第1話 はじめまして。小寺ゆうきです。
ゆうきの本
はじめまして。小寺ゆうきです。
「はじめまして。小寺ゆうきです」
都内の大きな駅前の喫茶店で待ち合わせをしていたゆうきと初めて会ったとき、私は本当に(とっても)驚いた。
ゆうきは女の子だった。十四歳の都内のある有名なお嬢様学校に通っている真面目で優秀な成績の(いわゆる模範的な)生徒らしい。(本当は違うんですけど、と言って、ゆうきは小さく笑いながら赤い舌をちょっとだけ出した)
水色のスカーフを巻いた、白い靴下と、綺麗で高価なぴかぴかの革靴と、清楚で可憐な白いお嬢様学校の制服を着ているゆうきは、きちんとした背すじを伸ばした姿勢で両方の手のひらを膝の上で重ねるようにして、椅子に座っていた。
私は今年で四十歳になる。
結婚をしていないし、子供もいないのだけど、十四歳のゆうきは年齢的には自分の娘だとしてもおかしくない年齢だった。(なんだか、ちょっとだけ落ち込んでしまった)
私は『ゆうきのお母さん』でもおかしくない年齢だった。
もちろん、お嬢様のゆうきみたいにとっても可愛らしい女の子が生まれてくるわけでもないのだろうけど、私にどこか似ている、年齢的には思春期となり、生意気になっている十四歳の女の子が私の家にいて一緒に生活をしている、ということもありえたのかもしれない。(いや、やっぱりなかったのかな? 二十代や三十代の私はたぶん、どんなことがあっても、結婚はしなかっただろうし、子供を産んだりもしなかっただろう)
ゆうきとはあるネットの有名なサイトで知り合いになった。
ゆうきはそのサイトに朝の時間に小説を投稿していて、私はその小説を読んで面白いと思った。(人気もそこそこあった。たまによく読まれています、のところに表示されるくらい)
連絡をしてみようかな? と思ったのだけど、やめた。
この人はきっと、このまま小説を書いていけば、いつかきちんとみんなに読まれるような小説を書けるようになるのだろうって思ったからだ。それにこの人は誰かほかの人の力が欲しいって探しているみたいにはあんまり思えなかった。連絡をしても断られるかなとも思った。(本当の本当の理由は、私の心の一番奥のところからこの人と一緒に本を作りたいって、そんな強い欲望が湧いてこなかったからだった)
私は、ゆうきのことをずっと男の人だと思っていた。(小寺ゆうきは、『ゆうき』というシンプルな名前で小説を書いていた)
それも、二十代ではなくて、三十代の初めくらいだろうと思っていた。
だから私は十四歳のお嬢様のゆうきを見て、とっても驚いたのだった。
だって、そこにはお仕事でアイドルをしていますって言われても、全然驚かないくらいに美しくて可愛らしい真っ白な花が咲いていたのだから。(あるいは、今、まさに私の目の前で咲こうとしている希望に満ち溢れた白い花のつぼみがあったのだから)