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FORSE  作者: 巫 夏希
『小人はガリバーにはかなわない』――グラディア侵略戦
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「遅い!!」


整備場に着くと出迎えていたのは、ばあさんの罵声だった。


「ごめんよ。オレらだって任務があって」


「何が任務じゃ。お主は軍隊にも入ってないくせに」


そう。この少年。サリド=マイクロツェフは、軍の人間ではない。


正式にはヒュロルフタームの設計士を目指すために、ここに研修に来た、ようするに『研修生』なのだ。


「……まったく、今の若者は研修とか、時代が良くなったのう。わしがなりたての頃は試験一本だったしのう」


「そもそもばあさんがなるときはヒュロルフタームなんてなかったじゃないですか」


「ばあさんと呼ぶな。ライミュール=ガンテ少尉と呼びな」


「はいはい。少尉。申し訳ありません」


煙管を吹かしている元気たっぷりなおばあさんは煙管が口の中から出てきそうな勢いで、言った。そして、それをサリドは軽やかにスルーする。


「さて、無駄話をしている暇もないの。お主はさっさと緊急装置の検査でもしてこい」


へーい、とやる気のないような声をだし、サリドは検査用の階段を上った。


そして、2階から、それを見る。



ヒュロルフターム。


人間の技術の結晶、とも言われるそれは、堂々とそこに立っていた。


そのヒュロルフタームは、簡単にいえば、人型――もっとも人らしいカタチをとったものだった。


頭には鶏冠のようなものがついており、胸の当たりは鋭角に出っ張っていて、まるで鎧をつけた西洋の城の騎士にも見えた。


「……これが」


「そうじゃよ。これが『ヒュロルフターム・ワン』。クーチェじゃよ」


「これが、ヒュロルフターム……」


「さてさて、急いで整備せんとノータ様が来ちゃうぞよ」


「わったた。そうだった。急がなきゃー!」


そう言ってサリドはコックピットに向かった。


「……といってもコックピットってごてごての機械ばかりと思ったらそうでもないんだなー」


「……パイロットであるノータはここに入ってかんぜんに密閉された後、酸素を含んだ特殊な液体をここに入れられるの。それで私たちはヒュロルフタームとリンクするのよ」


「へえー。そうなのかー……」


そこまで言って、ふとサリドは気づいた。


「はっ……!? もしかして姫っ?!」


「……ちょっと試しに来たんだけど、まだ終わってなかったの?」


彼女はため息をついて、つまんなさそうに言った。


「あ。す、すまない! いまから急いでやるから……!!」


そう言って、彼は緊急装置の整備に取り掛かった。


「あれ? でも緊急装置っていっても、コックピットは液体で満たされているんだよな? いったいどうやって脱出するんだ?」


「……それもわからないでヒュロルフタームの設計士目指すなんて。聞いて呆れるよね」


それを聞いてサリドはムッとするが、本当のことなので反論する気はない。


「はいはい。すいませんでした。で? 天下のノータ様は一体何をするんです?」


「バカにしてるでしょ?」


一息。


「ま、いいわ。私これから試しに運転するからどいてて」


そう言って、彼女はコックピットに座る。


「さーてと、さっさと離れたほうがいいんじゃないかしら? 新米さん。その階段潰しちゃうかもよ?」


「げえええええ!! まじかよ!!」


その言葉を聞いて、大急ぎでサリドは降りようとする。


だが、


「うぐっ」


「?」


マイク越しに、そんな声が聞こえた。


明らかに、苦しんでいる声。


「だ、大丈夫か!!」


叫んで、サリドはコックピットに向かう。


そこにはしまったシールドがあり、その半透明なシールドから


彼女の苦しそうな顔が見えた。



「なにをしとる。このバカモン!」


気付くとスタスタとあのおばあさんが階段を登って、ここまで来ていた。


「……なんか、急に苦しくなったらしくて」


「そんなわけあるか。コックピットに液体は満たされているんじゃ。他の理由があるに決まっておろう!!」


「そ、そうだよな……」


「にしてもだ。我々がそこを開けるのは難しい」


「へ?」


おばあさんから返ってきた予想外の返事にサリドは目を丸めた。


「……なにもわかっておらんのか? そこにあるヒュロルフタームは殆どが鉄板を何枚も重ねて作ってある。だがな、ただひとつだけ違う」


一息。


「その、コックピットじゃよ。そこだけはオリハルコンとかいう金属で作ってある」


「ああ。……流した電流によって金属の分子構造を変化させて強度を増やした最強の金属、とやらですか」


サリドは教科書の受け売りのように話す。


サリドの言う通り、オリハルコン――というのはなにも力を加えない状態だと液体なのだが、そこに電流を通すと核兵器すらも耐えうる屈強なものへとなるものだ。


「まあ、要するにこれを力でどうこうするのは無理じゃ」


コックピットを叩いて、おばあさんは言った。


「じゃあ、どうすれば……!!」


「慌てるな。若いの。わしが今からある装置を持ってくる。コックピットに流れている電流と逆向きの電流を流して、コックピットを一時的に流体にする。それなら彼女は助けられるよ」


そう言って、おばあさんはおばあさんとは呼べぬほどの速さで走って消えた。


と、いうことはだ。


彼女はその機械が届くまで、ずっと苦しむ羽目になる。


それは、できれば目を背けていたい、でもはっきりとした真実。


(どうする……!! このままじゃ、姫様が……!!)


「方法、ひとつだけ…… あるよ」


彼女は精一杯、その言葉を紡いだ。


「……それは?」


サリドが聞く前に、彼女は座席の下にあるボタンを押す。


直後、コックピットは大きく開き、そこから上に勢いよく座席が飛び出た。


しかし、コックピットが開くということは満たされていた液体が噴き出ることをも意味していて。


コックピットのそばにいたサリドはもろにそれを浴びてしまった。


疲れた表情で、笑いながら彼は一言。


「緊急装置、異常なーし……」




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