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デモグラフィー  作者: paper driver
旧山梨県甲州市⇒旧山梨県甲府市
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労働の産物⑤

ダイヤモンドの石言葉は永遠の絆、純潔、不屈、初投稿です。

 鉄パイプでいくら殴ったところで俺の体は壊れない。対して荷台に乗った八人はどこを突いても死にそうだった。俺は服やリュックサックを引っ張られながら杉山の奴らを鉄パイプで片っ端から殴っていった。それでも彼らは夢、努力、希望、愛を口にしながら襲いかかるのを止めなかった。

 襲いかかる狂気を鉄パイプで払いながら、俺の目に警告が映る。残余電力が残り五十パーセントを切った。栄養錠剤だけで一週間は駆動できる俺の体だが、これだけ高出力の運動を続ければ電池切れもありえた。

 闇夜で光が煌めく。

 杉山の誰かが投げたものだった。ビンに燃える布を詰めたそれは火炎瓶だった。

 火炎瓶は弧を描いて車の荷台へと落ちていく。


「やめろ!」


 俺はそれを阻止しようとして跳躍するが、数人がかりで足を引っ張られて地面へと転倒した。火炎瓶が荷台へ命中する。広がる炎が八人を焼きつくす。彼らはうめき声も挙げずに一瞬で火葬された。残余電力の半分近くを費やした成果だった。


「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!」


 背中を鉄パイプで叩かれながらも、俺は声を上げて、地面を殴った。軽トラックの荷台から上がった炎の光が、責めるように大地に俺の影を落とす。

 そのとき、奴らに動揺が走った。杉山たちが足音を立てて逃げ去っていく。


「おい! 大丈夫か!」


 吾郎の声だった。甲州の人々だった。



「気になって、来てみたんだがエラいことになってるなおい」


 吾郎に抱き起こされて立ち上がる。空は白んでいた。もうすぐ朝だった。


「荷台を見てくれ」


 俺が言うと、吾郎が支持して中年の男が荷台を覗きこんだ。


「何だこりゃ、ひでぇな」


 と、男は言った。


「生きてる奴はいるか?」


 俺が訊ねると、男は首を横に振った。

 素晴らしい結果だった。足元には俺が合成ダイヤモンドで撃ち殺し、鉄パイプで撲殺した杉山の人間が大勢転がっていた。助けようとした人間よりも、殺した数の方が多かった。これで日本人は絶滅にまた一歩近づいたわけだ。


「取り敢えず食え」


 吾郎から握り飯を渡された。


「洋子ちゃんからのお礼だ。それから一体何があったんだ?」


 俺は握り飯を食べ、水を飲みながら経緯を話した。


「それでこれからどうする?」


 吾郎が訪ねた。


「奴らの社長に会ってくる」


 俺はそう言って立ち上がった。名前も知らない八人のために、社長には今日限りで会社を畳んでいただくとにしよう。


「俺も付き合うぜ」


 吾郎が言う。


「お前がいれば杉山の奴らを叩き潰せる!」


 こうして即席の討伐隊が出来上がった。剣と槍の代わりに鉄パイプを持って、魔物の軍団を率いる経営者の下へ向かった。



 再び県庁に辿り着いた頃には、すっかり明るくなっていた。歩哨の姿は無かった。代わりに県庁の屋上にはっぴを着た人間が何人か見えた。見張りだろうかと思ったが、次の瞬間、別の人間に突き飛ばされて地面に落下して死んだ。


「おいおい、何だありゃ。まさか捕まった人間じゃ……」


 吾郎が言った。


「いや、制裁だろう」


 捕まえた人間には逃げられ、トラックを盗まれ、人員を失ったのだ。ただでさえ減った仲間を更に減らしていく光景は、ここまで来ると面白かった。知らないとはいえ、追撃の手が迫っているという現状では尚更だ。屋上の人間が俺達に気がつく。


「無職だ! 解雇しろ!」


 無職を解雇とは面白い言葉だった。俺は奴らが殺した人間の死体を跨いで県庁へ入った。

 建物の中には多くの杉山がはっぴを来て俺達に襲いかかってきた。しかし睡眠不足と疲労で簡単に倒されていった。唯一の例外は廊下からやってきたパワードスーツだった。


「あれは俺に任せてくれ。お前らは上の階を頼む」


 吾郎にそう言って俺は走り、パワードスーツに飛び蹴りを放った。アームスーツは尻もちを付いて廊下を滑っていく。ダメージはなさそうだった。迎撃モードのスイッチが入っている。左腕を展開して武装乙で対応したいところだが、残存電力五十パーセントの状態では非常事態モードを除いて撃てなかった。パワードスーツの銃口がこちらを向く。俺は手近なドアを突き破って部屋へ飛び込んだ。

 部屋は物置のようだった。部屋の隅に置かれた缶から、ガソリンの匂いが漂っていた。パワードスーツが壁を突き破って部屋に入ってくる。俺はガソリンの缶を掴んでパワードスーツに投げつけた。ガソリンが撒き散らされる。突撃型パワードスーツは毒ガスなどの化学兵器に対抗するために気密性が高い。さて、お前はどうかな。

 俺はパワードスーツに近づき、Yシャツの下から給電用の二本のプラグを出し、接触させてスパークさせた。火花が散ってガソリンが燃え上がる。


「熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い」


 パワードスーツが手足をバタバタとさせて焼けていった。両手に付いた散弾銃の弾丸がパンパンパンと暴発する音が響く。俺は素早く部屋を出て屋上へ向かった。

続きは明日の六時に予約投稿しておきます。

次で終わりです(完結するとは言っていない)。

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