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第四話 望月様、禿げてはいませんので安心してください。

ついにここで『こちら側』の正体が判明です。

「これが日本ですか……」


 騒々しいです。空港内も騒がしいと思っていましたが外とは比べ物になりません。こんな中で人が住でいるのでしょうか。しかも、太陽が眩しいです。普段、外に出ることもほとんどなく。あるとしても大抵夜中。そんな自分が太陽の眩しさに耐えられるはずがありません。

 恐るべき人間。このような音と光の中で暮らしていけるとは。

 聴覚、視覚レベルを引き下げます。

 …………終了。これで今の自分は人間とほぼ同列レベルです。……なるほど、これなら人間の音もさほど気になりません。太陽の刺激にも耐えられます。


「どうでしょうか、初めての日本は」

「はい。初めて見る建物や、人で一杯です」


 お城から空港まではマリー様が用意してくださった車での移動だったので、街を見ることもありませんでした。

 雑誌で見た建物とは違うのは場所が違うからでしょうか。


「望月様、普段からこんなにたくさんの人がいるのですか?」

「たくさん、っていうほど居ませんよ」

「そうなのですか? ですが、手では数えきれないほどの人が歩いていますが」


 こんなに居て、人々は名前を覚えきれるのでしょうか。自分なら可能ですが、人もそんなに記憶力が良いのでしょうか。


「それくらいならいつもです。休日ならもっと人が集まりますよ」

「これ以上、ですか……」

「ヴルドさんの住んでいた場所って、どんなところなんですか?」

「そうですね。森の中です。人が訪れることなんてありません。せいぜいマリー様ぐらいです。マリー様が食料などを届けてくださるのです」 

「そんなに田舎なんですか?」

「はい。少なくとも自分はマリー様以外に訪れた相手を知りません」


 マスターに言わせれば結界を抜けてくるマリー様が規格外だそうですが。正直、規格外で助かります。マスター以外と会わないなんて拷問も良い所です。


「そんなところがあるなんて。逆に見てみたいですね」

「望月様には面白味のない場所かと思います」


 あるのは研究書などばかり。自分は興味がありません。マスターの謎の研究を手伝う気もありませんし、そのような命令も受けておりません。

 唯一の娯楽はマリー様が持ってきてくださる雑誌ぐらいです。それ以外がひたすら部屋の管理にマスターの世話。それ以外には何もない場所なのです。


「そう言われるとますます気になりますね」


 望月様は変わっておられます。しかし、今の自分は気になることがあります。


「望月様、あの光ってるのは何ですか?」


 凄いです。青かと思ったら黄色がついて、最後には赤になりました。しかも、色の点灯時間がバラバラです。けれど、車たちがあの光に従ってるのは分かりました。青は進んでいい。赤は駄目。……黄色は何でしょうか。進んでる車も進んでない車もあります。なんというか、不思議です。


「え? あれは信号ですよ。イギリスにもありますよね?」

「初めてみました。あれの原動力は一体何なのです? もしかして電気というものですか?」


 まさか、あの中で人が一々蝋燭を灯しているのでしょうか。さすがにあの小さな中に人が入ってるとは思えません。

 懸命に原理を考えておりますと、隣からクスクスという音が聞こえます。何の音でしょうか。見ると、望月様が何かを堪えるように口を抑えてます。……吐きそうなのでしょうか。

 でしたら……どうしましょうか。今までけが人や病人を診たことがありません。取り敢えず尋ねましょう。話はそれからです。


「どうかしました?」

「いえ、ただまるで何もないところから来た人みたいに言うんですから」

「笑いを堪えていたのですか」

「え?」

「いえ。お気になさらないでください」


 笑いを堪えるとああいう風になるのですね。初めて見ました。マリー様が笑うときもマスターが笑うときもしっかりと表情を見せてくださるので分かるのですが。

 口元を抑えられますと、見えなくて判断できません。けれど、これで判断は出来るようになりました。しかし、何がおかしいのでしょうか。


「事実です。私が住んでいる場所には電気もガスでしたか? ありませんし、水が勝手に出てくることもありません。灯りは蝋燭。火を起こすには木を。水を使うには井戸を使用してまいりました」

「え? そんな場所あるんですか?」

「はい」


 逆に自分からしたらこの世界にびっくりです。世界はこんなに進んでいることにびっくりです。


「だったら、こっちで色んなことを知りましょう!」

「いえ、それよりも自分はあなたの記録係ですのでしっかりとお勤めを果たさせていただきます」

「そうですか」

「それでは行きましょう。御両親の方に見てもらい、判子を押してもらわないといけない書類がありますので」

「…………えっと、その……」

「どうなされました?」


 唐突に視線を逸らし始め、モジモジと太もも同士をすり合わせ始めました。この場合への対処は。


「お手洗いはここから南南東五十メートル先にありますが」

「違います!」

「そうでしたか。てっきり、そうだとばかり」


 けれど、顔を真っ赤にして怒らなくてもいいと思います。自分は排出物がないので分からないですが、そういう格好する場合があると聞いたことがあったのですが。


「うう、その。ね? 怒らないで聞いて欲しいんですが」

「はい? なんでしょう」

「その、私がそちら側の協力者に入ろうとしてるのを親に言ってないんです」

「おや、それは」


 今回のテストについての書類の検索開始―――――――――――――――――――終了


  こちら側、『人外』の協力者への登録には十八歳以下は親の承諾が必要です。これは重大な規約違反です。

 『人外』と関わりを持つということは非常にメリットが多い分、危険が大きい筈です。毎年、死者だってでております。

 その面から保護下にある子供には親の承諾書が必要なのですが。


「お願いです! どうか、内密にしてください!」

「そうは申されましても、規約違反ですのでテストを受ける資格さえありません」

「そこをお願いします!」

「いえ、そうは申されましても」


 頭を下げられても困ります。何しろ、自分は記録係なのですから。自分ができるのは記録するぐらいです。それ以外の命令を受けておりません。


「……分かりました」

「それじゃあ!」

「いえ、分かりましたのはあなたが規約違反しているという点のみです。望月様には大変申し訳ありませんが、この場合の対応での自分は命令を受けておりません」

「じゃあ、どうするんですか?」

「なので、このことを本部に報告させていただきます。その結果が返ってくるまでは望月様の要望に沿わせていただき、ご家族には黙っております」

「……はい……」


 頭を垂れて元気がなくなりました。

 しかし、ならばなぜわざわざ親の承諾を得ようとしないのでしょうか。たしか、彼女の家は神道の神社。つまり、どちらかといえば『人外』の世界に近いです。

 何か悪霊や、魔物が発生した場合にこちら側に対処するよう要望ができるのですから御両親が喜ぶのではないでしょうか。


「望月様はなぜ、『こちら側』の協力者になろうとしているのですか?」

「それは…………お金が欲しいんです」

「なるほど。分かりやすいですね」


 確かに『人外』への協力者になると、お金がもらえます。何しろ、危険な目に遭う可能性があるのですから当然です。

 何か厄介ごとが起きたら即座に調査、そしてこちら側に報告。現地調査員という奴です。その結果、魔物に美味しく食べられてしまった方々もそれなりになります。やはり、人間はお金が必要なようです。


「嘘です! 今の嘘を本気にしないでください! 私どれだけがめつい人間になってるんですか!」


 顔を真っ赤にして怒って詰め寄ってきました。何を怒っているのでしょうか。


「いえ、所詮人間なんて金で動くから、と。ご主人様がおっしゃっておられましたので」

「どれだけ捻くれてるんですか! 人はそれだけじゃ動きません!」

「ええ知っています。食べ物がないと動かないですね」

「そういう意味じゃありません!」

「何を怒っているのですか? 禿げてしまわれますよ?」

「禿から離れて下さい!」

「いえ、すでにご主人様から離れていますが?」

「話題から! そもそもご主人様ってなんですか! その人禿げてるんですか!?」

「ええ。面白いぐらいに」

「面白いんですか!?」

「マリー様が爆笑しながら少ない髪の毛を抜く程度には」

「可哀想です! 死人に鞭を打たないでください!」

「いえ、ご主人様は元々死人のようなものですから良いんです」

「良くないです!」 

「それで、なぜこちらに?」

「今までの話スルー!? ……もう、いいです。もう行きましょう」

「はい。それでは参りましょう」 

 

 なぜだか非常にお疲れの御様子の望月様に従って歩き始めました。

 望月様が何故だか、マスターと同様の感覚を受けます。

 なので、マスターと同じような扱いでも問題はないのでしょうか。検証が必要ですね。


ヴルドの中ではある程度、望月佳奈の扱いは決まりかけています。彼女の心労が大変なことになりそうです。


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