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第一話 マスター。その白衣いい加減に脱いでください。汚いです。

ロボットと吸血鬼。魔女の三人の掛け合いを楽しんでいただければ幸いです。

そして、感想や指摘があるとハッピーです。それではお楽しみ頂けることを願いまして。始まりです。

 ここはカース城。ヨーロッパのとある森の奥深く。誰もが訪れないような場所にひっそりと立っております。

城壁には蔦が絡まり、おどろおどろぢく佇む姿はまさしくヴァンパイアが住みそうな場所です。


「マスター。マスターどこですかー?」


 そんな中、自分はここの主の方にお仕えしております。

 マスターの名はクルセッド・ヘルシング・カーター。吸血鬼でございます。しかし、そのマスターなのですがどこに行ったのか、不明なのです。

 部屋の数も馬鹿にならないですし、人を探すとなるとこうして大きな声を出しながら歩き回るしかありません。

 書斎や、実験室を探したのですがおりません。ですが、あのマスターが外に行くはずもないので、この城のどこかに居るとは思いますが。

 三分と二十秒立ちました。普段なら良いのですが、お客様を待たせておりますので時間には気を使わないとなりません。

 ……仕方ありません。こうなったら別の手段に切り替えです。

 

 「まぁー」


 右手をグーにします。


「すぅー」


 思いっきり腕の可動領域一杯まで後ろに引きます。そして。


「たぁー!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 壁に叩きつけます。


 ゴォォォン! 


 あら不思議、このお城自体が呼び出しベルに早変わりです。

 声をさらに張り上げて、思いっきり壁をぶん殴ると轟音とともに城全体が揺れました。

 元々、このお城は古いのでこのように自分が思いっきりぶん殴ると面白いぐらいに揺れるのです。

 いえ、面倒になったわけではありませんよ? ただ、いつまでも声を出しながら探し出すのは非情に非効率的だと判断したからです。

 パラパラと天井から落ちてくる埃が執事服についてしまいました。

 けれど、こうした行為は無駄ではなかったようです。

 見慣れた白衣姿の禿げた中年のおじさんがやってきます。……カンカンに怒りながら。


「ヴールードー! そうやって毎回毎回呼ぶのをやめろと言っているだろうが! お前はこの歴史あるカース城を壊す気なのか!? お前のその馬鹿力のせいで図書館の本棚が崩れたわ!」

「申し訳ありません。しかし、お客様がお待ちです」

「客? 私にか?」

「はい。お友達もいないマスターにです」


 うさん気に聞き返してきますが、事実なだけにそう返すしかありません。しかし、なぜだかマスターがさらに怒り出しました。カルシウムが足りないのでしょうか?


「お前は人の気持ちを考えたことがあるのか! そうやって毎回毎回毎回、ことあるごとに人の悪口を。お前に人としての心は持ち合わせていないのか!」

「……マスター。訂正する点が御座います。一点目、まずマスターは人間ではなく、吸血鬼でございます。二点目に私も人ではなくロボットです。ですので心は持ち合わせておりません。三点目に悪口ではなく、嫌がらせです」

「お前、本当に最悪だな!」

「マスター似ですので。そう思うと自分が哀れでなりません。慰謝料を要求いたします」

「この状況で!?」

「普段、禿げて、でっぷりと肥えた、メガネをかけた中年おっさんと四六時中居ればそうなります」

「お前、一度分解するぞ!」

「マスターはそのような酷いことをする方ではありませんので」

「こういうときだけ人を持ち上げるな」

「……そのような――」

「だからと言って、叩き落とすようなことを言うなよ!? 一体、その手の悪口を誰に習ったんだか……」

 

 チッ、思わず舌打ちをします。こういう風に執事の先を読み取るのはマスターの悪いくせだと思います。


「もういい。それで? 客ってのは?」

「それは――」

「私だよ」


 私の後ろに気が付けば一人の女性が立っておられました。応接室にお通ししていたのですが我慢ができずに来られたようです。

 綺麗な赤い髪。それを一纏めに結んでおり、全身を黒いラバースーツで身を包んでいます。一見外の世界で言うバイクという乗り物にお乗りになる方のようですが、由緒正しき魔女の家系の方だそうです。外見上の年齢は二十歳ほどでしょうが、実年齢は三桁に到達して久しいそうです。

 お客様の前に立ってマスターとの会話を邪魔するわけには参りません。

 慌てて壁の側に立ちます。


「げ、何だ貴様か」

「げ、とは御挨拶じゃないか。人がせっかく引き籠りの吸血鬼に会いに来てやったっていうのに」

「貴様に来てもらって嬉しいことなんてないわ!」


 そう言って怒っていますが、自分はちゃんと知っています。彼女が来て帰った後、顔を真っ赤にして楽しそうに足を踏み鳴らしているのを。まるで、子供が言い合いで負けて癇癪を起してるみたいで非常に楽しそうでした。


「ったく、そうやってイライラするから禿げるんだよ。ヴルド、お前この剥げたおっさんと居て疲れないのか?」

「…………………………いえ。マスターのために尽くすのがロボットである自分の役目ですので」

「いやっ! お前、すごい間があっただろ! しかもだったらなんでそんな嫌そうに言うんだよ!」

「いえ、その。疲れるということが分からないので。戸惑っただけです。ええ」

「ほんとにヴルドは良い執事だなー。お前が私の屋敷に居てくれたらどれだけありがたいか」

「お前もお前だ! 毎回毎回やってきてはヴルドに変なことを教え込みやがって!」

「おいおい、そりゃお前がちゃんと教育してやらないからだろ?」

「こいつに教育は必要ない! 必要なことは最低限備えさせている」


 はい、それは事実です。目が覚めた時から自分は喋れましたし、服の着方からお世話の仕方までメモリーに記録されていました。まぁ、それ以外は何一つ分からずにマリー様が時折来て下さり、様々なことを教えてくださいましたが。

 いわば自分にとってマリー様は教育係なのです。人間でいう母親という奴でしょうか。


「いいか、このヴルドは失敗作なんだ!」

「たく、このヴルドのどこが失敗なんだか」

「いいか! ロボットというのはだな、『マスター。ゴヨウケンハナンデショウカ』と言った風にカクカク動きながらロボット声じゃないと駄目なんだよ!」

「「フッ」」


 そう言って実践して見せるマスターの姿を眺めた自分とマリー様は鼻で笑いました

 非常に滑稽ですが、どうも本気過ぎて笑いを取るには足りなかったのです。マスターにお笑いの道は厳しそうです。まぁ、マスターは存在が滑稽なのでいいのですが。

 マスターも自分渾身のギャグが受けなかったのが恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にして喋り出しました。


「こいつ見てみろ! 傍から見ればただの人間。声だって抑揚だってある。ほぼ人間なんだよ! 性能は人間を通り越して俺のような吸血鬼とだって戦える。だけど、ロマンがないだろうが! 辛うじてロマンがあるとしたらこいつが人間の感情をまだ理解しきれてない程度だ! いいか! ロボットで許されるのは男性型はカクカク! 女性型はドジっ子メイドのみだ!」

「まず、自分を男性の人間そっくりに作った時点でアウトだと思います。そして、恐らくですが世の人間たちの科学者の目指す場所が自分だと自負しているのですが」


 マリー様が時折持ってきてくださる書物の中から得た知識を披露してみます。実を言いますと私は今まで外の世界を見たことがありません。ですので、こうしてマリー様が持ってきてくださる書物は大変楽しみなのです。


「ったく、その通り。ヴルドはまず間違いなく最高傑作だよ。それなのに、ただのロマンのせいで失敗作扱いとは。可哀想に」


 頭を撫でながらそう言ってきます。マリー様のほうが背が高いので違和感はないのですが、なんというか、こうされますと。何かエラーのようなものが。上手く、こう分からないものが……。

 それを伝えますと、マスターは面白くなさそうな顔をし、マリー様は嬉しそうに笑うと。


「くく、ヴルドは本当に可愛いな!」


 ますます頭を撫でまわされました。

 自分、何かおかしなことを言ったでしょうか?

 

吸血鬼だからってイケメンって限らないよね。

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