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デモグラフィー  作者: paper driver
旧山梨県甲府市⇒旧静岡県富士宮市
16/41

魂の病⑥

久しぶりにパラサイトイヴ2やってみたら、シネマティックな演出がクッソカッコよかったです。その一方で近年のスクエニ作品にはあのクールさが足りないと思うので初投稿です。

 銃口が火を吹いた。文字通り員不意を撃たれて俺は小屋の扉にぶつかった。


「請看! 血不流出、是机器人!」


「うわっ!」


 ヒカルが腕を拗じられて捕まえられる。中国語は分からなかったが、奴らが何をしたいかはよくわかった。だが現実は安っぽいテレビドラマとは違う。俺は迎撃モードに入って、ヒカルを捕まえた男の肩を撃った。飛びかかって、怯えた顔に銃口を突きつける。血が地面に流れる。


「舐めた真似をするんじゃねぇ、次は頭にブチ込むぞ!」


 相手も俺の言っていることは分かってはいないようだが、理解はしてくれたようだった。言葉は通じなくとも、暴力はどこにだって通じるのだ。

 俺はヒカルを連れて飛行場を目指した。



 通信中継基地が富士川滑空飛行場にあるのにはもちろんそれなりに理由があった。

 まず飛行機やヘリコプターが着陸できる場所であること、それから海岸に面していることが挙げられた。陸路、空路、海路で行き来することが出来るからだ。万が一、中継基地に故障が起きても迅速な修復を行うための措置だった。

 誤算だったのは、その中継基地ですら補修し続けることが出来なかったことだ。五十年前に建設された中継基地は、国土が衰退する中、後回しに後回しを重ねた挙句に飛行機も船も停められるか怪しいシロモノになっていた。俺が基地へ赴くのは、通信の回復もそうだが飛行場の状態を調査することでもあった。今回のように不法に占拠されている状況を見ると、自衛隊の駐屯が必要だろう。

 俺はヒカルを連れて飛行場を目指した。さながら子連れ狼と言ったところだ。敵を迂回しながら俺達はひたすら歩き続けた。


「新司は、躊躇なく人を撃つよね」


 唐突にヒカルが言った。


「無差別に撃っているわけじゃない」


 と俺は返す。


「ロボット工学三原則って知ってる?」


「ああ」


 ロボット工学三原則はアイザック・アシモフがロボットに課した原則だ。

 

 第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。


「新司は、躊躇なく人を撃つよね」


 ヒカルは同じ言葉を繰り返した。


「無差別に撃っているわけじゃない」


 俺も同じ言葉を繰り返す。そう、無差別に撃っているわけじゃない。


「新司は変わってるよ」


「だからどうした」


 人が減っていく世界だ。平均という言葉もあまり拘束力を持たない。それに俺は、俺以外のロボットを見たことがなかった。だから俺以外のロボットが三原則を厳守するのも見たことがなかった。


「新司のAIは本当にすごい」


 今度は褒め始めた。


「人を撃って、熊の肉を食い、おまけに人間に通訳を頼む。確かにすごいな」


「すごいのはそれだよ」


 ヒカルが指摘する。


「こんなに皮肉っぽいAI初めて見た。新司をプログラムした人って、気が狂ってるか、超スゲー天才だね」


「気が狂っていて、かつ超スゲー天才なのかもしれんぞ」


 俺は自分の創造主にあったことはない。俺の脳みそは東京と東南アジア各国の科学者が総力を結集して作ったものだった。だとすると彼らの人格の平均が気が狂っていて、超スゲー天才ということか。あるいは人類の本質がそうなのかもしれない。神は自身に似せて人を作った、だとすると俺も優秀な狂人ということになる。優秀かどうかは分からないが、中国人とブラジル人に挟まれて、子供を連れながら武器工場を襲撃するのは狂った所業と言う他ないだろう。

 四時間かけて、俺達は富士川滑空飛行場の傍までやってきた。手近なビルに登って、上から観察する。富士川滑空飛行場には武装したブラジル系移民が居住し、占拠していたが武器工場はそこから西にあるらしい。大きい建物に、たくさんの人間が歩きまわっている。飛行場から電気だけを引っ張ってきて稼働させているらしかった。他に人の出入りがある建物は無いので、ジェット燃料のプラントも同じ所にあるのだろう。


「ヒカル、ここに隠れていろ」


 俺はヒカルに言いつけた。しかし不安は拭えない。さっきも中国系移民がやってきた。この世界に安全な場所は無いのだ。


「まぁ、なんとかするさ」


 言いつつヒカルは拳銃を取り出した。俺は驚いて


「そんなもんいつの間に取ってきた?」


 と言った。 


「人質に取られそうになったときに掠めとった」


 俺は半ば感心し、半ば呆れて


「ちゃっかりした奴だ。扱いには気をつけろ、そして基本的には逃げてくれ」


「大丈夫、あんたと違って撃たれたら死ぬことぐらい分かってる」


「それでいい」


 そして俺はビルから外へ飛び出した。雨雲が降らす霧雨は、徐々に大粒の雨に変わっていった。

 嵐が近づいてくる。

 全てをなぎ払う雨と風と雷の渦。

 俺は、嵐だ。

我ながら展開が遅いんだよなぁ……。

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