プロローグ
生涯16年目の春先。
オレは拷問にかけられていた。
時刻は正午。
場所は現代日本における一般的な高等学校。そんな状況下において、本格的な其れは中々お目にかかれないはずだった。
だから夢物語と勘繰っていたのだ。ほんの数刻前までは。
「ヨーくん、はいアーーン! ……うん、うん。私の作ってきたカレー風味卵焼きは美味しかったかな?」
「あ、あぁ。旨かったとも。いつもありがとうな」
教室の勉強机を囲み向かい合わせになるオレ(十文字陽一)とその幼なじみ(篠原冬香)は、仲睦まじく昼食を取っているところだった。
勿論男女ペアだ。
篠原手製の弁当箱を開け、おかずの一品に舌鼓を打つ──それだけを汲み取った部外者にしてみれば、初々しいカップルの一コマとして写っただろう。実情は兎も角。
さて、話を戻そう。現在進行形でオレが受けているこの拷問の正体こそが彼女なのだから。
断っておくが、それは彼女の作ってくれた弁当がマズイだとか、彼女自身に非があるといったオチではない。
弁当は頭の血管がぶち切れそうな程に旨いし、篠原冬香本人は美人で性格も非の打ち所のない天然記念物染みた女性である。見ているだけで癒やされる魔性っぷりだ。
故に問題があるのは、認識の方だ。オレの頭か、オレ以外の頭なのか?
前者だった場合、オレには証明する術がない為にその説は捨てておく。
後者についてのみ、今回は考えていく。するとどうだろう。思い込んでいるのだ──篠原は、オレとの関係を正しく誤認していた。
「いや、ホントにありがとな。弁当箱は洗って返すから」
「? どうしたの、珍しくかしこまっちゃって……あぁ、昨日のアレまだ引きずってるのね。もう気にしてないってば──」
つい余所余所しくなってしまうオレに気づいてか、篠原は大げさに胸を張って破顔した。片手をヴイの字にして、こちらに向けてくる。
まるで甲斐甲斐しく弟の面倒を見てしまう過保護な姉のようであった。
──というオレから見た認識が、やはり次点の一言で崩される。
「──私はヨー君のママだもんねぇ」
篠原はさもありなんといった具合にそう言ってのけた、が。しかしこれが問題だった。
オレにとっては例え話でも、篠原にはそれが真実だという。
そう──篠原曰くコイツはオレの母親であり、オレはコイツの息子なんだと。
冗談でもなんでもなく、真顔で言ってくれやがったのだから。
……十六でタメのはずだなんがなぁ! バブがバブ産んだってか、馬鹿が。
拷問──程度の差こそあれど、それは対象となる人物に物理的あるいは精神的な負荷をかけ続けることで、そいつを貶め──有利な自白を強要したり無茶な要求を呑ませることを指す。
オレにとっては、まさに今この時間こそがソレだった。




