理由
「アキラはどうしてここに来たの?」
「僕は考え事していたら
角を曲がるの忘れてしまって。
気が付いたらここに居たんだ。」
そういえば信号をちゃんと見て
渡ったのかどうかも記憶に乏しい。
それぐらい考え事に没頭していたらしい。
事故に遭わなくて本当によかった。
「危ないねぇ。少し前に
近くで救急車の音が聞こえてたんだよ。
アキラじゃなくてよかったよ。」
「えっ!?そうなの?
それすら聞こえなかったよ。」
本当に事故に遭っていたらと思うと
一瞬ゾッとした。
今度からは歩きながらの考え事は
止めておこう。
「それじゃハルは?」
「ん?」
「なんで隣り町からわざわざ
ここに来たの?」
こんな工場地帯に
理由もなくやって来る人は少ない。
ハルは掌にフワリと着地する
花びらを見ながら答えた。
「ボクはこの桜が好きなんだ。
小学生のころにね母さんに一度
連れて来てもらったんだ。
それ以来、この桜のファンでね。
今まで、この木以上に
綺麗な桜を見たことないよ。」
「へぇ~。」
桜のファンねぇ。
まぁでも確かに
この桜は綺麗だと思う。
背は低めで花びらの真ん中は濃い紅色。
そこから淡い色がふっくらと
ふくらんでいる。
枝は陽の光をたくさん集めるかのように
四方八方に広がり
幹は土の上に腰掛けるようにくねってる。
そして根っこは、その全てを支えるように
しっかりと地面に張り巡らされている。
学校にあるのは
木がただ上に伸びているだけで
勢いしかない感じだ。
花びらの色も運動場の土埃のせいか
少し黄色みがかっている。
「あっ!いい事思いついた。」
僕は頭上から降る花びらを
目で追いかけながら意識をハルに向ける。
「何を?」
「アキラは今夜暇?」
「うん。予定は空いてるよ。どうしたの?」
「夜の花見ってしたことある?
昼間とはまた一味違う
綺麗な桜が見れるよ!」
夜の花見かぁ。どんなふうなんだろ。
「それいいね。見てみたい。」
「それじゃあ、ボクちょっと
準備したいものがあるから…
また7時くらいにここにくるよ。
アキラも制服、着替えてきなよ。」
「そうだね。それじゃまた7時に!」
「今度は気をつけて
前を向いて歩いて帰るんだよーっ!」
ハルは大きい声で叫びながら
手を振って帰っていった。
僕も適当に返しながら
私服に着替えるため家へと向かった。




