残された動画
「この部屋だけ、やたらに綺麗だな。」
レオンも同じ事を考えていたのか、デスクの近くにある本棚に手を伸ばし
綺麗に並べられている本を1冊ずつ取り見ては直していた。
足元にはチリ1つ落ちておらず、最後まで掃除が行き届いていた様に見受けられた。
ケントはふと誰かの視線を感じ、あたりを見回した。
「どうした?」
「いや、誰かに見られている様な感じがして。」
「お前さっきから変だぞ?人影見たとか、視線を感じるだとか
疲れてるんじゃねーのか?」
レオンの言う通りなのかも知れない。目覚めてから色んな事があり過ぎて
ハッキリ言って、ここに来てからというもの、スッキリした朝を迎えた事が
1度もない。
オリジン計画に選ばれるまでは、出来るだけ人と接する事を避け
親との会話でさえ、必要としなかった毎日だった。
それが、ここに来て色んな人間達と会い
そして人が殺されたりと、ケントからすると、あまりにも非日常な
暮らしが続いていて、心底疲れていた。
「二人とも、来てください!」
今度はさっきの部屋でハルが俺達を呼ぶ声が聞こえた。
「見て下さい。」
ハルがモニターの画面を指さした。
「ここにみんなの名前が書かれた、フォルダがあるんです。フォルダの中を見ると
多分動画だと思うんです。日付は、私達が眠りについてからの
物みたいなんですけど。これ・・・みなさんに見てもらいたいので、データを移して持って
帰りますね。」
「わかった。今日はここまでにしよう。ウィルスの計測は次回にまわして、そろそろ戻ろう。
戻って、みんなに、このデータを確認してもらおう。」
2人は先に部屋を出て行ったが、ケントはなぜか、さっきのオリジンの部屋が
気になり後ろを振り返りながら、部屋を後にした。
コロニーに戻ると、ケントは全員を集め研究所の状態や、そこで見つけた
それぞれの名前が書かれたフォルダの説明をした。
「これから、みんなに自分の名前が書かれたフォルダの中身を確認してもらう。」
コロニーにも研究所ほど立派ではないが、いくつかのコンピューターが
食事室の隣に用意してあった。
みんなは、名前が書かれているフォルダの確認のため、順番に個室に入っていった。
個室と言っても扉の一部がガラスになっているため
中の様子を伺う事は可能だった。
ケントはみんながメッセージを見ている様子を、そのガラス越しに見ていた。
ソンは、モニターを見ながら首を縦に振り何度も頷いていた。
そうかと思えば頭を下げ泣いているのか、小刻みに身体を震わす時もあった。
メッセージを見終わったのか、出て来る前にティッシュで鼻をかみ
手で髪の毛の乱れを直していた。
個室の扉が開き中から真っ赤に目を泣きはらしたソンが出て来た。
「す、すいません・・・。フォルダの中はハルさんの言う通り、メッセージの動画が
入ってて僕のは、両親からで・・・。」
ソンの眼には再び涙が浮かんでいた。
「大丈夫ですか?」
ハルが声をかけると、ソンは、鼻水をすすりながら
一言二言答えるのがやっとで、小走りにその場を離れた。
マリーの方へ眼をやると、モニターを見つめ不思議そうに首をひねっていた。
メッセージの内容が短かったのかすぐに個室から出て来た。
「なんか変な動画だったわ。父らしくない気弱な言い方だし。私がここに来てから
すぐに撮ったメッセージだったみたいで、他にも言いにくそうにウィルスの事を話してたけど
時間切れだったみたいで、途中で切れちゃってたわ。肝心な所は聞けなかったし、何かしら
まったく、父も歳ね。」
そう言うとマリーはため息をつきながら、自分の作業場へと戻って行った。
ジャックの個室を見て見ると、本来なら個室の声は外に漏れない
仕組みになっているのだが、ジャックの動画を見ている声が
外にもれるほど大笑いしていた。
時々歓喜の声をあげたり、上半身だけ動かし踊って見たり
メンバーの中で一番賑やかな動画観賞だったかも知れない。
外に出たジャックにハルが聞いて見た。
「何か楽しそうでしたね?ジャックさん。うふふ。」
「ハイ。声が外まで聞こえてましたか?それは恥ずかしい・・・。
ボクがここに来てからすぐ、弟の所に子供が生まれたみたいで、両親はとても
喜んでました。その後弟が将来私の子供と遊ばせてみたいとメッセージを
くれてました。とっても楽しいムービーでした。・・・本当に、そんな日が
来たらいいんですけどね。」
それまで楽しそうに話をしていたジャックだったが
家族の話になると、途端に表情は暗くなり、心なしか元気がなくなった様に見えた。
そして何か思い詰めた様に目に涙を浮かべると、モニターの方を振り返り
拳を握りしめ、どこかに行ってしまった。
レオンといえば、モニターの方を見ず
両手を頭の後ろに組み、椅子の上であぐらをかき、くるくると回し始めた。
そして、外で様子を見ていたケントと目が合うと、個室の中から窓の方へ向かい手を振った。
「何してるんだ?」
身振り手振りを交えながら、ケントが聞くと、レオンは個室から出てきて話始めた。
「う~ん・・・俺ってさぁ~親がいないだろう?誰がメッセージを入れて
くれてると思ったら施設のシスターだったよ。」
「シスター?」
「そうそう。施設の子供の世話をしてる人で、俺もその人に世話になったんだ。
その人だけだから、あーーーっと言う間に終わっちゃって。お守りを
大切にしてって言ってたよ。」
「お守り?」
「ああ、施設に入った子供達は、そのシスター手作りのお守りみたいなのを
全員渡されて、これの事だと思うけどな。これがなんだっていうんだろうな~」
レオンは胸元から首にぶら下がっている手作りのお守りをケントに見せた。




