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案の定、だった。
グラムはその後有料のミュージックチャンネルを貪るように観た後、何処からか持ってきた映画のDVDを取り込み、観ていたらしく――しかし音声は寝ているサリドに気を利かせてかイヤホンをつけていたのだが、それでも画面から洩れる光はなおも彼から眠気を奪っていた――なんとサリドが累計睡眠時間6時間半もの間寝て、起床してもなお起きていた。流石のサリドもこれにはあきれた。
しかし当の本人は「なんだ、もう朝か?」と何食わぬ顔でサリドに返した。彼の目の下にある立派なくまに彼自身は気づいているのだろうか、とサリドは思ってまたひとつため息をついた。
「まったく、本当に君は馬鹿だなぁ」
サリドはヌージャヤックへと向かうための準備を進めていた。横目でグラムの方を見ると、ようやく眠気がやってきたのか、口をいっぱいに開け、大きく欠伸をしていた。
「……大丈夫、だよな? ダメなら俺ひとりで行ってもいいんだぞ……?」
サリドはそんなグラムを心配してか声をかけた。
「大丈夫だ、問題ないぜ。いいからさっさと行っちまおう」
「人はそれを“死亡フラグ”というんだ」
サリドはため息をひとつついて言った。
『ヌージャヤック入口 用の在る方と命が惜しくない方以外はお引き取り下さい』と木の板によく見ればそう読めなくもない良く言えば達筆、悪く言えば達筆過ぎて何が何やらわからない、そんな字が書かれていた。
「すごい注意書きだな……。よっぽど危ない場所なのか?」
「そりゃそうでしょ、グラム。昨日も言ったかもしれないけどここは人食い山。例年何十人もの人間が遭難してる、って」
「……緊張してきた」
「今更? あぁ、そうか。寝なさすぎて今まで気持ちがハイになってたのか」
「あぁ、そうかもしんねぇな。ま、御託はここまでとしてさっさと行こうぜ」
グラムのその言葉にサリドは頷いて、グラムを先頭として、山の中へと足を踏み入れた。