ケント=ディオン
レオンはその足である場所に向かっていた。
そこは、ルート118のある家の前だった。
その家は窓枠も外れ穴が空いた天井からは雨水が家の中に落ち溜まっていた。
「ここか・・・。誰かいるだろうか?」
レオンが扉を叩くと中から1人の年配の女性が出て来た。
「どなたですか?」
「ここに70年位昔、ジャックと言う男性が家族と一緒に住んでいたと
思うのですが、どなたか知っている方はいませんか?」
レオンがその女性と話をしていると、奥の部屋から褐色の肌をした老婆が出て来た。
その老婆は何も聞こえないのか、うつろな目でどこかに視点を
合わしている事も無くぼーっとしていた。
「知らないわ。ごめんなさい。」
「無理もないか・・・70年も前の話しだからなぁ・・・。」
レオンはその場を離れようとした時、家と家の間に
沢山の植木鉢を見つけた。
植木鉢に植えられた植物は、長い間水をやっていなかったせいか
どれもこれも枯れ果て、もはや植物だったのかどうかさえも分からなくなっていた。
さっき入った家から、年配の女性が出て来た。
「あら、まだいたの?ああ・・・それね、私達が、ここに引っ越して来る前から
そこに置いてあったわ。
なんでも植物が好きだった前の住人が大切に育ててたとか。
初めは、ここに植物が並んでたの。これでも、だいぶ処分したんだけどね。
まだ残っていたのね。」
レオンは、直感でそれがジャックが育てていた植物に違いないと思った。
「なんだか、変な所に来ちまったなぁ・・・。だけど、生き残っている人間が多いという事だけは分かった。帰ってみんなに報告する前に、もう1か所行くとするか。」
レオンは立ち去る前に、その植木鉢の上にジャックの写真を置いた。
帰りにレオンはルート8にある建物を見ていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
《そうだ・・・》
レオンはポケットにいつも持ち歩いたロンドと同じお守りを取り出した。
「いい歳こいて、こんな物持てないと思って、いつか捨ててやろうと
思いながら捨てずに持っていたけど。
まさか、そんな事が書いてあるなんてな。どれどれ、・・・。」
ボロボロに汚れ破けたお守りの紐を緩めると中から一枚の紙が出て来た。
その紙は外側の布同様、汚れてボロボロにはなっていたが
かろうじて書かれていた文字は読めた。
レオンは、それが破けない様に慎重に開くと、書かれてある文字を読んだ。
「・・・・・・・!」
レオンは紙を掴んでいた手を力なく、下に降ろした。
紙はレオンの手から落ち、ひらひらと風に舞い
砂ぼこりと一緒にどこかに飛んでいってしまった。
ケント=ディオン。みんなが街に出かけのを見送った後、一番最後に
コロニーを後にした。雪山を歩きながら、変な【違和感】を
感じた事を思い出していた。
そうしている間に懐かしくもあり、自分が茫漠と生きて来た場所についた。
《変わってないな・・・俺が家を出た時のままだ。》
ケントは重い扉を開き、一瞬ためらったが中へと入って行った。
部屋の中は入ってすぐに、みんなで食卓を囲んだテーブルが窓際に置いてあった。
みんなそれぞれが席の場所が決まっていて、その時誰が食卓についていないか
一目で分かるくらいだった。
ケントはいつも自分が座っていた席に座り、そこから母親が立っていた
キッチンを眺めた。
毎日、何も言わずケントの食事を作り、出来上がるといつも明るい声で
食事の時間だと呼んでくれた。
今では、色んな事で負担をかけたのだというのが分かる。
これと言った理由は無かったが、いつの間にか外に出る事も減り
どこにも自分の居場所が無いと思い込み
自分で自分の心の扉を閉めていた。
ただ、今更、それが分かったとしても、やり直す事など出来ず
ただ後悔の波に身体を任すしか無かった。
ケントはキッチンにあったコップを手に取った。
「え!?まさかな・・・。」
手に取ったコップは少し暖かだった。
《まさかな・・・。誰か住みついたのか?》
蛇口から水をひねりコップに入れると、それを一気に飲み干し自分の部屋に向かった。
ギシギシと鳴る階段を登り、壁に飾ってあった母親手作りの
パッチワークを1点1点見ながら進んで行き、部屋の扉を開けた。
窓が開いていたのか、扉を開けるのと同時に花の香りがする風が
ケントの身体の横を通って行った。
揺れるカーテンを見て、窓が開いてる事に気づいた。
《窓が開いている・・・?》
窓を閉めながらケントは母親の最後がどうだったのか
誰か傍に居たのだろうかと考えた。
ふと頬を伝う涙に気が付いた。
涙に気が付くと、どうしようも無い【後悔】と言う感情が再び自分の中に
あふれ出るの感じた。
自分には大切に出来る物があった筈なのに
それに気付かず、毎日ただ生きていた。
それをどこかで分かったいたのに、どうして、その感情に素直に
従わなかったのだろう。
結局、1番楽な方を選んでしまったのかも知れない
そして、自分が1番大切だったのかも知れないとケントは思った。
なんて、狭い世界だったんだろうか・・・と。
ふと足元を見ると、数枚の花びらが落ちていた。
《花びら・・・?ああ、窓から入って来たのか・・・!》
その花びらは母親が庭に植えたもので、毎日の水やりが欠かせない植物だった。
母親が手がかかる花で、毎日の世話が大変だとボヤいていたので、よく覚えていたのだった。
《水をやる人間がいなくなっていたら、この花は咲いていないはず。
もしかして・・・》
そう思いながら、ケントは庭に急いだ。
ケントにとっては家の中よりも、その花壇の方が思い入れが強かった。
子供の頃は母親の手伝いをし、花に水をやったり、土を運んだり
母親からしたら、それほど役に立っていなかったと思うが
その時間がとても幸せなものだと、お互いが感じていただろう。
家の角を曲がると、むせかえる様な花の香りが身体中を包む様に匂って来た。
辺り一面、色とりどりの花がそこに咲いていた。
「あの花だ!
でも、どうして・・・・。」
ケントの周りに風で飛んだ花びらが舞っていた。




