第五話 望月様、お疲れならお休みした方が良いですよ?
ついに彼女の家に。
駅からタクシーというものに乗り、灰色の建物たちに別れを告げると、どんどん住宅街に入っていき、ついにはそれさえも抜けていきました。
しかし、それも終わると、広い場所に抜け、止まりました。
「着きましたよ」
「ここですか? この作りかけの門みたいなものは何でしょうか」
大きな人工物が自分達の前にあります。白色の石造りで、上部のほうに太い紐がぶら下がっています。不思議です。
「作りかけじゃありません。鳥居です」
「鳥居ですか……」
しかし、赤くありません。鳥居は赤いものだと聞きました。つまり、これは鳥居じゃないです。
「嘘ですね」
「何でですか!」
「鳥居は赤いです。赤くないですから鳥居ではありません」
「いえ、その赤くはないですけど、これも立派な鳥居です」
「そう、ですか。赤くない鳥居もあるのですか……」
なんとなくガッカリです。これではイギリスにあるストーンヘンジと変わりません。行ったことがないので分かりませんが。
「なんだか不服そうですね」
「いえ、そのようなことは。ただ、ガッカリしただけなので」
「それを不服というんです。……まぁいいです。それよりもこちらです。社務所が家になっておりますので」
「社務所、ですか?」
「え~と、事務所です」
「……神社とは経営なんですね?」
「う~。違うけど違うって言い切れないのがつらいです」
「なるほど。ですからお金が。資金繰りが良くないのですね」
「違いますからっ! 今さっきの嘘を本気にしないでくださいと言ったじゃないですか!」
「ですが、経営難なら仕方がないのでは?」
「違いますっ! 経営難には陥ってません! って、経営ではないです! 神社はそういう目的じゃないですから!」
「ところであの建物は?」
「またスルー!?」
「あそこに住むわけじゃないですよね?」
「聞いて下さい!」
しかし、あの神殿のようなものは何でしょうか? 紐がぶら下がっています。上には謎の物体です。おそらく、音が鳴るはずです。
鳴らして、何か……。ああ、お客様の来訪を告げるベルですね。マリー様はいつも気が付いたらお城におられますので、ベルが使用されたことがありませんが。
「あのベルでお客様の来訪を知らせるのですね」
「違います」
「なら、あのベルは?」
「ベルではありません、鈴なんですが……。あれは下にあるお賽銭箱にお金を入れて、鳴らすんです。そうして、って何してるんですか!」
「いえ、実際にやってみようかと思いまして」
お賽銭箱の前に立っていると、望月様がすぐにやってこられました。
早速、お金を入れましょう。マリー様から頂いたお金です。なぜだか、マスターが非常に恨めしそうな顔をしておりましたが、些細なことでしょう。日本円に変わっているらしいのでよいのでしょう。
しかし、自分初めてのお金です。ある程度の知識はありますが、こういう場合どれくらい入れるものなのでしょうか。
とりあえず、お札を一枚――。
「基本的に五円玉を入れるのが常識です」
「そうでしたか。それでは……生憎五円玉がないのですが……」
なんということでしょうか。五円玉がなければ試すことができないではありませんか。
「いえ、別に五円玉じゃなくても良いんですが……」
「ならお札にいたしましょう」
「他の小銭はありませんか!?」
「ええ。百円玉がありました」
「なら、それにしてください」
「はい」
百円玉をお賽銭箱に投げ入れ、紐を振って。鈴を鳴らしました。
「変わった音ですね」
ベルのような澄んだ音ではありませんが、体に響くような音です。
「ええ。そして、二回頭を下げて、二回手を打つ。その時に何か願い事をするんです。終えたらもう一度頭を下げてください」
「願い事ですか?」
願い事? 願い事願い事……。考えたことがありませんね。
「何でもいいんですよ? ああなってくれたらいいな、とか。そんなものでもいいんです」
「でしたらあります」
ますは頭を二回下げます。そして二回手を打つ。そして願い事。
……マスターが流水の中に落ちて苦しみますように。そして、髪の毛がさらに少なっていますように。
今度は終えたらもう一度頭を下げる。
「完了いたしました」
「はい。願い事が叶うといいですね」
「……? つまり、これは何なのでしょうか?」
「神様にお願いする場所です」
「なるほど。……詐欺ですか?」
「違います! 一体どういう考えをしたらそうなるのですか!」
「いえ、願い事が叶うという餌を吊り下げて、人を釣り、お金を払わせるというのはケインさん(仮)が詐欺にあったという投稿がありまして」
「それとは違います! 私達はあくまで皆様が主体性を持ってやってもらっているのです」
「まぁ、自分は警察ではないので」
「違うって言ってるじゃないですか!」
「それでは社務所に参りましょう」
「……もう、いや……」
崩れ落ちてしまわれました。
なぜだか、大変お疲れの御様子です。何かあったのでしょうか。
社務所は自分達がいた場所から少し離れた所に立っておりました。
「ここが社務所です。簡単に説明いたしますと、ここではお守りなどを販売しております」
「説明感謝いたします」
「せ、説明終了です。他に質問ないですよね? ありませんよね?」
「はい。お守りについては知っております」
「よ、良かったです」
しかしどうしたのでしょうか、どこか怯えているようにも思えます。まるで、自分からの質問を怖がっているようです。
やはり、分からないことを質問するのはあまり良くないようです。
少しでもこの地に慣れ、望月様のご迷惑をおかけしないようにと努力をしていたのですが。
やはり、人は吸血鬼や魔女の方とは勝手が違うのですね。難しいものです。
さて、次はもう一人のヒロイン候補が。