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手榴弾は確かに爆発した。
ヴァリヤーが思った通り、“第三世代の外装の負傷は”一切見られなかった。
「閃光で一時的に視界を封じるか……。まぁそれもよかろう。しかしこちらにはセンサーがある。これがあればどこに隠れようと……」
ヒュロルフタームには何者がいないか探すために赤外線センサーや鉄分検知器、これは血などから何処にいるか判断するものだ、などがあり、常に稼働している。
しかし、今そのセンサーの反応を示すはずの画面が、
砂嵐と化していたのだ。
「?! そんな馬鹿なッ!! なぜセンサーが反応しない?! ……何故だ……!」
ふと、ヴァリヤーは思った。
サリドという青年が最後に放った手榴弾。
実はあれは『外にダメージを与える』ものじゃなく、
“ジャミングによって中の機械にダメージを与える”ものだったのではないか、と。
レイザリー王国は資本四国の中でも一番の技術国だ。仮にそんなものが作られていてもおかしくはない。
ただ、思ったのは。
仮に、それがあったとして、なぜあの青年は知っているのか?
そして。
手榴弾の爆発の一瞬の隙を狙って、近くのビル――どちらかと言えば瓦礫の山に近いのだが――に隠れたサリド、グラム、リーフガットの三人は、息を整えていた。
「……!! あんなことするなら先に言っておきなさいこの馬鹿!! 思わず死ぬところだったわ!!」
リーフガットはサリドに食ってかかるように叫んだ。
「でもあのヒュロルフタームから逃げるためにはあれが必要だった。あれしか方法がなかったんですよ。何も言わなかったのは申し訳ないと思ってますけど」
サリドは息が切れているのか、途切れ途切れに言った。
「だからってあれはねぇよ……。なんでお前手榴弾なんか持ってんだよー! ここは戦場じゃないんだぞ!! お前はいつもウエストポーチに手榴弾を入れておかないと不安な人間なのか?!」
「いや、グラム。違うんだよ。このウエストポーチ、いつも持っていってるから軍のとこにも持ってってるんだよね。……で誰かが悪戯でいれたんでしょ」
「危険すぎるなそれ!! 最悪自分のウエストポーチで爆発するんじゃね?!」
「でも今回は手榴弾入れた人間に感謝するわ」
「それは俺も同じだ。サリド」
グラムはそう返した。
「ひとまず逃げたが……、どうする? にしても『フラッグ・ボム』の爆発時に発生する微弱な電磁波によるジャミングをするとはな。さすがの私も驚きだったぞ」
リーフガットがサリドに語りかける。
「兄ちゃんが武器開発に一役買ってましてね。たしか『オプグランドセキュリティ社』だったかな」
「オプグランド……。たしかリフディアに本社を置いていたな。神殿協会御用達の武器制作会社だったか」
神殿協会。
大神道会と並ぶ二大宗教として世界を蹂躙しようとしている組織。
――まあ表向きには『全知全能の神「ドグ」の御言葉によって世界を安寧に導く』ということらしいのだが、彼らは大神道会と違って神の名のもとに、と言って武力行使をもする連中である。
「……じゃあお前の兄は神殿協会なのか?」
「兄どころか家族全員が神殿協会ですよ」
サリドは忌々しそうに呟いた。
「……そうか。なんか済まないな」
リーフガットは何かを悟ってこれ以上聞くのを止めた。
刹那。
サリドたちが隠れていた瓦礫の山が爆発を起こした。
「サリド!! 逃げろ!! お前が爆乳上官と話しているうちに第三世代の通信機器は復活したようだぞ!!」
と瓦礫の山から外を眺めて、グラムは叫んだ。
「やべぇ!! つい話してたらこのザマだ!! どうやってやつを倒そう!!」
「倒すよっか行動不能に陥らせたほうが早い気がするけどな!!」
サリドとグラムは走りながら、話す。
生憎、あの第三世代はプロトタイプだったせいか速度が遅い。それがサリドたちにとっては運がよかったことなのだろう。
「……待てよ。行動不能……か」
サリドは何かを思い付いたのか、
「そうか……。グラム!! 俺の言う場所を端末で調べてくれ!!」
そう言ってサリドはとある場所を言う。
「……お、おいっ!! そこはたしか……」
「いいから調べろ!! たしかこっから近いはずだ!!」
「……わかった」
そう言ってグラムは携帯端末に指を滑らしはじめた。