オリジン博士
家の窓から見える星を眺めながら
今までこんなにゆったりと過ごした事がなかったなと気がついた。
いつものデスクに、いつものソファにベッド
そして壁に貼られた推しのバンドのポスター。
ケントがこんなに長い時間眺めたのは
初めてだったのかも知れない。
好きで選んだ物ばかりだったが、流れのままこの部屋で
毎日を過ごしている内に、いつのまにか何も感じなくなっていた。
《俺は一体何がしたかったのだろうか・・・。
毎日何を考えて生きてたんだろう・・・。》
次の日の朝早く、近所の住人に知られない様にケントは家を出た。
もちろん親達の見送りはなかった。
近所の人の手前、極秘に出発しなければならないことを
考えると出来なかったのだろう。
母親だけは、寝付けなかったのか、テーブルの上には
さっきまで飲んでいたのか温かい飲み物を入れた
母親専用のコップが残されていた。
手首にはめたリストバンドが赤く光り、見て見ると
その光は、ある場所を指していた。
《ここに来いっていうことか・・・》
リストバンドが案内する森の中に入って行くと
木々の間に隠れる様に、黒い車が止まっていた。
近付くとその車は、音も立てずにドアが開き
ケントを待っていた様に、車の中に招き入れた。
運転席の方に目をやると、人の姿は見えず
どうやら、この車は無人で動いている様だった。
車のシートに深く腰を下ろすと
リストバンドが車と連動しているのか
カラフルな光を放ち、短い電子音の後、車は出発した。
車の中から外を見ると、いつもと同じ見慣れた風景が流れていた。
ただ1つ違って見えるのは、数か月前とは違って確実にウィルスに汚染され、
人が住まなくなった建物が増えた事だった。
人間が関わらなくなった建物は、雑草が生え
今にも建物を覆いつくそうとばかりに、太陽の方を目指し
上へ上へと伸びていた。
その姿を見ていると
人間がウィルスに負けたのだと言う考えは
現実味を帯び、この星が滅びるのがそう遠くないのだろうと
思わずにはいられなかった。。
山の方に向かい、トンネルを抜けると周りの景色は一変した。
あたり一面が真っ白な雪景色になり
ケントは、滅多に足を踏み入れない雪山近くに来たのだと感じた。
雪に覆われた森の中を抜けると、大きな研究所の様な場所についた。
車から降りると、その建物から白衣に身を包んだ人間が
同じ格好をした人間を何人か引き連れ出て来た。
その人間は、ケントを鋭い目つきで上から下まで
ジロジロと見ると見下す様に話しかけてきた。
「君は・・・ルート56地区から来た、ケント君だね。よく来たね。
私の名は、オリジン。この計画、オリジン計画の責任者だ。
オリジン博士とでも呼んでくれたまえ。
そしてここは、これから君達の全てのことに関するデータを
管理する研究所だ。
中で、他のメンバー達が待っているから、詳しい話は中で話そうか。」
「データ?」
「そうだ。君達がこれから長い眠りにつく間の身体の管理をしてくれる所だ。
眠っている間の血圧、脈拍、呼吸、他にも、ありとあらゆるデータをその
リストバンドから集め、ここで管理してくれる。君達に何かあれば、睡眠中でも
それ相応の処置をし、問題を解決してくれる。言わば、君達の優秀な秘書とでも
言えばいいかな。」
「長い眠り?」
「おや、まさかウィスルが死滅するまでの長い間、起きて待ってるとでも
思っていたのかい?ハッハッハッ・・・。
そんなことをしたら、出てくる頃には君達は繁殖能力を失った老人に
なってしまっているよ。あまりに非現実的な事を考えているものだから
つい笑ってしまったよ、失礼。まぁ、化学がどこまで進んでいるかなんて
一般人の君にはわからなくて当然だな。」
オリジン博士はそう言うと研究所の奥に向かって歩き始めた。