永い眠り
ケントは、そんな気にもなれず、1人部屋を出て
外の景色が見える大きなガラスの前にいた。
窓から見える星の景色は
もうじき終焉を迎える星の景色の様には思えないくらい美しかった。
ケントはこの雪山には両親と一度だけ子供の頃に訪れた事がある。
また来ようと約束したが、まさかこんな形で再び1人で来る事になるとは
思いもよらなかった。
「お邪魔していいですか?」
ケントの後ろから誰かが話しかけて来た。
赤毛のハルだった。
「ケントさんは、ルート56だったんですね。私が62なのでご近所さん
だったんですね。」
「みたい・・・だな。」
景色をゆっくり一人でみようと思っていたケントからすれば
ハルの存在は邪魔でしかなかった。
しかしそんなことを直接ハルに言う事が出来るわけもなく
ケントはしばらく、ハルの話しに付き合うことにした。
楽しそうに話をするハルを見ていて、彼女は、誰にでも話しかけられるほど
今の環境が割り切れているのだろうか?とケントは疑問に思った。
昨日まで慣れ親しんだ家で暮らしていたのに
こんな所に連れて来られ
今まで家族と共に過ごした場所には
もう二度と戻る事が出来ないかも知れない状況に
ケントは、まだ慣れないでいたが
ハルはさっきまで街にいた様には思えないくらい、明るかった。
それが彼女の天性のものなのか、それとも、みんなに合しているだけなのかは
まだ分からないが、話をしているハルが楽しそうに映っているのは確かだった。
「もう、大丈夫なのか?」
「え?」
「さっき、気分が悪そうだったから。」
「あ、ハイ、大丈夫です。環境の変化もそうなんですが、みなさん、優秀な方ばかりで・・・。
少しとまどってしまいました。」
ハルはにっこりと微笑んだ。
「どうかしました?ケントさん?」
「いや、別に。」
「不安・・・ですよね?冷凍睡眠とか、ここのコロニーだって。
家と違い過ぎて、驚いてしまいます。それに70年後の世界なんて私には想像も
つきません。」
「・・・・。」
「あ、スイマセン。なんか、私ばっかり話してて。」
「別に。誰だって、こんな状況下に置かれたら、そうなると思う。
君は・・・ハルは、よっぽど今まで充実した生活を送ってたんだな。」
「え?」
「いや、何でもない。」
ケントは自分と比較すると、ハルがとても眩しく見えた。
きっと優しい両親の元、何不自由なく育ったのだろうと感じた。
その時アナウンスが流れて来た。
「明日には、長い眠りにつく事になりますので、クルーの皆様は今から
各自部屋でゆっくりとお過ごしください。」
「あ、それじゃあ、又、明日。おやすみなさい。」
俺たちは各部屋に戻って身体を休める事にした。
次の日、ケント達は長い眠りにつくため、冷凍睡眠のカプセルが置いてある部屋に
集められた。
まず、体調のチェックをすると、今度はリストバンドに不具合が無いか
1個ずつ調べる事になった。
どれも異常が無い事が分かり各自に返却されると
生命を維持する小型の機械を
各自身体に付けられ、カプセルの横に立つ様に言われた。
カプセルは蓋部分は透明で、下の部分は淡い青色をしていた。
蓋の横部分には時間を計測するカウンターの様な物が他の装置と一緒に付いてた。
ケントはそのカウンターに目をやった。
《これで時間を管理するのか。》
ケントがカウンターを見ると、70と言う数字がデジタル表示されていた。
「これは、君達が眠りにつく時間をカウントしてくれる装置だ。
表示が70となっているのが確認出来るかな?。
君達が深い眠りにつくと同時に数字が点灯し、カプセルの中に身体の機能を
安全に停止させるガスの様なものが送られて来る。
それから約1時間後にカウント開始となる仕組みだ。
この数字がゼロになる頃には目が覚めている頃だろう。
目覚めたらここでの生活が待っている。まず目覚めたら、ウィルスの計測をする様に。外の安全を確認したら、環境を調べ始めてくれ。とにかく、目覚めのコーヒー
なんて優雅に飲んでいる時間は無いと思ってくれ。諸君たちの検討を祈る。」
オリジン博士はそう言うと、睡眠室から出て行き、研究員達が
それぞれのカプセルの横に立ちケント達が入るのを待っていた。
ケント達は順番にカプセルに入り研究員達がそれを見届ける頃には
オリジン博士が言っていたガスがカプセル内に流れていた。
《本当にウィルスは、目が覚める頃にはこの星から消えているのだろうか?
世界は、どう変わっているのだろうか・・・。》
ケントはそう考えなが深い眠りについた。
みんなの意識が薄らいだ頃、、1つのカプセルの蓋が開き、再び閉まる音が聞こえた。
それから数分後、今度は別の場所のカプセルが開き
誰かのうめき声が聞こえカプセルの蓋は閉まった。
ケントは意識が薄らいでいく中で、確かにその音を聞いた。
他の者達が、その音に気が付いたのかを
カプセルの中に入った今となっては、聞くすべはなかった。
思えば、この2つの音が、後々ケント達の運命を
大きく変える結果となるのだった。