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先程ロゼとフランシスカが話していた海底トンネルはそのセントラルターミナルの地下に存在する。
トンネル、といってもある場所とまたある場所を繋いでいるようなのではなく寧ろアトラクションに近い。海底をただ決められたコースで一定時間めぐれるというどちらかといえばカップル向けの施設だ。
なので、その場所もその時も男女のカップルが沢山来ており、なんだかここだけ異空間のようにも見てとれた。
「二人分お願いしまーす」
「はいよ。700ムルね。……もしかして友達かい?」
受付の女性が三枚の硬貨を受け取り、次いで変わりにチケットを二枚渡す。
それを受け取り、フランシスカは愛想笑いを浮かべた。
チケットを買って、フランシスカはロゼのいるところにやってきた。
「フランシスカ。私がエスコートすると……」
「ごめんなさい。なんだかやってみたくなっちゃって……。さ、行きましょ?」
フランシスカはチケットをロゼに渡し、また愛想笑いを浮かべた。
†
海底トンネルを進むための潜水艦は二人乗りの小さなものであった。
黄色のミニクーパーのような形をしていて、この特徴的な潜水艦の形もここが有名スポットである理由のひとつだ。
二人はそれに乗り込み、ロゼが操縦捍を握る。
グオン、と鈍い音が響いて潜水艦はゆっくりと潜水を始めた。
「綺麗ねー」
フランシスカは剥き出しになっている大きな窓を通して海の中を眺めていた。
風景は思った以上に鮮やかだった。エイにヒラメ、クラゲにイルカといった普通の魚からこの場所が熱帯に位置しているからか熱帯魚も多く見られた。
「ほら、あそこ。いそぎんちゃくの中にいるの、なんて名前だったかな」
「ロゼ、あれはカクレクマノミよ。あのオレンジと赤の縞縞模様は多分、そうに違いないわ」
フランシスカとロゼはそんな他愛もない会話をして、
ふと、気付いた。
「フランシスカ。後ろから何か見えませんか?」
ロゼがあくまでも丁寧にフランシスカに尋ねた。
「……いや? 何も見えないけど?」
「……シートベルトをしてください」
ロゼは冷たい、感情もない声で言った。
「え? えぇ……」フランシスカは動揺しながらもロゼの言う通りにする。
刹那、ロゼが操縦捍をおれそうなほど力を込めて左に曲げた。現にミシミシという音を立てているのだが。
「き、きゃあっ」
小さい悲鳴が聞こえ、ロゼは、
「掴まって!!」
そう言ってさらに今度は右に操縦捍を曲げた。




