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対決しよう

「でも、なんだか少し、安心しました」

 シスター・パトリックが意外なことを言い出したので、アタシは戸惑った。

「自分だけではない……そう思うと心強いです」

 彼女はアタシを見て、ほんのちょっと笑った。

 なるほど、たしかに、アタシたちはかなりレアな境遇にある同士かもしれない。

 いや、でも待てよ。不幸自慢ではないけれど、アタシのほうがだいぶ困っているような気がするのだが……。実際問題として、アタシは誰かを「指名」しなくちゃいけないのだ。

 指名……!? そのときふと、まさに悪魔的なインスピレーションが脳裏をよぎった。

「ありがとう、おやすみなさい」

 そう言って部屋を去ろうとする彼女をアタシは呼び止めた。



 いよいよ運命の日がやってきた。泣いても笑っても、今夜がトミーの指定した「三日後」の夜である。

 アタシは特別な対応を何もしなかった。たとえば、一晩中起きていて誰かに見張ってもらうとか、そういうことだ。

 相手は悪魔だし、たぶん小細工は通用しないだろう。いずれヤツはアタシが寝落ちしたところを狙ってくる。それならば、真っ向から勝負してやる。


 いつもどおり一日のお勤めを終えたアタシは、くたくたになって部屋へと戻ってきた。これから悪魔と対決とか、マジで勘弁してほしい。

 ドアを開けると、もうトミーはそこにいた。

 ……ちょっと待ってよ、もしアタシが誰かを連れて来ていたら、どうするつもりだったの? それとも最初から、アタシにしか見えないのかトミーは。

「こんばんは、いらっしゃい」

 皮肉をこめて言い、彼のとなりに腰かけた。言っておくが、これはアタシのベッドだ。

「さあ、きみの答えを聞かせておくれ」

 彼はニタニタと腹立つ笑い方をしながら言った。アタシはひとつ深呼吸すると覚悟を決めた。

「指名するわ。そのかたの名前は、グラス・ディック・ジョーンズ」


「……な、な、なんだってえええ!!」

 トミーはまるで断末魔のような叫び声をあげた。

 彼の動きが固まり、そのまま、うっすりと姿を消して行った。まさかこんなに効くとは思わず、アタシのほうがびっくりした。

 グラス・ディック・ジョーンズがどういうかたか、アタシはくわしく知らない。個人的に恨みもない。だが、ジョーンズ氏には罪がある。



 彼はシスター・パトリックの夢にあらわれ、いやらしい囁きをして彼女を苦しめた。



 アタシはあのとき、彼女を呼び止めて聞いたのだ。夢の中で悪魔は名を言ったか、と。彼女は恥ずかしそうな顔で、小さく、グラス・ディック・ジョーンズと答えた。その名前の中に一部、卑猥な単語が含まれていたが、そこは軽くスルーした。

 ジョーンズ氏はたぶん、トミーの同業者だと思う。おなじ悪魔でも、人間に仕掛ける罠はいろいろなのでは、なかろうか。

 トミーのあのリアクションから、ジョーンズ氏はより上級の悪魔ではないかと推測できる。格上の相手だから、その命を奪うのも、トミーにとって容易ではないかもしれない。が、アタシの知ったことではない。

 悪魔同士、存分にやり合えばいいのだ。

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