二人目の無自覚
「本当か小僧!見つかったって!?」
冒険者組合の個室で顔を合わせるなり、思わず大声出しちまった。
このロドとかいう小僧が言うには、あたしハイドランジアは、
バンシーという他人の死を未来視してしまう種族らしい。
正体を教えてくれたこの小僧に頼み、もし同族を見つけたら、
あたしも自分の事を知りたいから紹介してくれと頼んでたんだが。
「はい。まあ僕もまだお会いしていないんですが、
彼女の話だと職人街にいるんだそうです」
「ん?彼女?」
今あたし達は個室で二人きりなんだが、彼女って誰だ?
疑問に思ってたら、小僧の懐から黒猫が顔を出した。
まだ仔猫といった感じだ。くっ、かわいい。こっち見てる。
「にゃー」
「この子、ノーチェからの確かな情報です」
んあ?猫からの情報だと?
いやこの小僧、イカレた奴だとは思っていたが、何言ってるんだ?
◆
この仔猫は実は猫ではなく、ケットシーという種族という事だった。
証拠を見せますね、と言って小僧は妙な首飾りを仔猫にかける。
『はじめましてー、おねーさん。あたしノーチェってよばれてる。
十歳のケットシーだよー。よろしくー』
なんか女の子の声が聞こえてきたぞ!?なんだこりゃあ?
「えーと、首飾りは僕が試作している翻訳器です。
これでノーチェと直接会話が可能になるかと」
え、これってこの仔猫がしゃべってるのを人の言葉にしてるのか!
ああ、猫じゃなくてケットシーだっけか?良く分からねえが。
これも小僧の言ってた「少数種族」って奴なのか…。
そういやこの小僧、確か自己紹介で魔術師って言ってたっけ。
すげえな、魔術師ってこんなものをほいほい作れるのかよ。
この見た目は黒猫のケットシー、ノーチェの言うところによれば、
職人街の食堂で働いているヴェッチという女性がバンシーだと。
小僧から、一週間料理におまけをつける事を報酬として、
少数種族の捜索を手伝っていたところ、彼女を見つけたらしい。
このノーチェも小僧に教わって色々魔術が使えるんだそうだ。
すげえなケットシーも。そこら辺の人間よりすげえぞ。
◆
職人街に小僧とあたし、ノーチェの二人と一匹?三人?で向かう。
さすがに肝心のヴェッチって人には話しかけていないらしい。
そりゃあそうだ、この翻訳器ってのがないと「にゃー」だしな。
何言ってるんだか分りゃあしねえ。
ノーチェは今、翻訳器を外している。
あまり自分がケットシーであるという事は知られたくないそうだ。
確かに目立つもんな、見た目黒い仔猫がしゃべってると。
食堂なので、ノーチェは小僧の懐に隠れた。
「あの女性らしいですね」
件の食堂で席について、小僧が目でヴェッチを指し示す。
ぱっと見、あたしと同じ位の年齢に見える普通の女っぽいが。
確かに何か感じ取れるものがある。同族同士だからか?
注文を取ろうとすると、ヴェッチが寄って来た。
「お客さん、ご注文お決まりならどうぞ」
あちらさんは気づいているのか不明だが、こっちと目を合わせない。
ずっと小僧の方を見て話をしている。
「ええと、オススメの料理を二人前お願いします。
あと、ちょっとお姉さんにお伺いしたい事があって。
この後お時間取れないでしょうか?」
「あらら、女の子と一緒なのに大胆にもお誘いかな?
そんなのお連れの美人さんに怒られますよ。
まあ、今はすいてる時間なので構いませんよ」
ヴェッチは笑顔でそう言って、一応の了解を得た。
◆
こりゃあまいったね。
彼女、ヴェッチもあたし同様に自覚がなかったと来たよ。
ひとつ年上だった彼女は、ばあさんの死を見てしまったそうだ。
今のところ直接的な未来視はそのひとつだけ。
あたしより種族の情報を持っていなかった。
成人する直前にばあさんは亡くなり、この食堂で働いてるらしい。
ここの食堂は家族でやってて、おやじさん、おふくろさん、
あと二人の兄貴さんと彼女で切り盛りしている。
ばあさんの死の未来視は、怖くて家族にも言っていないらしい。
それでもあたし以外にバンシーがいると知ってホッとした。
ヴェッチも自分だけじゃないと知って嬉しかったようだ。
バンシーを良く知る奴がいれば、この不安も安らぐかもしれない。
小僧もノーチェもまだ調査は続けていくそうだ。
またバンシーが見つかったら教えてくれるとも約束してくれた。
情報がいつか手に入って欲しいもんだ。
ケットシーは「町の同居人?」でも登場しましたが、
こちらは王都であちらは王国の別の町です。
あ、普通の魔術師は翻訳器をほいほい作れたりしません。
ノーチェは普段、王都街中とロドの住む借家を往復する毎日。
ケットシーは並みの人間より体内魔素が多い(下級貴族には及ばず)。
ハイドランジアは結構かわいいもの好き。
ノーチェをモフりたくて仕方がなかったらしいが、
嫌われたくなくてためらっていた。




