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1章-④ 屋上二度目

 正午になった。


「よし、じゃあ屋上行こうか。ヨー君」

「……おう」


 トーカらしからぬ言動の数々は、朝の一件だけでは終わらなかった。

 言動や授業への姿勢、友人らとの距離感に至るまで──仔細こそ省くが、トーカはしばしば介入してきたのだ。ハラハラした表情というか、落ち着かない態度で。

 ハッキリ言おう。

 昨日までの彼女とは一線引いて異なっていた。


 何なら、今だってそうだ。

 昼休みの食事を教室ではなく屋上で──という趣向でもなかったハズなのだ。

 浮かれているだけなのか。ただ、それにしては。

 

 ……いやに胸騒ぎがするのだ。


「いただきまーす」

「……いただきます」


 屋上に広げた弁当に手を付けながら、味は何も分からなかった。

 折角トーカが久方ぶりに飯を作ってくれたというのに。

 ……そうやって、オレが俯いてボソボソ食べていたせいだろう。


「ねぇ……今日のお弁当、味付けヘンだった?」


 不安げにトーカが切り出してきたのは必然だった。


「いや! 旨い、旨いぞ。何だ、どうしてそんなコトを聞くんだ」

「ううん、ごめんね。勘違いだったら悪いけど、今日のヨー君元気なさそうに見えたからさ」


 決して確信があった訳でもないのだろう。声が自信なさげに尻すぼみになっていくのが、いい証拠だった。

 ……相変わらず勘が良い。


(……やはり薄々気づいてたんだ。トーカはトーカで)


 観念するワケでもないが、オレは白状する事にした。


「トーカ、昨日は夕日が綺麗だったよな」

「……え? う、うん」


 目の前の変な男から求められた唐突な同意に、戸惑いながらも何とか頷いてみせるトーカ。

 そんな彼女に、オレは続ける。


「その茶色の髪が夕日を背景に、赤っぽく映ってよ。あの時直接言えなかったけれど、見惚れてたよ。惚れ直したんだ、オレは」

「…………」


 トーカは何も言わなかった。

 オレは視線をあの瞬間、彼女に告白されたフェンス沿いの方角に向ける。

 奇しくも、それは今の彼女を見なくて済む方角だった。


「自慢じゃあないが、オレはこれで結構モテるんだ。冗談半分かもしれないが、女の子に告白された経験もひとりやふたりじゃあない。だから、お前に呼び出された時だって、心構えは出来てた──」


「その上で、惚れたんだ。いや、恋愛感情自体はずっと以前から存在してたのかもしれないが」


「ともかく──教えてくれないか。トーカ」


 一息吐いて、オレは漸く振り返る。

 振り返った先には──。


「昨日のコト、忘れたんだろ」


 ──誰も、いなかった。

 食べかけの弁当箱と敷かれたシートだけを残して、篠原は姿を消していた。

 屋上に繋がるドアが風に吹かれて、キイキイと鳴るのみ。

 たった一人で屋上に取り残されたオレは、その後チャイムが鳴り終えるまで立ちつくしてから、ようやく重い腰を上げた。


 とっくに授業は始まっていたし、先生には怒鳴られた。

 令和の時代にここまで怒られる事あるかというくらい大目玉を食らったものだが──オレはひとつ、安堵した。


 篠原冬香がその日、体調不良により早退していた事に、だ。

 とてもじゃあないが、合わせる顔なんて持ち合わせていなかったからな。

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