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ヒュロルフタームを倒されると、残された軍隊に待っているのは、死。
それを恐れるものは逃げるしかない。逃げて。逃げて。逃げて。逃げて、それでもヒュロルフタームが持つ射程5kmの巨大レールガンには敵わないのだが。
だからこそ。
ヒュロルフタームを倒されると、あとは逃げるしかない。
冬の天気は変わりやすい。
先程まで快晴だったのに、今や1m先も見えないほどのブリザードとなっていた。
しかし、そんなときにでもはっきりと見えた。
緊急装置を使って脱出したノータの姿が。
ヒュロルフタームを倒された兵隊を待っているのは、死。
これは、この戦いでも適用される。
ヒュロルフタームが一歩歩くごとに地面は揺れる。
そしてブリザードで前があまり見えないからこそ、恐怖が増大する。
今のところ、見えるのは、影。
ただただ、巨大な、それは、ゆっくりとヒュロルフタームを失った兵隊のもとへ近づく。
兵隊の、無線機を持っていた人間が、ボタンを押したり放したりしている。
たぶん、これが『白旗』なのだろう。何度も、何度も、その信号を送る。
そして。ヒュロルフタームは動きを止めた。
しかしそれは白旗に賛成、戦争の完結ではなく。
地面が細かく振動を始める。
危険を察知したときには、もう遅かった。
刹那、そのヒュロルフタームが装備していたコイルガンが兵隊に向かって撃ち放たれた。
「くそっ!! このままじゃこっちもやられる!!」
グラムは双眼鏡でその姿をはっきりと見て、言った。
「でも、あの感じじゃあ、向こうは基地を知ってるぽいね」
「だから逃げるんだろ?! 急がねーと消し炭になるぞ!!」
グラムが叫んだそのとき。
ポン! と赤い煙が空に放たれた。
「……発煙筒?」
「ノータがやったのかもな」
「?」
「グラム。兵隊にいるなら知っとけよ。ヒュロルフタームのノータはこういう時のための緊急用マニュアルがあるんだ」
「ノータはヒュロルフタームの技術を隅々まで知っているからか」
「そう」サリドは頷いて、「だからヒュロルフタームには自爆装置があるし、ノータに関してはどんな事をされようとも機密は話してはいけないんだ。ノータには戦争の捕縛兵条約が効かないからね」
「おいおい、それって……」
グラムが言葉を濁した。
「……そういうことだよ」サリドは肩にかけた機関銃のヒモを改めてかけなおし、言った。
「だからこれから姫様の救出作戦を行うんだけど君も来ないかい?」
「救出……ったってどうするんだ? 間違えたら俺らも捕まって捕虜だけじゃすまねーぞ」
「それは解ってるよ。だからこれを使うのさ」
サリドの手に握られていたのは信管のささった何個かの手榴弾。
「確かにこりゃあダイナマイトを何倍にも凝縮したやつだから普通の戦車とかならそれなりのダメージが与えられる。けどな、敵はヒュロルフタームだぜ? 主砲のひとつにも傷がつかないと思うけどな」
「いいんだよ。それで」
グラムの問いに、サリドは笑って答えた。