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FORSE  作者: 巫 夏希
『蝶のように舞い蜂のように刺す』――プログライト戦争
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そこにあったのは小さなマンホールだった。


そして扉を開けると、そこには人一人がやっと入れる縦穴があった。


「もうちょいマシに隠せよなー。まあ、あいつらもまさかこんなところから潜入するなんて誰も思ってないだろうな」


サリドはそう言って、梯子を降りようとして――しかしそれをやめ、訝しげに中を見つめた。



「……どうした?」


グラムはサリドの行動に疑問を抱き、尋ねた。


「……いや、なんでもない」


そう言って、サリドは縦穴を降り始めた。




縦穴はそれほど深くなく、五分と降りる内に通気孔らしき空間にたどり着いた。


「……ひでぇ匂いだ。鼻が曲がるくらいだぜ」


グラムが鼻を触りながら、言った。


サリドは端末からアンテナのようなものを突き出し、「そうだね。でも食べ物か何かが腐った匂いだから、有毒なガスとかではないと思うな」


「なぜそんなことが言える?」


「グラム。そろそろ自分のもつ携帯端末の機能くらい覚えておこうぜ。この端末にはそういうのを測るセンサーがあるんだよ」


「へえ、初めて知ったな」


グラムは携帯端末を適当に弄りながら、言った。


「んじゃ、向かいますか」


サリドはそう言って歩き始めた。



そのころ、ベースキャンプにいたリーフガット・エンパイアーはノートパソコンを開いて何かを見ていた。


「……遅いわね……。そろそろきてもおかしくないのに……」


彼女はとある資料を見ていた。


それは、これから来るはずであろうヒュロルフタームパイロット、ノータの資料。


「『蟻蜂ぎほうの騎士』……か。しかも『第2世代』のヒュロルフターム、ユローに乗っている……」


彼女はため息をついて一言。


「せめて設計図的なのをつかめれば今後の直接戦争に役立つのだけどね」



そのときコンコン、と言葉を遮るようにドアがノックされた。


「どうぞ」


リーフガットが入室を許可すると、扉は開いた。


その入ってくる姿を見て、リーフガットは驚いて何も言えなかった。


「すみませんね。我が国は『資本四国』の中でも情報統制が厳しくてですね。このような不意打ちのようなことをしてすいません」


そこにいたのは――10歳くらいの女の子。


緑色のぴちぴちの防護服が彼女の体型を強調している。


「……ライバック共和国第五ヒュロルフタームパイロット・ノータ、アリア・カーネギーですね」


リーフガットは、静かに書類を見ながら言った。


「ええ。間違いありませんよ?」


「女性……よね」


リーフガットは小さく呟いたつもりだったのだが、アリアはそれに反応し、「女性ですが、何か? 私はあなた様みたいにそんな大きい“脂肪のかたまり”をつけてはおりませぬ故。だいたいそんなのあったら肩が凝りますし、コックピットが狭苦しく感じますわ」


鼻をヒクヒクと震わせながら、言った。



「しかし……『蟻蜂の騎士』が来るなんて。敵はそんなに強いのかしら?」


リーフガットは机上の紙の書類を整理整頓し終えて、立ち上がった。


「……強い? そんな簡単に言い表せるほどの敵じゃないわ」


「それは、いったい?」リーフガットは一瞬考え、その言葉を口にした。


「……メタモルフォーズ」


アリアは唇をほとんど動かさず、ただそれだけを言った。


続けて、「神話上に出てきた、と言われる『神の使い手』。人によっては『神獣』とも言うかもしれないけど、それを知るのは軍でも一握りの存在」


「その、メタモルフォーズが、敵?」


「いいえ違うわ。確かにあれはメタモルフォーズの形を為してはいるけれど、」


「けれど?」アリアの言葉が一旦途切れ、不審に思ったリーフガットが尋ねる。


「けれど、あれは違う。神話によればあれの放つ咆哮は下手すればこのプログライト帝国を一瞬で消し去る程の力を持っている。でも、そんな素振りはない。……ただ、それだけのこと」


「つまり」リーフガットが机に手をやって言う。


「あれは、偽物?」


リーフガットの質問にアリアは笑って、「偽物、というか劣化版のほうが近いかな。と言っても我々にそれを研究する術がないがね。まず肉片からでもほしいところだ」


それを聞いてリーフガットは、アリアに悟られないようにではあるが、内心驚いていた。


(つまりグラディアでサリドたちが倒したのは偽物。あの肉片を調べれば何か解るかも、ということね)


そんなことを考えながら。


「……ところで、なぜこの情報を簡単にも教えてくれたのかしら?」リーフガットは薄汚れた銀のコーヒーカップをコーヒーマシンに持っていき、エスプレッソのボタンに手をかけて言った。


「……我々だけ知っててもフェアじゃありませんからね。なにせ今回はレイザリーとの共闘。精々足を引っ張らないようにお願いしますよ」


そう言ってアリアは部屋を後にした。


一人残ったリーフガットは苦虫を潰したような表情で出来上がったエスプレッソをちびちびと飲み始めた。



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