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その頃、サリド。
漸く耳が治ったと思いきや今度は濃霧。正直なところ、これが彼の精神を酷く衰弱させてしまうのだった。
「……卑怯な手を、姉さんは相変わらず使うね」
「卑怯ではありません。戦術のうちの一つです」
レイシャリオは冷笑して、サリドの言葉に返した。
「でも……霧を払ってしまえばこっちのもんだ!」
サリドはそう言って構えをとり、回し蹴りをした。しかしながらそれは誰にも届くことはなく空を斬っただけなのだが。
「何をした……?」
レイシャリオはその直後に冷や汗を浮かべる事になる。
なぜか?
回し蹴りによって発生した気流が比較的濃くまとまっている霧を散開させ、完全に見えなくしたのだ。つまり、“霧”という障害が無くなればサリドの行く手を阻むものは無くなるのだった。
「……姉さん。もう止めにしようよ。どうして争わなきゃならない? 血を分けた姉弟じゃないか。どうして?」
「ふん。私は姉だから戦わないだとか、弟だから守るとか、そういう世界の理屈が大嫌いなの。所詮人間はいつかは一人で生きていかねばならないのに、いつまでも頼りきってしまったり、頼られてしまっては、どちらも、一人では生きていけなくなる。中毒に近い状態になるわけだ。そんな人間どもばかり出来てみろ? 世界は少なくとも限りなく早く終焉を告げる。だからやらねばならないんだ。我々、神殿協会が!」
「……つまり、姉さんは自分の願いを叶えるために今の立場でいると……」
「あぁ、そういうことだ」
レイシャリオは口元を綻ばせて、呟いた。
「お前とはこの勝負、決着をつけておきたいものだが……、如何せん作戦は成功してしまった。空白化のための痼は残せた。残念ながら、ここまでだよ」
「……なにをした?!」
「なに、ここで一番高い建物を破壊したまでだよ」
レイシャリオは笑って、なんと堂々とゆっくりと歩いてサリドたちの前を通り過ぎ、作戦基地をでていった。
それをサリドたちは唖然としてなにもすることが出来なかった。