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デモグラフィー  作者: paper driver
旧山梨県甲府市⇒旧静岡県富士宮市
17/41

魂の病⑦

フリーダムウォーズやってたら投稿すんの忘れてたヤバイヤバイ、初投稿です。

 雨足は強くなる一方だった。先ほどまで白かった曇り空は、鈍重な灰色に変わっていく。雷鳴が地平線の彼方から轟いた。何も聞こえず、何も見えないくらいになった外では、ブラジル系移民たちが慌てて屋内に引っ込んだ。だが憶えておけ、悪魔は誰もいない通りにひっそりと現れるのだ。

 水を纏った体を武器工場の窓に叩きつける。撥水性のスーツは、体を揺らすだけで水滴をばら撒いた。悪意も暴力も水に溶けない類のものだった。俺は工場二階の手すりに激突した。工場の中は大きな吹き抜けとなっていて、俺がいるのは作業用の手すりの一つらしい。

 移民たちはまだ俺に気づいていないようだった。雨音の大合唱は、人間の聴覚を麻痺させていた。

 俺はまず建物の内部を見回す。

 工場の内部は雑多な機械に溢れていたが、彼らが使っている機械は言っ種類しかなく、しかも驚くほど単純なものだった。

 車ほどの大きさの黒い箱が五つ並んでいる。箱にはそれぞれ一つずつノートパソコンが繋がれていて、制御は全てそれで行うらしい。ブラジル系移民の一人が、箱の上に金属の粉末を注いでいた。それが銃やら薬莢やらに変わるようだった。箱から次々と出てくる部品を、彼らは丁寧に磨いて仕上げる。組み立てると銃になった。

 少し離れたところには粉末や液体の入った薬瓶が並び、調合している奴らがいた。どうやら火薬もハンドメイドのようだった。流石にジェット燃料はここでは作っていないようだった。

 雨音に混じって怒号が聞こえた。びしょ濡れになった移民の一人がこちらに気がついた。銃弾が飛んでくる。好都合だ。反撃の口実が出来た。

 俺は一階へ飛び降り、武装した人間たちになけなしのダイアモンドをくれてやった。

 倒れた奴らの銃を奪って、戦闘員をあらかた片付ける。作業中の人間は、既に逃げさっていた。精々、遠くへ逃げるがいい。俺の目的は黒い箱とノートパソコンだった。どうやら黒い箱は3Dプリンターの一種らしい。金属粉末をレーザーと一緒に発射し、焼結させていくことで金属部品を製造する機械だ。ユニオンが奴らにもたらした技術のようだった。俺は知恵の実を食ったアダムとイブを楽園から追放するような気持ちでそれらを破壊し尽くした。次に外へ出て、ジェット燃料のプラントを探した。プラントは隣の建物にあった。

 元々は倉庫として使っていたらしいそこにはドラム缶ほどのタンクが六個ほど並び、ストープに灯油を入れるように小さなポンプから原油を給油しているようだった。果たしてそこには誰もいなかった。俺は早速、生成タンクの破壊にとりかかった。俺がやったことは単純だ。生成タンクにさきほどの武器工場にあった火薬を入れて、火を着けた布を放り込んだ。六つのタンクは次々と爆発していった。

 これでやるべきことは全てやった。あとは通信中継基地を復活させるだけだった。


「やったな」


 振り返り、右手を構える。その先には白人種の老人がいた。武器は持っていなかった。俺の右手が元に戻る。


「あんた日本人だな。ちょっと前に黒い服を着た中国人がきたとかでみんなが騒いでた。でも背広着た中国人がこのあたりにいるはずがねぇ」


「アンタだって厳密には日本人だろう。あの中国系移民もだ。ここは日本だからな」



「まずは礼を言わせてくれ」


「礼だと?」


 老人は日本語を流暢に話した。彼の子供の頃には、おそらくこの辺りにまだ日本人がいたのだろう。


「こうでもしなくては、止まらなかったろう。長年、村を率いてきた私だが、若い奴らはもう言うことを聞かない。銃と空飛ぶ服を来て支配者気取りだ」


 そう言いながら、老人は戸口に立てかけてあったパイプ椅子を開いて腰を据えた。援軍を呼ぶための時間稼ぎかもしれない。俺は警戒を怠らなかった。だがあえてそういう素振りを見せずに


「アンタは違うのか?」


 老人は首を振って


「二年前、あいつらが来た」


「リユニオン?」


「俺がいけなかった。日本語を話せるのは俺だけだったからな。あいつらの口車に乗って、武器を作る方法、燃料を作る方法を教わった。ジェット燃料の原油をどこからか持ってきたものあいつらだ。この建物の裏にある。武器さえあれば平和になると思った。俺達には分別があると思った」


「ところがそうじゃなかった?」


 愚問だった。結果を見れば明らかなことだった。


「ああ、いたぶられれば、いたぶられた奴の気持ちが分かると思ったんだが」


「そりゃそうだ、イジメられて育った犬がまっすぐ育つかよ」


「難しいもんだな、平和ってもんは」


 そのとき、ガーンと銃声が響いた。老人が肩から血を流して倒れた。


「おい、爺さん!」


 直後に建物に入ってきたのは中国系移民だった。さっきの武器工場にあったおこぼれだろう。アサルトライフルを揚々と掲げてこちらに親しげな笑みを浮かべた。やったな、これが正義だ、とでも言うように。彼らは老人に銃を向けた。止める間もなかった。老人は銃で頭を撃たれてとどめを刺された。

 一人が老人の亡骸につばを吐いた。そして勝利の凱歌を上げた。

 俺はこの場にいる人間という人間を皆殺しにしようと思ったが、俺の腕は人間のままだった。息絶えた老人の冷たい眼差しが、殺意の炎を揺らめかせる。行こう、こんなところはすぐに離れるべきだ。俺は通信中継所を直して、一刻も早く愛知へ行くべく建物の出口を目指した。



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人種差別は魂の病だ。

どんな伝染病よりも多くの人を殺す。

悲劇はその治療法が手の届くところにあるのに、

まだつかみとれていないことだ。

         ”ネルソン・マンデラ”

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 だが話はこれで終わらなかった。

 俺が建物の出口から出ようとした時、すさまじい爆発が起きた。中国人と俺は派手に吹き飛びながら、粉々になった建物と共に外へ吐出された。空には兵装ステーションにありったけのミサイルを積んだ軍用のヘリコプターが音もなく飛んでいた。

 ヘリコプターからロープが垂れて、黒い影が降りて来た。

今日の読売新聞の見出しが開幕人口減で草。

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