労働の産物⑥
初投稿です、俺は常に前書きでそう述べてきた。
しかしそれも限界だった。ネタは尽きていた。
だが俺は忘れていた。運命の女神は悪戯な救いをもたらすことを。
朝、目覚めた時、時計の針は嘲るように九時五十分を指していた。
仮面ライダー鎧武を見逃した。既にプリキュアも終わっていた時間だった。
自らヒーロータイム考慮して予約投稿したにも関わらず、俺は見事に寝過ごしたのだ。そして見逃した回に限って面白そうな話だったりする。
もはや何もかも手遅れだった。あとはDVD化を待つしか無い。魔女のために捧げる一万発の銃弾のように、たった一話のために時間と金、そして初投稿を捧げよう。
屋上のドアには吾郎たちが張り付いていた。残りの階は全て制圧したという。
「奴ら、銃を持ってやがる」
俺はドアから外を覗き見た。屋上にいる人間は三人。内二人は猟銃を持ってこちらに向けている。グレーのスーツを着た男が一人いた。どうやらあれが社長らしい。
「バカ、危ねぇ!」
吾郎に襟首を掴まれて戻される。すると次の瞬間、散弾がドアの端をノックした。
「ちくしょう、これじゃ近づけない」
仲間の一人が言った。散弾程度で俺の体は傷つかないが、あえて受ける趣味もなかった。
「下から行く」
俺はそう言って階段を降りた。
「そこで待機しててくれ」
「下からって、おい」
俺は五階に降りて、奴らの真下にある窓から身を乗り出し、窓枠を蹴って屋上の端を掴み、ヒールフックをかけて登った。三人は屋上のドアに気を取られて俺に気が付かなかった。処刑のためにわざわざ取り払われたフェンスの一部を潜って、俺は社長の頭上を飛び越えて銃を持った男の頭を蹴り、もう一人の腹を殴り、地面に叩きつけた。
「あんたがここの社長か?」
グレーのスーツを着た男に問いかける。
「近づくな無職め! 私は社長だぞ!」
どうやら社長でいいらしい。俺はそいつの胸ぐらを掴んで、俺が屋上へ忍び込んだ破れたフェンス、その奥の処刑台へと運んでいく。
「触るな! 派遣に劣る無職の分際で! 私を誰だと」
「社長だろ?」
社長を右腕一本で虚空へ吊るす。下には何もない。地面と、こいつが突き落とした哀れな部下の死体以外は。
「お前を地獄へ落とす前に聞きたい。どこからパワードスーツの技術を得た?」
「放せ! 私は社長だぞ! 太陽と月を創造し、大地と動物を作り、世界に『売上』をもたらす神、かつて世界を支配した、企業を支配する一族の末裔だぞ! 私を信じるものは『株式上場』へ行き、従わぬものは皆、解雇されて『刑務所』へ墜ちる!」
「面白い宗教だな。気に入った」
どうやらパワードスーツ技術の出処は聞けそうもなかった。
「一つ教えてやろう」
俺は手を放す。社長は回転し、県庁の壁にぶつかりながら地面へ衝突した。
「『倒産』だ」
「カタはついたようだな」
屋上から社長の死体を眺める俺に、吾郎が言った。
「お前のおかげで、ここもちったぁマシになるだろう」
「吾郎さん」
「何だ」
「俺は日本再生プロジェクトなんて無理な気がしてきたよ」
「日本再生? んなもん無理に決まってるだろ」
屋上から引き上げる。県庁の壁に張ってある古いポスターには
『がんばろう! 日本』
と書かれていた。
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人を偉大にするものはすべて労働によってえられる。
文明とは労働の産物である。
”スマイルズ「自助論」”
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次は長野へ行こうか、静岡に行こうか……。
明日も六時に予約投稿します。