それぞれの役割
それから各自が部屋に戻って行ったが、食欲がないのか
食事の時間になっても誰1人として部屋から出て来なかった。
ケントも食欲はなかったが、長い間眠っていたせいか
異様に喉が渇き食事室へと向かった。
行くと、そこには凄い勢いで掻き込むように食事をするジャックがいた。
「あ・・・。」
「ああ・・・いたのか。」
「ハイ。お腹が減って。みなさんが現れないので一人で食べていました。」
「よく食えるな。」
「食べないと・・・。心は元気がありませんが、身体はそうではないので。
それに、いざと言う時に食べておかないと身体は動きませんからね。それと・・・。」
「それと?」
「ユナさんの分まで頑張らないと。」
ケントはコップに水を入れた。
「そうか・・・。」
「私の育った地区は、その日食べる事がやっとの貧しい所で
地区に住むほとんどの者が、マリーさんの様なお金をたくさん持っている方の
お屋敷で雇ってもらっています。決して満足できる額のお給料では無いのですが
それでも食べれないよりマシと思って毎日ヘトヘトになりながらみんな働いています。
両親もそうでした。ボクが子供の頃から休みなく働いて頑張っていました。
その姿を見ていたから、いつか自分が大きくなったら、両親に楽な暮らしをさせてあげたいと
自然と好きな植物学者を目指す様になっていました。
毎晩毎晩働きながら帰ってきたら日付が変わるまで勉強をしました。
そんな時、オリジン計画のメンバーに選ばれて。植物学者になる道は遅くなりますが、
とりあえず両親達の生活は安定するかと・・・。」
「なるほどな。」
ケントはコップに入れた水をゴクゴクと飲み干した。
「ハイ。ウィルスの事がなければ、計画していた通りになったかも知れませんけどね。
でも、学んだ知識は、ここでもみなさんの役に立てると思います。だから
どんな事があっても、食べるんです。食べないとダメなんです。」
「そうだな・・・。俺も食うか。」
ケントが食事の準備をしようとした時、部屋にハルが入って来た。
次にソンがそしてマリーとレオンが入って来て全員が揃った。
みんなは、ケントとジャックが食べている所を見ると、それぞれテーブルに
自分の分の食事を運んで流し込む様に食べ始めた。
「みなさん、明日から、ボクはコロニーに置いてあった種を植えてみようと思います。
どこまで育つか分かりませんが。ここの上には、温室が用意されている様なので
そこで育ててみます。」
ジャックがそう話すと、マリーが珍しく冷静に言った。
「私は、薬の知識を活かして、簡単な薬を作るわ。複雑な薬は出来ないけど
日常に役立つ薬なら、作れると思うから。」
「俺は~どうすっかな・・・。」
レオンは、両手を頭の後ろで組み目を天井の方に向けて考えていた。
退屈そうに話すレオンを見てケントが言った。
「それなら、俺と来ないか?明日から、コロニー周辺を探索しようと思って。
その前にまず研究所に行ってみないとだけどな。」
「研究所?」
「ああ、あそこには眠っている間の、俺達のデータが残っているはずだ。
それとウィルスの計測、その2つを調べに行こうと思う。」
「ふうん・・・・。データを見に行くって、お前機械には強いのか?」
「・・・いや、まったく。」
「なんだよ、それっ!」
みんなはケントの返事に大笑いした。
「じゃあ、私も行きます!」
ハルが手をあげた。
「複雑な機械は触れませんが、簡単な物なら分かると思います。
だから連れて行って下さい。」
「じゃあ、俺も行くぜ。ケント一人には、任せられないからな。」
「じゃあ、決まりだな。」
「あ、あの・・・。ぼ、僕も・・・。」
ソンが手をあげた。
「何言ってるのよ!あんたなんか、足手まといになるに決まってるでしょ!」
マリーの強気な言葉が出て、ソンは黙ってしまった。
ソンは、慌てて何かを思い出した様に部屋に帰っていくと
何かを持って再び戻って来た。
「み。みなさん、こ、これを、持って行って下さい!僕が行くと、み、みなさんの
邪魔になるといけないので・・・。その代わりに、こ、これを。」
ソンが部屋から持ってきたのは、小さな手の平サイズの銃だった。
「あんた、何でこんなものを持っているのよ!?」
「ぼ、僕は、材料さえあれば、こういった物が、つ、作れるんです。
何かの役に立つかと冷凍睡眠の前に作っていたんです。」
ソンはハルの方を向いて、銃を差し出した。
それを見ていたマリーが疑いの眼でソンに激しく問いただした。
「あんたじゃないの?ユナを殺したのは!?」
みんなが一斉にソンを見た。