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わらし!第二話(最終回)

作者: ゆきぽ
掲載日:2025/07/22

辛い現実がありながらも暖かくて人の優しさや愛に気付かせてもらえるような作品にしあげました。

大切な人を思い出せるそんな作品になれたら幸いです。最終回、よろしくお願いいたします。

わらし!第二話

私はわらしと共にわらしのお母さんの元へ尋ねてきた。まだ体が辛そうなわらしに肩を貸して一緒に歩く。わらしの緊張が伝わってきて、こちらまで緊張してきた。

(こまり)大丈夫?

(わらし)こまりさんがいるから、頑張る。

少し歩くと綺麗な広い庭の家がみえた。そこには成人した女の人三人がわちゃわちゃと楽しそうに話しているのがみえた。

(わらし)お姉ちゃん。楽しそう。

(こまり)お姉さん。

その後、わらしのお母さんが出てきた。高そうな靴やバックを身につけてわらしはいつも着物一枚なのになんかムカムカしてくる。

(わらし)なんか…僕の入る隙がなさそう。

家族みんな仲良さそうで、もっとイライラしてきた。

わらしは疎外感でいっぱいなのに...

(こまり)大丈夫。私が行く。あの!

勇気を出してお母さんに話しかけてみた。

(わらしのお母さん)え?

(こまり)今、この地域で調査を行っていまして…お子さんについてなんですが…

(お母さん)何も問題ないはずですが…どうして?

(こまり)男の子…いらっしゃいますよね?といいますか、いらっしゃいましたよね?

(お母さん)何を言っているのか分かりませんが…何かの検討違いでは?うちは娘しかいません。

(こまり)娘さんの前で嘘をつき続けるんですか?

(お母さん)酷い言いようね!なんの調査員だか分かりませんが、これ以上しつこかったら訴えますよ?

(わらし)こまりさん…もういいよ。検討違いだった。帰ろう?

(こまり)だめだよわらし。このままじゃ、わらしが…

(お姉さん)お母さん、この人達、何?早く出掛けましょ?

(こまり)警察に行ってください!あるいはここで謝ってください!

(お母さん)警察に行くのはあなたでしょ?ここで誰に謝るって言うのよ!

(こまり)ここにいるから!あなたが殺した小さな男の子!産んでから育てられないからって名前もつけてもらえないであなたに殺されてずっと何十年もずっと一人で誰にも見つけてもらえずに!殺されたのにお母さんに会いたいって今でもあなたを想って、このまま帰れるわけないじゃないですか!

(お姉さん)殺した?この人変よ!警察に連絡しましょ!

(こまり)ここで謝ってもらうだけでいいからお願いします!

(お母さん)そんな子産んだ覚えがありません!お引き取りください!

(わらし)産んだ…覚えが…ない…

(こまり)わらしごめん今…今謝ってもらうから!

(お母さん)謝る?何をしたって言うの?まぁ、ペットみたいなのは飼ってた覚えはありますけど…

(わらし)ペット…

(こまり)あなたがやったことは犯罪です。

(お母さん)は?どこが?食べ物も与えてやったし、匂いだって我慢したし、ずっとお母さんお母さんお母さんお母さんって!うるさくてうるさくて!大量に注射したら静かになるからそれで我慢してたのに、今度は犬みたいに息づかいがうるさくて袋でふさいだだけのこと。こっちの方が被害者だわ!死んだ後、私の金のネックレスがでてきて!いつ盗んだのか。強盗犯ですよ!

わらしはへたっと膝から地面に座り込んだ。

わらしから黒いもやのようなものがでていた。

僕はお母さんにどこかで愛されていると信じたかった。痛い思いをして産んでくれたこと、ありがとうと言いたかった。ずっと会いたかった。

けど…それは僕の大きな勘違いだった。

お母さんとお父さんの怒鳴り声。こんなにたくさん育てられないというお母さんの声。

狭い部屋に閉じ込められて、お母さんに会うことだけを願って注射で悶えてる時、苦しくて苦しくてもうどうしようもなくなってお母さん!お母さん!と叫んでしまった。大量に注射された時、「ハッハッハッハッ!」と犬みたいに息をしていた時、お父さんが酸素を持ってきてくれたけど、それより…それより…

「お……かっ……さっ……のっ……ハッハッハッハッハッハッ!!きんっ……いろっ……ハッハッハッハッ!!くびっ……つけっ……て……苦しい苦しい苦しいっ!!」

「ネックレス…かな?分かった持ってくる。」

お父さんがネックレスを持ってきてくれたときには僕はぐっしょりと倒れ込んで意識をもうろうとさせていていつの間にか僕の手にネックレスが握られていた。そのネックレスは僕をたくさん勇気づけてくれた。僕が産まれてからお母さんがずっと付けていたもの。だから酸素より何より欲しいものだった。

なのにそれを強盗だとさっきお母さんが言った。苦しくてお母さんと叫んでいた時もうるさいとお母さんの指示で大量の薬を注射した。

お姉ちゃん達の楽しそうな声が僕の心をへし折る。僕は最初からいらなかった。

(わらし)なんか…力入らない…僕は最初から最後まで愛されてなかった。僕の勘違いだった。

(こまり)だめだよわらし…このままじゃ、悪霊になっちゃう!

(わらし)悪霊になるからこまりさんにはもう会えない…こんな僕のこと信じてくれて愛してくれてありがとう。

(こまり)いいよ?悪霊になっても私のそばにいていいよ?というかそばにいてよ…

(わらし)こまりさんに不幸になってほしくないんだ。きっと意識なく酷いことたくさんするから。なんか…体がよどんできた。

(こまり)わらし!

私はわらしをぎゅっと抱きしめた。

(こまり)私が愛すから。わらしがどんな姿になってもずっとそばにいさせて?お願い!お願いわらし…

(わらし)それは…できない。悪霊になってもしこまりさんを傷付けるようなことをしたとしたら僕は僕を許せないから。さよなら…元気でね、こまりさん。

(こまり)嫌…わらしだめだって…このまま一人にさせたくないよ…辛いまま一人で帰るところなく、忌み嫌われてさまよい続けるなんて苦しすぎるから…

しかしわらしはさぁっと黒いよどみをまとったまま消えてしまった。

わらしはそれからずっと現れることはなかった。

私はわらしへの想いをつのらせたまま、誰もパートナーを作らず過ごしていた。

そんなある日、友達と泊まった宿で力を制御できない幽霊が住み着いているという噂があった。

近々徐霊すると。それがもしわらしだったら…

私がゆうゆうと生活しているうちに力を制御できないくらいによどみに飲み込まれてしまっているとしたら…

どんなに辛い毎日を送っているのか…

夜、よく現れると噂の部屋に入った。

(こまり)わらし?いるの?いたら返事して?

ゴンッ!

暗い静かな部屋に大きな物音がしてそこを覗き込むと膝を抱えて鋭い目付きのわらしがいた。

(こまり)わらし…会いたかった…

(わらし)お前、何しに来た?

(こまり)何しにってわらしが大変なことになってるって聞いて…

(わらし)来るな!

びくっ!

その時のわらしの目が見たことない形相で私を睨み付けた。でも…怖さよりわらしの目がすごく悲しそうで辛くなった。私と離れてる間、悪霊としてみんなから嫌がられてその上心霊体験ができると話題にされて辛かっただろうな。

(こまり)わらし、帰ろう?私の家ならいくら暴れてもいいよ?わらしが元気になるまでそばにいるから。絶対嫌なことしないから。帰ろう?

(わらし)…

(こまり)ねぇわらし…私と一緒に帰ろ?ね?

わらしのそばまでしゃがんで近づいた。

(わらし)うるさい!来るなっていってるだろ!

ガシャン!

(こまり)…

気がついた時にはもう遅く、僕はこまりさんを突飛ばし、こまりさんは棚の角に頭をぶつけ、血を流し倒れていた。

(わらし)こま……りさ?や…だ……こまりさん!こまりさん!こまりさ!こま…こまりさ…なんで……助けようとしてくれたのに...帰ろうって言って…なんで…!

こまりさんの頭に手を当てても直す力はとっくのとうに消えてしまって…

(こまり)わらしの……せ……い……じゃ……な……よ……

(わらし)こまりさぁぁん!

こまりさんは救急車で運ばれ、緊急手術を受けて頭を包帯でたくさん巻いて痛々しい姿だった。

(わらし)ごめんこまりさん、ごめんなさい、ごめんなさいこまりさん…

(こまり)私が……自分で……転んだの……大丈夫…だよ?それ……より……わらし……すごく辛そう…

(わらし)だめだよこまりさん起きないで?寝てて?

こまりさんは術後の痛みがあるのに、ぎゅぅっと抱きしめてくれた。

(こまり)ごめんね…わらし…一人にして…辛かったね?一人で怖かったよね?どんどん力強くなって辛かったね?もう大丈夫、大丈夫だからね。

こまりさんはどうしてそんなにも他人の気持ちが分かるのだろう。

(こまり)私が…わらしのこと誰よりも愛してる。だから、帰ろう?わらしの居場所はここにあるよ。大好き。わらしが悪霊でも座敷わらしでももうなんでもいい。大好き。

心がぽかぽかと暖かくなる。母に愛されなかった苦しみの上に酷い人間からの扱い。それにより力が暴走していた。

けど、こまりさんはどんな僕でもどんなに傷付けてしまっても愛していると言ってくれた。その言葉と暖かさが僕の心を溶かす。こんな僕にも居場所がある。そんな居場所がこまりさんだ。

僕はこまりさんと一緒にいることに決めた。僕が来てからこまりさんのお気に入りの高価な花瓶やお皿が次々と割れたり、こまりさんの体調が優れない日が続いたり突然家中の水がでなくなったりこまりさんに悪いことばかりが続く。

けど、そんな出来事も全部笑って僕のせいじゃないと言ってくれた。

よどみに飲み込まれてしまう時はどうしようもなくなる。

(こまり)わらし、見て?育ててた花が咲いたよ!わらしが来てから悪いことばかりじゃないよ。小さい幸せがいっぱいあるから私は不幸じゃないし、何より大切な人と一緒にいれるから私は幸せ。だから僕のせいでって口ぐせみたいに言うけどもうそんな風に言わないでいいよ?

(わらし)…綺麗事いいやがって…

(こまり)わらし?またよどみが…!

わらしに黒いよどみが湧きとりまく。私が…私がわらしを助ける。

ぎゅっとわらしを抱きしめた。よどみに私も飲み込まれてもかまわないからわらしが辛い思いをもうしないように。

わらしの目が赤く変わった。その瞬間、頭に激痛が走った。

(こまり)いっ!いたっ!いたいぃぃ!

頭が割れるくらいに痛くてうずくまって動けなくなった。

僕は力を使うとハッと我に返るらしい。

(わらし)こまり…さ…また僕の力で…頭痛いの?

(こまり)あっ...あっ...ああああ!!

(わらし)こまりさん!救急車!

僕の腕のなかでこまりさんは頭を抱えて唸り続ける。

(こまり)わら…はぁっはぁっ!だいじょっ…だいじょぶ…そんなに…痛く…なっ…わらしの…力じゃ……な……ぜった…ちが…あっあっあああああぁ!!

(わらし)こまりさん…もう…やだ…こまりさんを殺したくない!

病院でこまりさんは寝ていた。朝方、こまりさんは目を覚ました。

(こまり)わらし?泣いてる?辛い?まだよどみにやられてるの?私が一緒にいるから、辛いのも全部受け止めるから...

(わらし)もう…嫌なんだ。何よりもこまりさんを危ない目に合わせることが一番辛い。こまりさん、僕たち、もう離れよう?一緒にいたら何度も殺しかけてしまう。もう嫌だ!僕はこまりさんが誰より大事なんだ!だから…もう会わないよ…

(こまり)わらし…そんなこと言わないで?わらしがまた一人で辛い思いをするのは嫌だよ。

(わらし)さよならこまりさん…

そう言ってわらしはすぅっと消えた。

僕は人をおとしめることでしか生きられない悪霊になった。

僕が訪れるとみんな笑顔がなくなっていく。意識がなく暴走した後、いつもたまらなく絶望する。

また行くところがなく、途方にくれて疲れはててたどり着いた先にも家庭のある家でそれでもここにいさせてほしくて…

できるだけ目立たない隅のほうで子供の姿でちいさくなって座り込む。

家族の笑い声に耳が痛くなる。楽しそうな会話と夕飯を家族みんなで囲んで食べている。泣きたくなってまたふつふつと怒りがこみ上げてくる。

人間が大好きだったのにみんなの笑顔を守る守り神になれていたのに、今は幸せそうな家族を見るとものすごく辛くなる。それがピークに達すると意識がなくなって暴走する。母の産んだ覚えはないと言う言葉。

こまりさんのことはあんまり考えないようにしている。彼女に近づいたらいけないから。楽しかった思い出も大好きな表情やしぐさも思い出さないようにしてとにかく暴走だけはしないように...

(子供)ねぇ、座敷わらしって本当にいるの?

ひっと声が出た。

(お母さん)幸せを運んでくれるっていうあの?

(子供)僕は車のおもちゃが欲しい!

(お母さん)サンタさんじゃないんだから。でも本当にいたら会ってみたいわね!

サンタクロースとか、ただ会ってみたいだけとか…僕はなんなんだ。どこに行っても悪い家族はいないけど居心地が悪い。胸がえぐられるくらいに居心地が悪い。

考えちゃだめだ。彼女のことを考えたらいけないんだ。ものすごく会いたい。会えなくても彼女の声を少しでいいから聞きたい。一秒でもいい。会いたい。

夜中になって、よどみが体に巻き付いて巻き付いて離れなくてこういう時意識がなくなる前兆で怖くて仕方がなくなる。外にでてこの家族だけは壊さないようにしたいのに、よどみが体にぎゅぅっと巻き付いて苦しくて苦しくて少しも動けない。

(わらし)おねがっ……もうやめっ…許してっ……壊したくない…おねが…おねがっ…おねっ…

わらし、元気かな?少しでもわらしの力が強くならないことを毎日毎日願っている。わらしには笑ってて欲しい。どうかどこかで元気で過ごしててほしい。一人で泣いてることがないように...どうか…

あれから1ヶ月が過ぎた頃、ある動画に一件、座敷わらしの霊が各地で暴れていると霊敗師を名乗るアカウントが動画をアップしていた。

家の中をめちゃくちゃにして取り憑いた家の家族には必ず怪我を負わせるという内容だった。

映像には勝手に机や本棚が浮いて叩き落とされている姿が映し出されていた。

これはわらしじゃない。だってこんなことできる人じゃない。

でも…仮にあの時みたいに意識がなくなって力を制御できなくなってしまっていたら?

意識が戻って絶望して泣いていたら?もし…この霊敗師に徐霊されてしまったら?

私はどうなってもいい。わらしがどんな姿でもいい。行く場所がなくてでも行くところ行くところで暴れてしまって一人で震えているかもしれない。

今度は私がわらしを助ける!

僕はガクガクガクガク震えが止まらなくてたくさんの家を壊してその後救急車が来てサイレンがなるなか逃げて...

もう…これ以上誰も傷つけたくない。なのに...なのに...

こまりさんに会いたい…

震えが涙が止まらなくて止まらなくて息のしかたも分からなくてサイレンの音が聞こえる度に過呼吸になって…

「わらし!」

こまりさんの声が聞こえて…

(わらし)こ……ま……り……さ?

耳にサイレンの音がこびりついてよく聞こえなくて空耳かもしれないけどはっきり僕を呼んだ声が聞こえて…

扉の向こうで聞こえて…でも開けてまた傷つけてしまったら最悪の事態まで起こしてしまったら…

でも…もう…限界…

(わらし)こま……りさ?僕…おかしくて…怖いよね…こんな僕…会いたくないよね……でも……声だけ…声だけ聞かせて?声……だけ……

シーン…

(わらし)おね………が……震えが……止ま……ら……止ま……ない……

ガクガクブルブルと手が震えて震えて扉に手を掛けて少しも力が入らなくて会いたい会いたい会いたい会いたい!

1分でも一秒でも会いたい...わらしって呼んで?もう一回…

(わらし)わらし……て………よ……ん……で?

ガチャッ!

その時扉が空いた。愛しい人が目の前に…いなかった…

知らない男の人が立っていて霊を排除する専門のナイフを持っていた…

(わらし)や……だ……もう…苦しいの…やだ…

グサッ!グッ!!

(わらし)あっ...…あっ...…あっ...…

ふ…らっ…ドシャァッ!!

サイレンの音がみんなの悲鳴が耳鳴りみたいに襲ってきて尋常じゃない痛みが息の根を止めようとする。

(わらし)ハッハッハッハッ!!んっ……あっ...…ごめっ……なさっ……ごめなさっ……ごめっ!!ごめっ!!ハッハッハッハッァッ!!!ごめっ…な…さ…ハッハッハッんっあっ!!

こまりさん…こまりさん…こまりさん…こまりさん…会い……たい……

ふらっ!ふらっ!

瞬間移動する力がなくて立ち上がって意識がもうろうとする中、愛する人に会いに行く。拒絶されたってかまわないから…扉越しでいいから声だけ聞かせて…

(わらし)ハッハッハッハッハッ!!あああ…!!

深く脇腹に刺さったナイフが息とともに揺れてそれとともにとんでもない痛みが走る。

足が震えて震えて…本当に少ししか…歩けない…進んでるのかさえ分からなくなって…

も……無……理……

ドサッ!!!

(わらし)ハッハッハッハッハッハッ!!!あああああぁ!!ハッハッハッハッハッァ!!

上を向かないと空気が吸えない。苦しい苦しい苦しいっ!!

その時…

「わらしぃ!」

空……耳?

(こまり)わらし!わらし大丈夫だからね!今ナイフ抜いてあげるからね!大丈夫絶対大丈夫だから…!

ナイフがわらしの脇腹に深く刺さってそれを抜こうと手を掛けても全く抜けなくて…

なんで…わらしは何も悪くない…

(こまり)なんで抜けないの??痛いよ…わらしが…消えちゃうよぉ!!

(わらし)こ……ま……さ……ごめっ……ね……

(こまり)なんで謝るの?わらしは悪くないよ?こんなに震えて辛かったね?悪いのはわらしじゃない!わらしをこんなにしたこの世界が悪いんだ…わらしは誰よりも優しいの知ってるから...だからこんなに辛くて苦しい消え方しないで?私、この世の中のみんながわらしのこと拒絶しても私はわらしを愛してるから!こんな消え方…やだよぉ!!

わらしを抱きしめて全身を優しく撫でた。肩を激しく揺らして荒く短い息が私の心をかき乱す。一回一回吐き出すような苦しそうな息づかい。わらしが怖いくらいに酷く震えて震えて…

わらしを助けたいのに方法が分からなくてとにかく家に連れて帰った。

図書館に行って幽霊の本を片っ端から借りてきて早くわらしのナイフを抜かなきゃ!願うならば元のわらしに戻る方法を。

部屋で本を読みあさっている時だった。

ガタンッ!!

大きな物音がしてその部屋に行くと立つこともできないはずのわらしが立っていてよどみが部屋中に漂っていてナイフが刺さったままの意識のないわらしを操り、わらしは赤い目をして肩を激しく揺らしながらものすごく苦しそうな顔で辛くなるほど震える手を振り上げて部屋中の家具を浮かせては叩き落として…

椅子やテーブルがトルネードのように飛び交う。

わらしが死ぬまで操るつもりだ。

(こまり)わらしぃ!今助けるからね!

嵐の中を一歩一歩わらしの元に近づいていく。でも…

ガン!ゴン!

(こまり)ひっ!

ものが体にぶつかって歩けば歩くほど怪我を負う。それでもわらしを助けたい。もう少し…もう少しでわらしの手を握ってあげられる。

でも…

ガシャーン!

(こまり)ゔっ!!

頭にガラスが勢い良く投げつけられ、頭から血が大量に流れる。

(こまり)わら…し…手をすごく…震えてるから…にぎって…あげ…

その時わらしの脇腹に刺さったナイフに目が現れ、脇腹から腰にかけてググッと下にスライドし切り裂いていく。

(わらし)あ...あ...あああああぁ!!

白い着物が血で真っ赤に染まっていく。わらしはもう少しも力が残ってないのに2本足で立ってふらっ!ふらっ!と酷く酷く右に左に千鳥足でよろけながら、一人で立ってもう見てられなくて…

ふらっ!!

(こまり)わらしい!!

とっさに後ろによろけたわらしの背中を支えてぎゅっと抱きしめた。わらしは肩だけで息をしていて私の肩に届かないくらいの短くて本当に荒々しい息で…もうほとんど力がなくて私に体重をかけて倒れ込むような体制でしだれてしだれて…

(こまり)わらし?わらし分かる?こんなの苦しすぎるよ…!!

(わらし)こ………ま………け………が………し………て………

ほとんど声がでてなくて震えた唇からささやくようにそう言った。

なのに...ふたたたびナイフに目が現れ、わらしは…

(こまり)わらしぃ!!もうやめてぇ!!これ以上わらしを殺さないでぇ!!

そんな力、残ってないのにわらしは叫びながら息を荒げながら両手を動かし家中を壊していく。

家の柱や屋根までギギギギと音を立てる。

(わらし)わああああ!!あああああぁ!!ハッハッハッわああああ!!!

泣きながらすごくすごく苦しそうに...

(わらし)わあああぁあ!!!わああぁああ!!ハッハッハッハッハッ!!!

口をへの字にして泣いて泣いて泣いて…どんどんこちらにしだれてしだれて…体勢を直してもわらしには起き上がる力が全く無くてこちらにぐったりと倒れ込んで倒れ込んで…早くベッドに寝かせてあげて…酸素…早くあててあげて…早く早く…早くぅ!!

(こまり)わらし?聞こえる?抱きしめてるの分かる?いいよ?わらしが分かるまでぎゅぅって抱きしめてあげるから…

その時、ぴくりとわらしの体が反応した。

(わらし)こ……ま……

(こまり)大好きだよわらし…私じゃだめかな?私がいくらでも嫌ってくらいわらしのこと愛してるから。それじゃ足りない?わらしがどんなことしても…各地で恐れられる幽霊でもそんなのかまわない。愛してるから。何度でも何千回でも言ってあげるから。愛してるよわらし。この世界の誰よりも自信ある。

その言葉はサイレンの音よりもみんなの罵声や非難の声、悲鳴よりもお母さんの産んだ覚えがないという言葉よりも僕の頭のなかに心のなかに確かに響いた。

ぎゅぅっと強くこまりさんが抱きしめてくれている。ガラスが当たって頭が血だらけになってもそんなのおかまいなしで僕のことしか見てなくて。すべてが真っ黒になってこんな世界を壊してしまいたいと思っていた心が恨み辛みしかなかった心が優しくて暖かくてぽかぽかと暖まっていく。

僕は十分に愛されてるし、こまりさんを愛している。それが何より幸せなことかなんで気がつかなかったんだろう。

(こまり)わらし?息が…

わらしの息は本当に苦しそうに荒々しく雑にリズム乱して私の肩にふりかかる。私は更にわらしの全身を力いっぱい撫で続けた。

(こまり)やだぁ…わらし消えちゃやだぁ…行かないで?愛してるから!

その時…パアッと大きな光に包まれた。わらしに巻き付いていたよどみが消え、ナイフも抜けていた。わらしの息も徐々に整ってきた。

(こまり)よ...…かっ……

(わらし)こまりさん。愛してくれてありがとう。僕も同じくらいこまりさんのことを愛してる。けど、さようならしなくちゃいけない。

(こまり)さよ……なら?

(わらし)成仏しなきゃならない。

(こまり)なんで?やだ!

(わらし)幽霊だから…

(こまり)幽霊じゃなかったら…殺されなかったら…一緒に暮らして結婚して人間として一生一緒に幸せになれたのに…

(わらし)僕もそうなれたらって何万回も考えた。でも叶わないんだ。

(こまり)わら…し…

僕は涙をたくさんためたこまりさんにキスをした。

(わらし)ありがとうこまりさん。こまりさんは絶対幸せになれる。

そう言ってわらしはすうっと光の中に消えていった。

数年後。

一年付き合った彼から話があるとレストランに呼び出された。

(彼)結婚を前提に本格的に付き合いです。これから同棲して結婚のこと一緒に考えていきたくて。

そう言われるのが怖かった。泣いたらだめなのに…涙が止まらなくて酷い女すぎる。

(彼)やっぱり、死んだ彼氏さんのこと…だよね…

(こまり)ごめんなさっ…まだ…忘れられないし、忘れたくない。

(彼)こまりが無理してるの、なんとなく気がついてて気付いてたのに気付かないふりして焦った。別れよう。こまりにこれ以上無理させるのはやだから。

(こまり)ごめんね…ありがとう…

七夕は織姫と彦星が一年に一度だけ会える。一年に一度…どれだけ願っても一度も叶わない。大好きなあなたに会いたい。

初めてわらしに出会った7月10日に旅館の竹の間で一人そとを眺めるこれを一年に一度できるだけで十分…十分幸せだ。なのに...幸せなはずなのに…

なんで涙が止まらないの?

その時…

「こまりさん!」

空耳ではない確かに大好きな人の声がした。

振り替えると大人の姿のわらしがそこに立っていた。

(こまり)なん…で?

(わらし)毎年、この日になるとこまりさんがここで一人で泣いてること…知ってるから...黄泉の国の支配人に説得して毎年、一年に一回現世に戻ってきて言いと許しをもらったよ。もちろん、僕が必要じゃなくなったら消えるけど…

(こまり)必要なくなるわけ…ずっと会いたかった。愛してるよわらし。ずっとずっと…

お互いに泣きながらぎゅっと抱きしめ合った。世間は幽霊が彼氏なんかと言うかもしれないが、私にとっての幸せは誰にも決められない。私の生きる希望はわらしだから。

今回は読み手の方にも幸せな気持ちになってもらえるよう、ハッピーエンドにしました。

よくバッドエンドにしてしまいがちなのですが、主人公には幸せになってもらいたいと誰もが願うはずなので人の暖かさや愛を重視しました。

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