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『地下帝国への入口』というのは意外にも簡単に発見された。
雑木林の中に一本だけ、違う樹が生えていたからだ。
「……バレバレにもほどがある。罠か、それともただのバカか」
「罠でもバカでも入るしかないよ」
サリドはそう言い、スイッチを押す。
刹那。
ゴゴゴゴ!! と地面が低く唸りを上げる。
そしてそこからなにかが競り上がってくる。
その形は、いわば円柱。
「おいおい、マジかよ……」
グラムが驚きながらも、呟く。
「ほんとうだよ」サリドは競り上がる円柱を見上げながら、「きっとこれが入口だ」
そのころ、どこかの牢屋。
ところどころが切り裂かれボロボロになった軍服を着た少女は、声も出さず泣いていた。
心が、折れかけていた。
プライドが砕かれかけていた。
彼女の、『ヒュロルフターム』のパイロット、ノータとしての。
平民からここまで登り詰めた、という彼女のプライドや覇気はもはや消えかけていた。
風前の灯火。
彼女の状態は、そんな感じだった。
「あれ? ここ、どこだろう?」
彼女の聞いた声は一瞬、幻のようにも感じられた。
しかし、それはすぐに覆された。
「サリド、てめえ、迷いやがったな! 畜生……。ここはいったいどこだ?」
「見た目から牢屋とか、そんな感じかな? 少なくとも有益なものはなさそうだね。はやく姫様を探しに行こうよ。グラム」
名前の知らない、二人組。
この声は聞いたことがある。彼女は確信した。
作戦前に出会った兵士。
なぜ彼らはここにきたのか?
そのとき、サリドと呼ばれた少年から言われた目的。
『姫様を探しに行こう』
彼女自身が軍内で姫、と呼ばれているのは彼女自身もわかっていた。ノータに特別な意味を持たせる、兵士に兵士とノータの違いを見せる、ための“あだ名という名の敬称”。
他のノータは『蟻蜂の騎士』とか『火薬娘』とか『闇の袂』とか、なんだかかっこいい名前をつけられているのに。
国の定めか、単純な『姫』だけ。
姫、と言っても国を指揮したり、王様の隣に座ったり、豪勢な城にいるわけでもない。
彼女は指揮される立場で、座るべき場所はヒュロルフタームのコックピットで、彼女にとっての城がヒュロルフターム・クーチェなのだ。
「おい! もしかして……」
兵士の声が、姫様の前で響いた。
「えっ」姫様は声をだした。
つもりだったが聞こえなかったのか、兵士は耳をたてる。
「グラム、どうしたんだ?」
「サリド、姫様が見つかった」
「えっ」
どうやら先ほどの兵士たちだったのか、と姫様は安堵する。
「立てるか?」
「グラム、それより足枷手枷を外そう」
「おっと、そうだな。針金とかあるか?」
「あったら簡単なんだけどね。生憎そんなのはないよ」
「くっ、こうなったら……。姫様、動くなよ」
グラムはホルダーから小型の銃を取り出し、それを彼女の両腕と両足につけられている枷に向かって撃った。
サイレンサーをつけていたのか、音がその牢屋に響くことはなかった。
総ての枷が破壊され、自由の身となった彼女。まずは手足をちゃんと動くか確認するように動かした。
気づいたら彼女は泣いていた。
なぜだかは解らない。
ただ、無意識に、彼女は涙を流していた。
「お、おい? 大丈夫……か?」
グラム、と呼ばれたサングラスをかけてラッキーストライクを吸っているのが似合いそうな青年は尋ねた。
「どうして、ここまで来てくれたの?」
「?」
「何を言ってるんだ?」
今度はサリドと呼ばれた年相応に見えない幼い顔の青年が答える。
彼はアサルトライフルのAK47を肩にかけ、「困ってる人間を救っちゃ悪いのか?」
「……いや、別に」
姫様はサリドの予想外の発言に何も返すことができなかった。
「じゃあ、脱出するぞ……、って姫様怪我してるじゃないか。こんなところだと破傷風にかかっちまう。とりあえずここを脱出しよう」
グラムは姫様の怪我をした右足を見て、言った。