忘却の夏
果てしない空の下
現れたのは
夏の真っ盛り
降り注ぐ陽光とともに霞む記憶
汗に滲む手のひらで掴もうとした言葉は
蜃気楼のように形を失い遠ざかる
君の黒髪の揺らめきは
夏風が絡む麦の穂のようであったけれど
その姿は陽炎の彼方へと消えていった
白く透ける肌の淡い温もりも
今では日差しの中に溶け込んで
心の奥に散らばる
思い出のかけら
それはひとひらと乾いた葉に軽く落ち
指先で触れるたび
熱風に巻き上げられさらに
響く声も
出会った日の鮮やかな景色も
静かに輪郭を失い始めている
君が微笑んだあの瞬間さえ
今ではささやく程度の儚さ
忘れることでしか守れない




