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「これがレイザリー王国にも三台しかないって言われるダンスゲームマシンだ。これのすごいところと言ったら、今までのダンスゲームは足で決められたボタンを踏むんだが、これは赤外線をカメラから受け取って映像の動きにあったダンスをするとポイントが入るってやつだ。足に加えて手も入るから難易度はマックスなんだぜ」
そういうことで、グラムは意気揚々とサリドにゲームセンターの説明(グラム曰く、『ゲームセンターツアー』)を開始したのだった。
そんなこんなでゲームセンターツアーも終盤を迎えてきた辺り、一回りして入口付近のUFOキャッチャーのゾーンまで辿り着いたあたりだった。
「……ん。あの子……」
ふとサリドは何かが目に入ったので、立ち止まった。
「どうした? サリド。なんか気になるゲームでもあったか?」
「いや……、何となくそこにいる女の子が気になっただけで……」
サリドは何故か言葉を濁して答えた。
「ん? ……あれ、よく見たら彼女、見ない顔だな……。初めてなのかな?」
どうやらグラムにもその正体は解らないようだった。
彼女はUFOキャッチャーをやっていた。入っている賞品は人気よりひとつ世代の遅れたぬいぐるみが乱雑に置かれていただけだった。ちょうど彼女はその中にあるひとつを狙っていたようで、それをハンドで掴んであと少しでゴールの所まで来ていた。
しかし、神様というのは非情なもので(実際にいるのかも怪しいものがあるが、そういう観点はこの際なしにする)、ゴール目の前にしてぬいぐるみは「さようなら」と言っているかのように落下していった。
彼女の艶やかな金髪が、可憐に舞った。
そして彼女は、UFOキャッチャーのマシンに回し蹴りを食らわせた。
「……駄目だ。サリド。あんなやつ、絶対好きになるやつなんていねーよ」
グラムはサリドの肩に手を置いて同情するように言った。
「なんで同情みたいになってるの?! 別にそんなのじゃないよ!」
「なんだ? 違うのか? 俺はてっきりお前があの子に一目惚れでもしたかと……」
「それって一体どこのラブコメだよ! ってかベタすぎる展開だな!」
グラムとサリドの漫才的なやり取りが暫く続いたところで、サリドがふと少女がいた方を見た。
「ねぇ。あんたら……何やってるのかしら?」
少女はサリドたちの目の前に聳え立っていた。
「えっ? いや、別にうちらはただゲームセンターの中を巡ってただけで……」
「……普通の人間ならLSSの匂いなんてしないと思うんだけどなぁ」
空気が、凍りついた。
「……何故、それを知っている? LSSを知ってるってことは、お前も普通の人間ではないな?」
答えたのはサリドだった。
LSS……Life Support Solutionの略で生命維持溶液というものだ。これを何十倍にも薄めたものが、所謂生理食塩水で水分が不足した時によく用いられる。LSSの主な用途は、ヒュロルフタームコックピット内に充満させる。これによりノータは常に酸素と栄養を体内に取り込み、万全を期した状態で戦えるのだ(生理食塩水とLSSの成分は酷似しているが唯一違うのは酸素の有無である。LSSには入っているが生理食塩水には入っていない)。