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相談しよう

 いつのまにか眠りに落ちていた。

 悪魔問題は、たしかにアタシを悩ませた。だが、アタシには何より大切な尼僧としてのお勤めがある。教師としての責務がある。睡眠不足はたぶん、悪魔以上に大敵だ。

 日中業務をこなしていると大分、不安が和らいだ。昨日のことは全部夢だったのではないか、そんな風にさえ思えてきた。

 夢? だとしたら何故そんな……精神的に参っているのだろうか。

 いかんいかん、考えだすと虜になる。かと言ってまったく考えないというのも、土台無理な話だ。とくに独りになったときには……。


 思いきって誰かに相談するか。でも変だと思われたら……いやいや、自分で言うのもアレだが、すでに充分変だぞ。

 いっそ誰かに笑い飛ばしてもらったほうが、ラクになるかもしれない。

 誰に相談するか、それはもうオハラ神父しかいないだろう。正直、選択肢はほとんどない。バカな夢の話をしていないで日々の仕事に励みなさい、と逆に怒られそうな人たちばかりだ。

 それと忘れちゃならないのが、ここが教会メインの学校だということ。悪魔(の夢)を見たなんて言ったら、信仰を疑われ異教徒扱いされかねない。自分で選んだ道とはいえ、そういう旧い体質なんですウチの職場。

 でだ。オハラ神父はそこらへんの心配がないというか、わりとざっくばらんに何でも話せる。さすがは、この教区の主任司祭だ。


 放課後、オハラ神父の執務室を訪ねた。ドアをノックしようと思ったら、急に部屋から誰かが出てきた。

 同僚のシスター・メアリー・パトリックだった。

 ちなみに、アタシたち尼僧は老いも若きもすべてメアリーがファースト・ネームになる。なので普段メアリーは割愛し、ファミリー・ネームで呼んでいる。このファミリー・ネームもジェームズとかパトリックとか、男性のファースト・ネームになりそうなものがどういうわけか多い。いずれ洗礼名なので、親がつけてくれた名とはまったく関係ない。

「こんにちは、シスター・パトリック」

「……こ、こんにちは」

 アタシが挨拶すると、彼女はぎこちなく応じた。もともと彼女はあまりテンションの高いほうではないが、今日はいつにも増して挙動があやしかった。

「オハラ神父とお話を?」

「ええ、ちょっと。……失礼します」

 彼女はそそくさと去って行った。なんだろう、オハラ神父と深刻な話でもしていたのか? ふと他人事のように考えている自分がおかしくなった。アタシも神父に相談があって来たのだ。


 部屋の内側からドアが開き、オハラ神父がひょいと顔を覗かせた。

「これは、シスター・ロバートでしたか。話し声が聞こえたもので」

「すみません。お邪魔しても、よろしいですか」

 アタシが聞くと神父は笑顔で頷き、

「めずらしいですね。どうぞ」と言ってドアを全開にした。

 神父はアタシに椅子とさらに紅茶をすすめた。

「おかまいなく。どうも、すみません」アタシは恐縮した。

「いやいや、さっきシスター・パトリックがいらっしゃったときに淹れたんですよ。多少ぬるくなってますが、私はぬるい方がむしろ好みで」

「では、いただきます」

 アタシはティー・カップに口をつけた。喉が渇いていたので、ふつうに美味しかった。


「夢に悪魔が出てきたんです」

 アタシはいきなり本題に入った。もじもじしても始まらないので、はっきりと言ってしまった。ただし、あくまで夢の中という設定にした。あれが現実だったかどうか、アタシにも確証がない。

「え、あなたも、ですか……」

「えっ」

 驚いた神父の顔を見て、アタシはさらに驚いた。あなた「も」、ということは……。

「オハラ神父も、悪魔の夢を?」

「いえ、私ではありません」

 そうか、神父でないなら、彼女しかいないだろう。

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