第3話:こんにちはエイチアパート
「さぁ着いた!ここがエイチアパートよ!」
管理人さんが勢い良く叫ぶ。僕は恐る恐る車のドアを開けた。
そこは、奥村先輩の言っていたとおり、アパートとはほど遠い建物だった。
古ぼけた木材の学校や、町役場といった感じだ。清掃は行き届いているようで、中は意外に広いのかもしれない。
「なかなか凄いですね。」
「いい感じでしょ?」
管理人さんは笑っている。僕はそういう意味で言った訳ではないのだが。
玄関の戸を開ける。中も木だ。火事が起きたらひとたまりもないだろう。
「土足禁止だから、そのスリッパに履き替えてね」
そう言うと管理人さんは慣れたように靴を脱ぎ、目の前にあるスリッパに履き替えた。僕もそれを真似して、管理人さんの後を追い正面の部屋に入った。
「祝☆小石川くん入居!!」
広い部屋の中に垂れ幕が張ってある。
パァァァーン!
耳元でいきなりクラッカーが鳴らされた。
「…あ、どうも。」
「っ驚け!んもぅ!」
「すみません。」
髪の短い、活発そうな女の人が笑っている。
「何か想像以上だなぁ…。私は七護みすず(なご・みすず)。これからよろしくね!」
「小石川博史です。よろしくお願いします。」
「あははー語尾にマルとか!マジメっ子!」
なんだか悲しくなった。
「気にしないで下さいね。みすずさんは悪気があるわけじゃないので」そう言ったのは、髪がふわりと巻いてあるおとなしそうな女の人だった。いかにもお嬢さんという感じだ。
「ありがとうございます。ええと…。」
「九条京です。よろしくお願いしますね、小石川さん」
九条さんは優しく笑った。暖かい笑顔だった。
「こちらこそよろしくお願いします。」
僕はまた少し安心した。
「さぁ、たくさん食べてね」
管理人さんが料理を運んでくる。椅子も沢山あるし、ここは食堂のようだ。
「いきなりごめんね〜。皆が歓迎会しようって。荷物は運んでおいたから、食べ終ったら二階の6号室に行ってね」
「わざわざすみません。」
ここの住人は皆いい人みたいだ。全く変ではない。エイチアパートとは、名前だけなんだろうか。
「ここにいる2人で全員ですか。」
「まだいるよ〜、ご飯にはこないけど」
「誘ったんですけどね…。お部屋にいるみたいです」
僕は口の中の御飯を飲み込んで言った。
「あの…僕、挨拶に行ってきます。」
「あら、そう?ならついでにご飯持っていってもらえるかしら」
「良いですよ。」
お盆に乗った御飯を受けとる。
「1号室だからよろしくね〜」
皆が僕に手を振っている。なんとなく利用されたような気もしたが、分からないふりをしておいた。
1号室の前に行く。殺気の様なものが感じられる。躊躇いながら、僕は扉を叩いた。