薬莢
不思議な事に、その建物は70年経ったと思えない程、古ぼけておらず
いつか見た雑草も生えていなかった。
「変だと思わないか?」
レオンも同じ事を考えているのか、ぽつりと言った。
「ああ。普通なら、70年も経てば、もっと雑草が生い茂っていてもいいくらいだ。
なのにあそこの建物ときたら、全く時間を感じさせないくらい変わっていない。
まるで、誰かがきちんと手入れしているみたいだ。俺達が眠る前に見た光景となんら変わらないぜ。誰か住んでいたりして?」
「まさか。あれから70年経ったんだ。それは、ないだろう。あんなことがあった中生き残っている奴がいたら、よっぽどラッキーだぜ。」
「わかんないぜ。運よく生き残った奴がいるかもな。」
レオンの言う通りだった。
「とにかく、コロニーに戻って、このことをみんなに報告だ。」
ケントは、目の前に広がる景色を見ながら
その場の景色に対してなのか、時間を感じさせない建物の群れなのか
何に対してかは分からなかったが、【違和感】を感じていた。
《今感じている違和感って・・・なんだったんだろう?》
「おい!行くぞ。」
レオンに呼ばれて、ケントはその場所を後にした。
コロニーに戻るとみんなが談話室に集まって、何やら話をしていた。
「どうしたんだ?」
「大変なのよ!ジャックが見当たらないの!」
マリーは取り乱して、そう叫んだ。
「どういう事だ!?落ち着いて説明しろよ。」
レオンはマリーの両肩を持って、静かに話しかけた。
「わ、分かったわよ・・・。みんなそれぞれ仕事を終えて食事をしようと
声をかけに行ったんだけど、ジャックだけが部屋から出て来ないのよ。呼びに行ったら部屋のテーブルにこれだけが残されていて。」
マリーはジャツクの部屋で見つけた背丈が10cm程の鉢植えをみんなに見せた。
「これは、ジャックが育てている植物では?」
「どうしてこれだけ温室から持ってきたんだろう?」
みんなは口々に疑問に思う事を呟いていた。
「とにかく、みんなで手分けして探そう!!」
ケント達はバラバラになって、あちこちを探し回った。だが、狭いコロニーの中
探す場所は限られ、そのどこにもジャックの姿は無かった。
「い、一体、ど、どこに行ったのでしょうか・・・?」
「これだけ探していないって事は、外に出たのかも・・・な。そうなったら
探しようがないな。」
「でも、なんのために?」
「あ、明日もう一度探しましょう。そ、それに、明日になれば戻ってくるかも
し、知れませんし。」
ジャックが居なくなったことで、みんなの脳裏には殺されたユナの事が頭に浮かんでいた。
自分達の知らない所で何が起こっているのか
不安に押し潰されそうになりながら、ケント達は明日に望みを持ちながら
長い夜を迎える事となった。
翌朝早くケント達の期待は裏切られた。
ジャックの死体が、研究所から少し離れた森の中で見つかった。
ジャックを探しに行ったレオンが見つけたのだった。
あたり一面吹雪で視界も悪いこの場所で、ジャックは何をしていたのだろうか?
身体にユナと同じ撃たれた跡が残っていた。
ジャックの表情を見ていると、即死に近かっただろうとと思うくらい
傷口は身体の深くまで達していた。
遺体の傍にはジャックが持ち出したカバンが落ちていた。
カバンの中には、コロニーにあった自分の持ち物と植物の事が書かれた
観察日記のようなものが入っていた。
「どこに行くつもりだったんだろう・・・?。」
「とにかく、コロニーに戻ろう。」
「ジ、ジャックさんは?!」
「コロニーに運んで、ユナと同じ様にカプセルに入れておこう。」
レオンとケントの2人がジャックの遺体を運んでいる間に
ソンはユナの時と同じジャックの遺体の傍に落ちている薬莢を見つけ拾った。
「これ・・・や、やっぱり・・・。」
カプセルの中にジャックの遺体を運び入れると
静かに蓋を閉めた。
「これで、2人目か・・・。どうして・・・。」
ケントは後ろを向き拳で壁を叩いた。
「遺体に銃の跡があるって事は、犯人は銃を持っているという事よね?
ユナもジャックもそうでしょ?この中で銃を持っていると言えば。」
マリーはレオンとソンの方を見た。
「ぼ、僕ではないです!」
「俺も違うからな。」
「どうだか。大体、銃を持っているのは、あなた達しかいないのよ?
ソンもレオンに銃を渡したと言うことは、自分の物も持っているんじゃないの!?」
マリーはソンに詰め寄った。
「ぼ、僕は確かに持っています。で、でも・・・僕のは、まだ未完成で
引き金を引くと暴発する状態だから、と、とても撃つなんて出来ません!」
「そんなの、どうかしらね!この中の誰も、銃の知識なんて持っていないんだから。
なんとでも言えるわ!知っている人間がいれば、別だけど。」
マリーはレオンの方を睨んだ。
「おいおい、辞めてくれよ。俺じゃないからな。」
その場に気まずい空気が流れたが、今の状況では誰が犯人なのかを
突き止める事は不可能で、時間が経つとみんなは冷静を取り戻した様だった。
眠りから覚めてから毎日色んな事があり過ぎて、精神的にみんな疲弊していた。




