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デモグラフィー  作者: paper driver
旧山梨県甲州市⇒旧山梨県甲府市
5/41

労働の産物①

天使は怯える奴に翼を与えるので初投稿です。

 杉山、杉山、杉山、甲州の人々は杉山を恐れていた。そして恐れは大概、現実となるものだ。


「大変です、市長、杉山の奴らが来ました!」


 息を切らせて若者がそう伝えると、竹村市長は


「分かった。お前は飯村さんの方を、俺は田んぼと畑の方へ行ってくる!」


 命じられた若者は、先ほどライブラリを使っていた洋子という女の歩いて行った方へ走り去っていく。


「杉山とは何です? 敵対している集落ですか?」


 俺が訊ねると竹村市長は頷いて「三年ほど前から『県庁』に住み着いた変な奴らです。今頃の時期なると食い物と人間を奪いにやってくるんだよ」


と言う。


「あんたは危ないから図書館にいてください。あそこは皆の避難所なんで」


「いえ、僕も現場に行きます」


 俺は竹村市長と連れ立って走った。


「これも調査です」



 村長と共に田んぼと畑で作業する人々を図書館まで避難させると、俺は戦える人々と一緒に杉山の発見現場へと急いだ。現場は昨日、俺が拘束された場所だった。銃の発砲音が鳴り響く忙しない風景を想像していたが、聞こえるのは人間の叫び声と鉄パイプが交響曲を奏でていた。時折、ビルの上で空気銃のアクセントが付いた。地味で締りのない演奏会だった。

 杉山たちは何故か皆、シャツの上に祭りのはっぴを来ていた。それで敵味方の区別が付いた。


「ほら、あんたも」


と、隣の若者から鉄パイプを受け取った。白い塗料が付着し、端から薄っすらとサビつき始めたアンティークだ。


「やれやれ」


 俺は前線に飛び出すと、杉山の一人が


「解雇ぉ!」


と訳のわからないことを言いながら突っ込んで来た。俺が鉄パイプを槍のように素早く突き出す。鉄パイプがみぞおちに入って、相手は腹を抱えて倒れた。続く二人目は角材を振り下ろしてきたが、それを鉄パイプで受け、俺は素早く脇腹に一撃を叩き込んだ。それで相手は悶絶した。

 倒れこんだ男に甲州の男が追い打ちをかけようと鉄パイプを振り上げる。

 

 よせ。

 

 そう言うまでもなく、振り上げた鉄パイプを下ろすことが出来ず、男は蹴りを入れた。

 結局、俺の二撃で杉山は撤退を決めたらしい。倒れた男を背負って、奴らは退却していった。


「やるな兄ちゃん!」


 昨日、俺を市長のところに連行した初老の男、確か吾郎が言った。

 周りを見回すが、多少の負傷者はいるものの、死傷者はいなかった。杉山、甲州、共に被害は無い。抗争というよりも喧嘩に近い争いだ。


「しかし妙だな」


 吾郎が言う。


「何がだ?」


と、俺は説明を促す。


「奴ら、白いあれを出してこない」


「白いあれ?」


 何だそれは、と言う前に若者が一人、図書館の方面から駆けつけてくる。遅い援軍というわけではなさそうだ。


「井上さんのところに出た!」


 若者は言う。


「パワードスーツだ!」


「くそっ、こっちは囮か!」吾郎が舌打ちして「あいつらにも脳みそがちゃんと付いてたんだな!」


 俺は鉄パイプを持って素早く駆けた。井上さんの、というとあの若者が最初に向かっていった先だろう。図書館を通り過ぎ、道なりに進んでいくと大きなトタン張りの建物が見え、そばには白いパワードスーツと、それに抱えられた洋子の姿があった。

 パワードスーツはハリボテのように厚い装甲が特徴の突撃型だった。所々に歪な補修跡が有り、肩には『陸上自衛隊北富士駐屯地』と書かれていた。

 人は見かけによらないというが、この場合もそうだろう。東京では自衛隊は既に警察と合流して消滅していた。 

 俺はパワードスーツの足に組み付いて、関節に鉄パイプを突き立る。正規のスーツならば異物混入を防ぐためのダストカバーが付いているはずだったが、補修されたこのスーツにはそれが外れていた。

 スーツの装着者は


「わぁぁぁ! わぁぁぁ!」


と抱えた洋子を離して両手をがむしゃらに振る。

 俺はスーツの足から手を離し、地面に転がり、起き上がって洋子を抱えて図書館へ走った。

 バン、という炸裂音と共に俺の背中に衝撃が走った。

 後ろを見ると、パワードスーツの腕に装着された銃口がこちらに向いていた。空気銃のようなおもちゃではなかった。火薬の入った正真正銘の火器だ。

 マズルフラッシュがカメラのフラッシュのように光る。

 遅れて散弾が、俺の顔面に突き刺さった。

 首を支点に頭が後ろに傾く。洋子の下敷きとなるように、俺は後頭部から地面へ叩きつけられた。 

続きは明日投稿します。

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