研究所
「ぼ、僕じゃないです!た、確かに僕も銃を持っていましたけど
部屋に置いていましたし、僕はカプセルに入ってすぐ眠ってしまったので、そ、そんな事出来ません!」
一生懸命弁明するソンの横でハルが何かを思い出した様に言った。
「そういえば・・・私がカプセルの中に入ろうとした時、ソンさんの横にいた
所員の方が、オリジン博士にソンさんが眠ったのを報告していました。
私、それ聞いていました。」
ハルの言葉を聞くよりも、みんなの中に気の弱いソンに、そんな大それた事が
出来る筈がないと気づき、ソンの話を信じた。
それを見ていたレオンは、別な何かに気づき言った。
「なるほどね~この銃は、愛しのお姫様を守る為の武器ってことなんだな。
ありがたく借りておくぜ。」
ソンの手から銃を取るとレオンはしげしげとソンの作った銃を眺めた。
「へ~上手く作ってるじゃないか。感心、感心。」
と言いながらレオンは銃をポケットに入れた。
「じゃあ、それぞれ明日から動こう。」
ケントの一言で、食事を終えたみんなは、解散した。
ジャックは眠る前に談話室の上にある温室に植物の様子を見に行っていた。
「変だなぁ。ここの植物は、街にある植物と同じはずなんだけど・・・
それにしては・・・。」
ジャックは植物1つ1つを見て回り、ノートに何かを書き込んでいた。
ケントは部屋に戻る途中、廊下にいたソンに話しかけた。
「あんなもの作れるんだな。」
「え?ああ・・・そ、そうですね。ぼ、僕は、昔から身体が弱くて・・・運動も
得意じゃ無かったから、いつも部屋でこ、工作ばかりしていました。
父親が街のエンジニアだったので、色々と教えてもらいました。だから大概の物は
作れます。」
「銃は、他にも作ったのか?」
「い、いえ、、さっきの1つと・・・後・・・・。」
ソンは、何か言いかけて途中でやめた。
「どうした?」
「い、いえ、な、何も。それでは、又明日。」
そのままソンは部屋に続く廊下歩きながら、さっきポケットに入れた薬莢を
取り出し呟いた。
「やっぱり・・・これは・・・あの人にあげた物だ。どうして・・・・。」
その日ケントとハルは、コロニーと研究所を繋ぐ長い廊下でレオンを待っていた。
そこに、レオンがあくびをしながらトボトボと歩いて来た。
「遅いぞ。」
「わりぃ~わりぃ。つい、いつもの癖で寝坊しちまった。行こうぜ。」
「はい。」
コロニーの長い廊下を歩いて行くと、頑丈な扉の前に出た。
研究所とコロニーを繋ぐ扉は、ウィルスがコロニーに入り込まない様に作られていた。
ハルが手に持っている紙に書かれたパスワードを扉の横に付いている
ナンバーキーに打ち込むと、長い間使っていなかったせいか
扉はギーギーと鈍い音をさせながら開いた。
真っ先にケント達の目に入って来たのは、荒れ果てた研究所の姿だった。
イスは散乱し、人が世話をしなくなった花達は枯れ、天井に張った蜘蛛の巣が
時間の経過を物語っていた。
「酷いものだなぁ~・・・俺達が来た時は、綺麗で最新の設備であちこちいっぱい
だったのになぁ・・・。」
「そうみたいだな。仕方ないさ。これが人間がいなくなった部屋の末路だ。あそこが
コンピューター室だな。」
コンピューター室に続く廊下を曲がったその時、一瞬誰かが横切った様な
気がしたケントは慌てて後を追った。
「おい、待て!」
「おい!どうしたんだ!?」
「ケントさん!?」
2人の声にケントは追いかけるのをやめた。
「あ・・・すまない。人影が見えた気がしたんだ。」
「こんな所に人がいるわけないだろう~?まだ寝てるんじゃないのか?それより
ここがコンピューター室みたいだぜ。」
見ると扉の前には【コンピューター室】と書かれていた。
中に入ると、ここでも床に紙が散乱し足の踏み場も無い状態だった。
それに、昼間だと言うのに不気味なくらい静かで暗かった。
「さっそくデータを見てみますね。」
ハルはコンピューターを触ろうとしたがあまりの不気味さに、手が震え
なかなか思う様に動かない様だった。
それを見ていたケントは思わずハルの手を握った。
「・・・あ、ありがとうございます。もう、大丈夫です。」
そう言うとハルはカチャカチャと慣れた手つきでコンピューターを使い始めた。
ケントは自分がハルに差し伸べた手を見ながら、今までどんな相手でも自発的に
そんな事をするなんて、一度もしたことがなかったが
ガタガタと震えるハルの手を見ていると
思わず手を握ってしまった自分に驚いた。
「おい、ケント、ちょっとこっちに来てくれ。」
何かを見つけたのか、レオンがケントを呼んだ。
レオンが呼ぶ方に行ってみると、コンピューター室の奥にある部屋に着いた。
その部屋の前の扉には【所長室】と書かれてあり
その下にオリジンと書かれてあった。
「ここって、あいつの部屋じゃないのか?」
「みたいだな。入ってみよう。」
部屋の中に入ると、今まで見た部屋と違って綺麗に整理整頓されたデスクが
そこにはあった。
まるで、さっきまで人がいた様な気配さえ感じられる部屋だった。