っている。しかも、人と関わりを持たせないようにして、自由を奪っている。まさしく酷い人。

 マリーさん

 そんな中でもヴルドを優しく育てた心優しい人。


 こうやって書くとマスターが酷い人に見えます。ただのロリコンなだけなのに。

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