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FORSE  作者: 巫 夏希
『総ての平和を求める人へ』――世界トライアスロンの14日間
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0-5

さて、とりあえずサリドたちはラインスタイルの助言をもとにこのオリンピアドームをふらふらと巡ることにした。例え島とはいえ、その大きさは計り知れず、島内の移動に車を有するくらいであった。


なのでこの島にはレンタカーショップが数多く並んでいる。別にどの車でも構わないが数多の種類の車を借りれるショップは安価で借りることが出来、少ない種類しか借りれないショップでは借料が高価になる傾向にある。しかしながら手入れやサービスの面から考えると後者の方がより丁寧に行ってくれるため、後者はブルジョワ向け、前者は一般市民向けと無意識のうちに分類が為されているのだった。


サリドたちはとりあえず島一番(値段の高さ的な意味で)のレンタカーショップに向かった。目ぼしいものはもう借りられていたのだが唯一一台だけ車が残っていた。


それはよくある軽乗用車で『定員:4人まで』と車の中に入っている札に書かれていた。


色はスカイブルーでナンバープレートは軽乗用車を示す黄色。しかも驚くべきは価格。なんと普通にそのショップで車を借りるより0が一個少ないのだった。車種に値段が比例するとはいえいくらなんでも安過ぎであった。


「……、これにしよう」


フランシスカにより一発で決められる。なんてブルジョワなんだ、とサリドは改めてノータの世間ずれを知ったのだった。


「じゃ、これお願いしまーす」


最近出番を奪われ気味のグラムが軽い足取りでカウンターへ向かう。


カウンターに座っていたハワイシャツを着た男――レンタカーショップよりも海の家を経営しているほうがお似合いのような気もするが――は恭しく笑って、書類を渡した。


「……よし、これで大丈夫だ」


グラムは書類を確認して独りごちる。


「そーいや、これは誰が運転するんだ?」


グラムが書類の束を、恭しく笑いながらサリドとフランシスカが辿々しい親睦を深めている場に割り入ってきた。


「なに行ってるんだい? 僕は“本業は学生”なんだから免許を持ってないし、運転することも出来ないよ? もしかして彼女に運転させるつもりだったのかい?」


「……、」


グラムは答えられない。


そんなことは解りきっていたのだ。サリドが免許を持ってないから運転させることは、たとえこの平和の祭典としても、許されない。かといって選手であるフランシスカ自身に運転を任すことなんて出来るわけもない。そもそも彼女は車の運転が出来るのだろうか。


「……いや、ADAがあるくらいだしな」


ADA。


グラムが独り言で言ったこれは正式にはAutomatically Driving Abilitiesの略称で、『自動的運転才能』と呼ばれるものだ。


ノータになった人間には元から備わっていたのか、はたまた改造によってその能力を“強制的に”手に入れたのかはわからないのだが、そんな能力がノータにはあった。


簡単に言えば『どんなものでも運転することのできる技能』のことで馬から車、飛行機なども運転することが出来る。


これの由来としては旧時代にいたとされるどんな乗り物でも乗りこなすとされたアーサーという青年――のちに彼は“ブリテン”なる国の王になった存在らしかったがそれをグラムは知ることはない――の解析を進めた結果、その能力があることが判明したのだ。しかもそれは遺伝することが分かり、ノータはその遺伝子検査によって選ばれたとされている。


されている、というのはサリドたちのような軍人や学生が知るような事実ではない、ということで現にサリドたちが知るこの知識も雑誌や携帯端末でブラウジングして得た情報であり、これもまた憶測の域を過ぎないのであった。


「……、おーい? グラムどうした?」


サリドの声で、はっとグラムは我に返った。どうやら思考し過ぎて辺りが見えなくなってしまったらしい。猪突猛進な彼らしいことではあるが改善すべき課題でもある。


「あ、あぁ。ところで、どこに行くんだ?」


「うーん」サリドはガイドブックを見ながら、「とりあえず、適当に一周してみようよ。そうだな。お腹も空いたから目ぼしいところでご飯でも食べようよ。フランシスカもどうだい?」


サリドの言葉にフランシスカはひとつ大きく頷いた。


もう仲良くなってやがる、と言わんばかりにグラムはため息をついて二人にシートベルトの確認もせずアクセルを踏み抜いた。

次回更新:12月13日を予定しています。

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