自己紹介
「よろしく。」
ジャックは明るい声で挨拶をした。
「ジャック君の植物に関しての知識と独自の研究は
我々研究所の職員達も目を見張るものがあった。
本来なら、それなりの地位や住む地区にしても
もっと数字の小さな場所に住んでいてもいいとは思うのだが
ご両親の生まれの事情でルート番号は高めになっている。
ここまで言えば、ジャック君の事が分かると思うが。
ま・・・70年たてば、そんな事も関係のない世の中になっているとは思うがね。」
ジャックのルート番号を見ると、この中でも一番低い地位にいる事は間違いなかった。
このコロニーには実に色んな人種が集まっている。
本来なら、出会う事もない人間もいたかも知れない。
身分、職業、過去に関係なく、本当に平等に選ばれた人間達だと全員が感じていた。
「では、次に、ルート62から来たハル君だ。ハル君は何かみんなに伝えたい事が
ある様なので、紹介の前に少し耳を傾けてやってくれ。」
ハルは、赤い髪を後ろに束ねた、小柄な少女だった。
軽くお辞儀をすると
「あの、これから、長い時間みなさんとここで過ごすので
みなさんと仲良くしたいです。世紀末とか、この世の終わりの様な事で、ここに来ていますが
仲良くなればきっと未来も明るくなると思うので
ど、どうかよろしくお願いします。」
ハルがそう言うとマリーがイラついた様にこう言った。
「私そういうのって嫌いなのよね~
何が未来は明るくよ。あんた本当にそう思ってる?
こんな狭い所に閉じ込められて、70年も眠らされて
挙句の果てに目覚めたらすぐに子作りなのよ?それで幸せと言えるの?
私は嫌だわ。本当はそんな未来望んでもいないし。だいたい私はこんなとこ
来たくもなかったのよ!パパの会社を未来に残すために、どうしても
行ってくれってパパに頼まれて・・・・」
「だったらここから出て行けばいいのでは?」
ジャックが自分の手のひらについたゴミを取りながら、話を続けた。
「君達みたいな人間には分からないだろうけど、どこにいても選択肢のない人間
だっているんです。そんな人間からしたら、少しでもチャンスがあるのなら
手に入れたいと思って当たり前なんです。そして、少しでも親や兄弟達の役に
立ちたいと思う。それが当たり前ではないのでしょうか?
そう思う事が出来ない親なら、子孫なんて残さない方が、逆に子供のためでは
ないでしょうか?ここに来たくても選ばれることができなかった人間だって
いるでしょうから。」
「なっ・・・・!」
マリーは何か言いかけたが、オリジン博士が睨むと、何も言わず席に着いた。
「無駄話しは、それくらいでいいかな?最後は、ルート56から来たケント君だ。
ケント君も毎日何もせず定職には就いていない。半引きこもりというやつだな。
運よくこのメンバーに選ばれてはいるが、両手を上げて喜ぶというわけには
いかないのではないのかな?毎日何もしていなかったケント君からしたら
ここでの規則正しい暮らしは、逆に地獄かも知れないね。ふっふっふ。」
ケントは、何かにつけ鼻につく言い方をするオリジン博士のことが好きではなかった。
きっと長い間一緒に過ごしたとしても
好きにはなれないタイプの人間だと思っていた。
だが、ケントからすると、そんな事はどうでもいい事だった。
たとえ眠りから覚めて役目を果たせなかったとしても
そこで、命が尽きてしまったとしても、どうでもいい事だった。
それは、ケントにとって、ここでの自分の存在意義は両親の為だけだったからだ。
そんな事を考えながら、ケントはみんなに簡単に挨拶をして、席についた。
「次は・・・ルート30から来た、ユナ君だ。」
ユナは黒髪を両側で三つ編みにし、どこを見ているのか
わからないほど、厚底の眼鏡をかけ、本を片手に持つ
典型的な優等生タイプの人間だった。
ユナは何も言わずおじきをした。
「ユナ君はこのメンバーの中でマリー君に引けを取らない、一番の頭脳の持ち主だ。
その高い能力はきっと今後のこの星の未来に役に立つはずだと私は考えている。
そのへんも十分考慮して、男性諸君は選んでくれたまえ。何度も言うが、君達の
役目は子孫を残す事だ。その子孫が優秀であればある程、この星では大いに
役に立つし、いい地区に住める可能性だってある。
ここでは、好き、嫌いではなく、どれだけ優秀な子孫を残せるかだけなんだということを
覚えておいて欲しい。
では、話しはここまでにして、ここでの初めての食事の時間まで、この談話室で
くつろいでいてくれたまえ。」
オリジン博士はそう言うと、部屋から出て行った。
メンバー達は、何も話さず、しばらくは沈黙が続いた。
「あの・・・みなさんは、目覚めたら一番初めに何をしたいですか?」
場違いで呑気なハルの言葉だったが、そのおかげで少なくとも
その場の重苦しい雰囲気はなくなった。
「はぁ?さっきも、そうなんだけど、あんたって、ほんとズレてるわよね~?
何がしたいって、決まってるわ、こんな所から一刻も早く出たいだけよ。」
思った事を誰に遠慮をすることなく発言するマリーは
オリジン博士の言う通り気の強い性格の様だ。
「ボクは植物の研究が続けられれば、それでいい。」
ジャックの様に、何か目的があって、この計画に参加した者は少く
ほとんどが選ばれたから、ただ参加するというだけの
どこか作業的なものだと考えている人間がほとんどだろう。
「ぼ、僕は、ここから出れたら、し、将来の奥さんのために、色々と手作りで
作ってあげたいです。ベビーベットとか・・・。」
真っ赤な顔をしてソンがそう言うと、マリーが鼻で笑った。
「奥さん!?手作り!?ベビーベット!?
あんたにそんな人が出来るとは思えないけど?
一生一人かも知れないでしょ?!笑わせないでよ!」
マリーにそう言われて、ソンはガッカリして下を向いてしまった。