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サリドたちがやった作戦は単純明解である。
まずサリドが真正面から敵に向かって囮になる(しかしあの二人もまさかサリドが真正面から行くとは思ってなかっただろうが)。
次にグラムたちから意識の離れる一瞬を使ってグラムが第三世代に向かって手榴弾を投げつける。
手榴弾による電磁波によって第三世代に取り付けられているセンサーが乱れている内にサリドが中に侵入しヴァリヤーを取り押さえる、といったもの。
……確かに、ここまでは作戦成功だった。
そう。“ここまでは”。
「さあ、どうする?」
サリドは未だに銃をヴァリヤーの首もとにあてて、言う。
「何がしたい? 何が望みだ。サリド=マイクロツェフ」
「これはこっちのセリフだ。ヴァリヤー」
「国のトップに近しい人間を呼び捨てとはね? 君も覚悟のうえか?」
「うるさい。黙れ」
そう言って今度はヴァリヤーの頭に銃を置く。
ヴァリヤーは何をする素振りもなく、ただ両手を上にあげていた。
なにか手があるのか、と思っていたが手にはなにも握っているような感じもないので、その可能性は振り払った。
「さぁ、目的はなんだ? あの子か? それともヒュロルフターム第三世代か?」
サリドは尋ねると、彼は嗄れた声でこう言った。
「私はヒュロルフタームという人類の作り出した欠陥のある人間が好きなわけでもないしほしいわけでもない」
続けて、
「だがそれが私たち委員会の目的に合致するものと見なされば、なんだって使うし、なんだってする。人からモノを奪ったり、その為に殺したり、な」
「委員会?」
サリドは怪訝そうに顔を歪め、
「ああ。何れ人類の要へとなる存在」
「『フォービデン・アップル』だ」
「……『隠された林檎』?」
「……辿り着けるかね? 我々の求める真実まで?」
ヴァリヤーは笑っていた。
首に銃口を突き付けられ、いつ命を落としてもおかしくないのにもだ。
「……『知恵の木の実』……」
サリドは思い出したように呟いた。
「……それさえわかれば我々の目的に大分近づいたと言えるな」
そう言ってヴァリヤーはサリドが気を緩めた一瞬の隙を狙って、横腹に拳をあてた。
「ぐ……ぁ……」
「君にここまで潜入させられた以上、計画の実行は難しい。私はここで逃げさせてもらうよ」
「ま……て……。この子は……!!」
「あぁ。私が消えて暫くしたら催眠がとけるだろうから。慌てず待てば良いのじゃないのかな?」
気づくとヴァリヤーの背中には簡易のパラシュートがついていた。
「……待て!」
サリドが言ったのも虚しく、ヴァリヤーは大きく扉を開け放ち、そこから飛んだ。