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「ついに、始まりました~!」
直後にマイクで拡声された女性の声が会場に響いた。
「わたくし、今回の実況と進行役を務めさせていただくレナ・ポールウェルトで~すっ! この二週間宜しくお願いしま~すっ!」
レナの言葉の後、会場を何故か先程よりも大きな黄色い声援で包み込まれる。
「なんだありゃ……。すごい人気だな……」
今度はサリドが驚く番であった。そして今度はグラムが意気揚々と説明を始めるのだった。
「なんだ? 知らないのか。ありゃ、資本四国一のアイドル、レナちゃんだぜ。彼女が動くとそれこそ金が動くって言われてる。今の資本四国のテレビは彼女がいなきゃ成り立たないだろうな」
「……なんだい。グラムって意外とミーハーだったのか?」
「なんかお前に言われると心底腹が立つな」
グラムはそう言って再び会場を観る。
「それではっ」
レナはそれを持つのに抵抗を示さなかったのだろうか。拳銃を持っていた。
もう古い拳銃だ。かつて警察という治安維持を目的として設置された組織が愛用していたもので、警察廃止後、おもにヒュロルフタームによる戦争が認められてから、その拳銃は使い物にならなくなっていた。
しかし、むしろそれを見てサリドは疑っていたのだ。
今やあの拳銃は治安維持のためではなくむしろその逆に使われてしまっている。
URUという組織を知っているだろうか。
正式にはUnderground Resistance Unionと呼び、その頭文字をとったものである。なるべく単語に近い訳し方をするのなら『地下抵抗連合』とでも言うべきだろうか。
それらはかつて使われていた所謂『文化の遺物』を用いる傾向にある。
彼らの目的はあまりよく解ってはいない。
だからこそ、各国もURUの動きに慎重になるのである。一つの誤った働きが彼らに好影響を与えては困るのだ。
「第十回世界トライアスロン、開幕ですっ!!」
刹那、レナが拳銃を構えた腕を高く掲げ、三発ほど銃弾を撃った。
それを合図と言わんばかりに射撃場まわりから花火が何発か空に咲いたのだった。