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ここはなにかが欠けている

二人目の無自覚

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/29

「本当か小僧!見つかったって!?」


冒険者組合の個室で顔を合わせるなり、思わず大声出しちまった。

このロドとかいう小僧が言うには、あたしハイドランジアは、

バンシーという他人の死を未来視してしまう種族らしい。


正体を教えてくれたこの小僧に頼み、もし同族を見つけたら、

あたしも自分の事を知りたいから紹介してくれと頼んでたんだが。


「はい。まあ僕もまだお会いしていないんですが、

 彼女の話だと職人街にいるんだそうです」


「ん?彼女?」


今あたし達は個室で二人きりなんだが、彼女って誰だ?

疑問に思ってたら、小僧の懐から黒猫が顔を出した。

まだ仔猫といった感じだ。くっ、かわいい。こっち見てる。


「にゃー」


「この子、ノーチェからの確かな情報です」


んあ?猫からの情報だと?

いやこの小僧、イカレた奴だとは思っていたが、何言ってるんだ?


◆


この仔猫は実は猫ではなく、ケットシーという種族という事だった。

証拠を見せますね、と言って小僧は妙な首飾りを仔猫にかける。


『はじめましてー、おねーさん。あたしノーチェってよばれてる。

 十歳のケットシーだよー。よろしくー』


なんか女の子の声が聞こえてきたぞ!?なんだこりゃあ?


「えーと、首飾りは僕が試作している翻訳器です。

 これでノーチェと直接会話が可能になるかと」


え、これってこの仔猫がしゃべってるのを人の言葉にしてるのか!

ああ、猫じゃなくてケットシーだっけか?良く分からねえが。

これも小僧の言ってた「少数種族」って奴なのか…。


そういやこの小僧、確か自己紹介で魔術師って言ってたっけ。

すげえな、魔術師ってこんなものをほいほい作れるのかよ。


この見た目は黒猫のケットシー、ノーチェの言うところによれば、

職人街の食堂で働いているヴェッチという女性がバンシーだと。


小僧から、一週間料理におまけをつける事を報酬として、

少数種族の捜索を手伝っていたところ、彼女を見つけたらしい。

このノーチェも小僧に教わって色々魔術が使えるんだそうだ。

すげえなケットシーも。そこら辺の人間よりすげえぞ。


◆


職人街に小僧とあたし、ノーチェの二人と一匹?三人?で向かう。

さすがに肝心のヴェッチって人には話しかけていないらしい。

そりゃあそうだ、この翻訳器ってのがないと「にゃー」だしな。

何言ってるんだか分りゃあしねえ。


ノーチェは今、翻訳器を外している。

あまり自分がケットシーであるという事は知られたくないそうだ。

確かに目立つもんな、見た目黒い仔猫がしゃべってると。

食堂なので、ノーチェは小僧の懐に隠れた。


「あの女性らしいですね」


件の食堂で席について、小僧が目でヴェッチを指し示す。

ぱっと見、あたしと同じ位の年齢に見える普通の女っぽいが。

確かに何か感じ取れるものがある。同族同士だからか?


注文を取ろうとすると、ヴェッチが寄って来た。


「お客さん、ご注文お決まりならどうぞ」


あちらさんは気づいているのか不明だが、こっちと目を合わせない。

ずっと小僧の方を見て話をしている。


「ええと、オススメの料理を二人前お願いします。

 あと、ちょっとお姉さんにお伺いしたい事があって。

 この後お時間取れないでしょうか?」


「あらら、女の子と一緒なのに大胆にもお誘いかな?

 そんなのお連れの美人さんに怒られますよ。

 まあ、今はすいてる時間なので構いませんよ」


ヴェッチは笑顔でそう言って、一応の了解を得た。


◆


こりゃあまいったね。

彼女、ヴェッチもあたし同様に自覚がなかったと来たよ。


ひとつ年上だった彼女は、ばあさんの死を見てしまったそうだ。

今のところ直接的な未来視はそのひとつだけ。

あたしより種族の情報を持っていなかった。


成人する直前にばあさんは亡くなり、この食堂で働いてるらしい。

ここの食堂は家族でやってて、おやじさん、おふくろさん、

あと二人の兄貴さんと彼女で切り盛りしている。


ばあさんの死の未来視は、怖くて家族にも言っていないらしい。

それでもあたし以外にバンシーがいると知ってホッとした。


ヴェッチも自分だけじゃないと知って嬉しかったようだ。

バンシーを良く知る奴がいれば、この不安も安らぐかもしれない。


小僧もノーチェもまだ調査は続けていくそうだ。

またバンシーが見つかったら教えてくれるとも約束してくれた。

情報がいつか手に入って欲しいもんだ。

ケットシーは「町の同居人?」でも登場しましたが、

こちらは王都であちらは王国の別の町です。


あ、普通の魔術師は翻訳器をほいほい作れたりしません。

ノーチェは普段、王都街中とロドの住む借家を往復する毎日。

ケットシーは並みの人間より体内魔素が多い(下級貴族には及ばず)。


ハイドランジアは結構かわいいもの好き。

ノーチェをモフりたくて仕方がなかったらしいが、

嫌われたくなくてためらっていた。

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