夜桜
ー6時45分
約束の時間までゲームでもして
時間を潰そうと考えていたのに
いつの間にか眠ってしまっていた。
念の為かけておいたアラームで目が覚め
鞄にお菓子を詰め込み
出かける準備を始める。
自分の準備が終わったら部屋の中を見回る。
癖になっている指差し点検をしながら
窓、ベランダの鍵を確認する。
「よし。戸締りOK」
玄関でダウンを羽織り外へ出ると
予想通り少し冷たい風が吹いている。
「まぁ。まだ春になったばっかりだしね」
冬を引きずる風に身を縮こませながら
待ち合わせの場所へ向かった。
昼間約束した待ち合わせ場所の桜は
今、ライトに下から照らされ
とても幻想的だ。
待ち合わせ場所に来た時
その桜の木だけが
闇の中で発光しているように見えた。
「綺麗だなぁ」とまたしても
独り言を言った時
「また一味違うでしょ?」と
ハルが木の後ろから出てきた。
なんだかデジャヴを感じた。
「…ハルってさ、
木に隠れるのが好きなの?」
冗談っぽく聞いてみると
「そんな訳ないでしょ。アキラが来た時
たまたま木の後ろにライトを置いてたの。」
一瞬ハルは頰を膨らませたけど
「あ、そうだ。木の根元に
座れるようシートをひいてあるから。
まぁとにかく座りなよ。」
なんて微笑みながら勧めてくれたので
僕は大人しく席に着くことにした。
足元にたくさんお菓子を並べて
たわいの無いお喋りが始まる。
どんな部活をしていたとか、
好きな子はいたかとか、
この科目は得意だったけど
あの科目は苦手だったとか。
ハルとは
今日知り合ったばかりだったから
知りたい事がお互い多くて
話題は尽きない。
「へぇ〜アキラは高校生になったら
油絵描きたいんだ?」
「うん。美術部入ってやってみるつもり!
絵を描くのは元々好きなんだ。
できれば将来は
絵に関わる仕事したいんだ。」
「そっか。でもいいね。
やりたいことがあるのって。
夢があるとワクワクするよね。」
隣に座るハルが嬉しそうに笑った。
「ハルは?高校行ったら何するの?」
「僕?僕はねぇ小説を書いてみたいかな。
今見ているものや感じているものを
文章にして伝えたい。
いろんな人に読んでもらいたい。」
ハルも僕も今一番いい笑顔だと思う。
小さな夢だけど大切な夢だ。
ー時間が経つにつれ
少しずつ闇が増している。
こんな時間に外にいるなんて
ちょっとだけ大人になった気分だ。
僕の周りの子は塾に行ってる子が多くて
こんな時間から勉強というのが
当たり前らしいけど
塾に行ったことがない僕には
夜の匂いもこの暗闇も新鮮で仕方がない。
ふいにハルが僕の方を向く。
「ねぇアキラ。この夢を忘れないでね。
君ならきっと叶えられるよ。」
「うん。ハルも忘れないで。」
言いながらなんだか
照れ臭くなり話題を変えたくなった。
「そういえば事故の事本当だったんだね!」
とりあえず気になっていた事を聞いてみる。
「え?嘘だと思ってたの?」
「いやだっておかしいじゃない?
僕もあの近く通っていたのに
何も音とか聞いていないなんて。」
僕はさも可笑しそうに
冗談っぽく言ってみる。
「僕があまりにも
考え事して歩いているから
注意するようにあんな風に
言ってくれたんだと思って。」
だけどハルは悲しそうな顔になっている。
その端正な顔でジッと僕を見つめる。
少し恥ずかしくなり僕は下を向いた。
「そっか。覚えて…ないんだね。」




