植物
談話室でジャックの日記を読んでいたレオンが声をあげた。
「おい、これ見て見ろよ。ジャックが植物の成長を記録したページなんだが。」
その日記には、コロニーに来た時からの事と、自分が研究している植物の事が
事細かく記されていた。
植物のイラストが描かれている所に走り書きの様な文字で
【家族に会いたい!】と一言だけ書かれていた。
「これが、原因か・・・。きっとジャックは両親に会いに行ったんだ。」
「70年も経っているのよ?親なんて生きてるわけないじゃない!?」
「いや、きっとジャックは親達が住んでいた街を見に行ったんじゃないかな。
この間見たフォルダの中に、楽しそうにメッセージを残してくれた家族たちが
写っていてそう思ったんだろう。まして弟に子供が出来たと分かれば
その子供にでも会えるんじゃないかと期待するからな。
例え誰もいないとしても、家に行けば家族の生きた痕跡には会える。
家族が元々いなかったら、そうは思わないだろうけどな。それに・・・。」
レオンは崖上から見た街の様子をみんなに話して聞かせた。
「ど、とういう事!?そんなの嘘でしょ!?」
マリーは驚いた様にレオンに質問した。
「遠くから見ただけだったから、どんな様子までは分からないが
ただ、建物が異様なくらい綺麗だったと言う事だけだ。俺も実際この目で
見たけど・・・。建物は雑草が生える事無く建っていたよ。」
「確かに綺麗だったな。手入れをしてあると言っていいのか・・・。」
ケントが言うと、みんなは考えこみ何も言わなくなった。
「これは・・・どういう事だ?この植物のページに書いてある事。」
レオンが手に持っているジャックの観察日記を見ると、不可解な事が書かれてあった。
そこには植物のイラストとジャックの見解がこう書かれていた。
【この植物はコロニーの中にある温室で見つけた物だ。記録によると
植えられたのはボク達が眠る前と記録されている。きっとオリジン博士が
何かの役に立つ様にと植えたんだと思う。
ただ、そうなると理解が出来ない点がある。
元々オリジン博士が用意した植物は、温室の管理下の元なら
全く手のかからない植物ばかりだ。
長い時間かけて実が成る物、大きな大木に育つ物・・・。なのに・・・
この植物たちの成長があまりにも遅すぎる。70年も経つのに・・・。】
ここで日記は終わっている。
ジャックが植物の成長に疑問を持っていた事が日記には書かれてあった。
「なんか、ゆっくり育つ様に設定していたんじゃないの?それより
さっきのレオン達の話を聞いていると、建物はあったわけじゃない?
それなら人間達も、そのままって事はないのかしら?そりゃあウィルスで全滅とは
言われてたけど、だから私達もこんな所に入れられているわけだけど。
誰かしら生き残っていても不思議は無いと思うけど。」
マリーの言う通りだった。
その発言は、みんなに可能性がゼロでは無いと思わせるには十分だった。
「じ、じゃあ、どうして、ぼ、僕達はここにいるんですか?
誰かが生き残っているのなら、僕達を探しに来てもいいのでは無いですか?」
「うるさいわね!あんた!そんなの分かんないじゃない?!
例え誰かが生き残っていたとしても、誰も私達の事を知らなかったら
誰がここの場所を知ってると思う?あの当時、私達の事を覚えている子供が
いたとしても、その人が生きている保証は無いわ。
どこかに記録でも残っていれば、別だろうけど。
それに、どうやって、その人間や記録を探すのよ!?」
それを聞いていたハルが言った。
「あ、でも・・・街まで行けば、誰か生き残っている人がいるかどうかは、
分かるんじゃないでしょうか?もし生き残っている人がいるとすれば、もしかして
誰か私達の事を覚えている人がいるかも知れませんよね?」
ハルの言葉を聞く限り、可能性はゼロどころか
かなりの高い確率なのではないかと、みんなは考えた。
どちらにせよ、このまま、何も対策をせず、コロニーに居続ける事は無駄だと
誰もが考えていた。
だが、街の状態が分からない以上、無防備に街に出る訳にはいかない。
それもみんなは理解していた。
それだけでは無い、ウィルスがあるのか、無いのか?街に人間はいるのか?
いないのか?
全員の疑問を確かめるためにもケントは調べて見る必要があると考えた。
「確かに街が元の状態で存在している以上、探ってみる必要はある。それは
あくまでも、これからの俺達の暮らしの為だ。遅かれ早かれ俺達は街に出る。
そのためにも、ある程度街の状態を把握していて損は無いと思う。ただし
ウィルスが残っているのか?残っていないのかをまず確かめる必要がある。」
「研究所のコンピューターに大気を計測しているデータがあるはずだ。
この間はメッセージを見つけて、そのまま帰って来たが、今度はそれを見に行く。
ハル、悪いが明日研究所に行って、そのデータを見てきてくれないか?」
「あ、ハイ!」
ハルが返事をするのを確認してから、ソンも手をあげた。
「あ、あの、ぼ、僕も一緒に行っていいですか?」
みんなの中では、何かあった場合
ソンだけでは役不足だという認識はあったが
動ける人間が減っている以上、ソンでも戦力になると考え
黙認した。
「わかった。何かあったら、すぐに戻って来るんだ。」
「おい、それなら、これを持って行けよ。俺が持っていると、殺したとか
言われるからな。」
レオンはソンに向けて銃を放り投げた。
「じゃあ、レオンは、俺と一緒に来てくれ。」
「どこに?」
「温室だよ。そこにいけば、何か分かるかも知れないから。それに、マリー
薬に役立つ物も見つかるかも知れないから、一緒に来るか?」
マリーは嬉しそうに顔を赤らめ、小さな声でハイと返事をした。
「おやおや~マリーちゃん、ケントには、えらく従順だね~」
「うるさいわよ!」
「じゃあ、明日早くから行動だ。」
各自が部屋に戻ると、ケントは力尽きた様に
ベットに寝転んだ。
《あの雪山での違和感。そして、ジャックがいなくなった事。あまりにも
完璧だと言われたオリジン計画に狂いが出ているのは明白だ。
ただ、何かがおかしい・・・。》
ケントは、考えながら目を閉じ眠りについた。




