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モンスター・ガールズ・ネクスト・ドア  作者: 柊 太郎


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ヴァンパイア・レッスン(4)

 美桜はセバスチャンに命じ、意識を失った侵入者達を前庭の一角に並べさせた。

 ついでに顔を隠していた目出し帽やマスクも全て剥ぎ取らせる。

 セバスチャンが言う

「お嬢様、此奴(こやつ)らの尋問でしたら(わたくし)めが……」

「大丈夫、彼ら全員、大した精神力じゃない、赤子の手をひねるようなものよ」

 気絶した侵入者達の前に立ち、美桜は目を閉じ、彼らの心を探る。

 目を開けた時、美桜の瞳は金色の輝きを帯びていた。  

「目を覚ましなさい」

 美桜が命じたその声は、たいして大きな声ではなかったにも関わらず、気を失っていた男たちは次々と目を覚まし始めた。

「全員、座りなさい、正座で」

 男たちは一様に虚ろな表情を浮かべたまま、命令に従い地面に正座する。

「この場のリーダー格は誰?」

 美桜の質問に、男の一人が手を挙げた。

 美桜の拳で歯を折られた男だ。

「この館を襲おうとしたのは何故(なぜ)?」

 美桜の質問に、男は虚ろな目のまま答える。

 ()れ上がった頬の痛みも、今は感じでいないようだ。

「ネットで……募集を見て……割の良いバイトだって……強盗(タタキ)だって言われた時は焦ったけど……金払いは良かったし……()()()()を見つけたら、あとの金目の物は自由にして良いって言われて……」

「“あるもの”とは?」

「……よくわからないけど……こんな模様が描いてあるって……」

 男はポケットから紙片を取り出す。

 紙片を受け取り、確認した美桜の表情が(かす)かに変化した。

 紙片を握りつぶした美桜は、さらに問いかける。

「依頼者には直接、会ってないのね?」

「……会ってない……手付けの金も、いつの間にかポストに入ってた……気味が悪かったけど、金は金だし……」

 美桜は小さくため息をつくと、言った。 

「お前たちはここで起こったことの全てを忘れ、ここを出ていく――ああ、最後にもう一つ」

 美桜の瞳の輝きが強くなる。

「闇を、(おそ)れなさい」

 男達は命じられた通りにふらふらと門から出ていく。

 最後の一人が出るのを見届けた美桜は言った。

「セバスチャン、門を閉めて、屋敷へ戻りましょう」

 美桜はセバスチャンを伴って屋敷の中へと入っていく。

 そして、おそらくは男達が屋敷から数百メートルは離れたであろう頃、彼らが上げたと思しき大きな悲鳴が次々と聞こえて来た。


 侵入してきた男たちが、ふらふらと門から出ていく様子を、叡司(えいじ)は窓から(うかが)っていた。

 が、美桜とセバスチャンが館に戻って来るのを見て椅子に戻る。

 部屋に戻って来た美桜は言った。

「ちゃんと言いつけを守れたみたいね、もう大丈夫よ」

「良かったんですか?あのまま帰しちゃって」  

「大丈夫、ここで起こった事は覚えていないし、それに当分悪いことはできないわ、もしかすると一生ね」

「なぜ、わかるんです……?」 

「彼らの中に植え付けてあげたの、暗闇への恐怖心を」

「そんなことができるんですか!?」

長生者(エルダー)ともなれば、ちょっとした精神操作くらいは朝飯前、特にあの手の、意志の弱い人たちなら赤子の手を(ひね)るも同然」

 美桜は微笑みながら言った。 

「まあ、都会の夜はそれなりに明るいけど、それでも、もう夜に出歩こう、なんていう気にはならないでしょうね、これからは小さな子供のように、夜と暗闇を恐れて生きることになる――さて、すっかり遅くなってしまったわ、貴方ももう家に帰りなさい、セバスチャンに送らせるから」

「家はすぐ隣ですよ」

「駄目、言う通りにして――また明日、学校が終わったらここに来て、貴方には色々と教えておかなければいけない事がある」

「分かりました」


 美桜の屋敷が襲われたのと同じ日の深夜。

 同じ街の一角に、廃業し、半ば廃墟と化した酒場(バー)があった。

 窓は全て板で塞がれ、中の様子は見えないようになっていたが、板の隙間からわずかに明かりが漏れていた。

 荒れた店内には何本かの蝋燭(ろうそく)が灯され、覚束(おぼつか)ない(あか)りの下、一つのテーブルを囲んで四人の男女が声をひそめて話している。

 その会話は全て英語で交わされていた。

 赤毛を長く伸ばした、女とおぼしき一人が冷徹な声で言う。

温血者(ウォーム)を雇って行わせた今夜の襲撃は三件、そのうちの一つからの連絡がなかった、それに警察が呼ばれた様子もない」

 髪を短く刈り込んだ、屈強そうな体格の男がそれに応えるように(つぶや)く。その声は石臼(いしうす)の回る音を思わせるような、野太くざらざらした声だ。

当たり(ビンゴ)を引いたかもしれんな」

 髪を長く伸ばした、ひょろりとした長身の男が言う。

「あ、あのデカい年代物の館だろ、お、俺は最初から怪しいと、にに、(にら)んでた」

 黒髪をマニッシュなショートカットにした女が、手にした細身のナイフを、もて遊びながら言う。

「だから回りくどい事をしないで、最初からアタシたちが出向けば良かったんだ、目標の目星がついても、警戒されたらかえって面倒だ」

 野太い声の男が応える。

「問題無い、抵抗があった方が楽しみが増える」

「はっ、これだから戦闘狂は」

 言いながら黒髪の女は、部屋の隅へナイフを投げる。

 壁を這っていた虫が一匹、ナイフに貫かれて絶命した。

 刺さったナイフの方へ歩きながら、黒髪の女が話し続ける。

「だいたい余計な注意を引かないように人間(モータルズ)を使って探らせてたのに、新参(ニュービー)(しつけ)もろくにできないんじゃあ意味がないね、どこぞの家の飼い犬を(さら)って吸っちまったのは、アンタのとこの奴だろ?」

 言いながら、壁からナイフを引き抜いた。

 野太い声の男が応える。

「問題無い、それについては、既にしかるべき制裁を下した」

「またバラバラに引きちぎっちまったんじゃないだろうね」

 野太い声の男は無言で笑みを浮かべる。

 唇の間から鋭い牙が覗いた。

 赤毛の女が言う。

「いずれにしても、もう少し探りを入れてからにする、何も焦ることはない、何日かすれば、気の緩みを出るだろう、それまでは全員、勝手な動きはしないこと、良いね?」


 翌日の放課後、叡司は学校の図書室にいた。

 ヴァンパイアについて、改めて自分なりに調べたくなり、図書室にあるそれらしい本を、片っ端から持ってきては目を通していた。

 結局の所、それで分かったことといえば、各地に伝わる様々な伝承に加えて、後代の創作があれこれと話を付け加えたおかげで、実態はさっぱり分からない、ということだけだった。

 例えば、ヴァンパイアは日光に弱いというのは定説だが、多くの伝承では太陽の光を嫌っていたり、日中はその能力が発揮できないだけで、太陽の光を浴びたら即座に灰になる、というものではないらしい。

 アメリカの映画業界が太陽の光を浴びて灰になる吸血鬼を映像化し、それが大いにウケたため、吸血鬼は日光で灰になる、という俗説が広く巷間に流布してしまった。

(学校の図書室で調べられるのはこれが限界か……結局、当のヴァンパイア本人に聞いて学ぶのが一番早いってことだな……)

 それでも一度は自分で調べてみないと気が済まない、それが叡司の性分だった。

 自己満足かもしれないが、ただ情報を流し込まれるより、一度自分なりに調べて考えてみる、そうすることが大事だとも思っていた。

 気づくと外はすっかり暗くなっていた。

 

「ずいぶん熱心ね」

 不意に背後から声をかけられ、心臓が口から飛び出しそうになった。

 叡司が振り返ると、そこには担任教師の佐藤がいた。

「脅かさないでくださいよ……」

「何を調べてたの?」

 机に積み上げられた本の背表紙を見た佐藤の顔が曇る。

罟弖(あみて)くん、貴方まだ――」

「あーっはいすみません、分かってます、でもやっぱり納得行くまで調べてみたかったんです、自分なりに……でももう帰ります」

 叡司は本を一冊手に取ると、書架に戻すべく立ち上がった。

「それに、引っ越して来た隣の家の人たち、先生が心配するような危ない感じの人たちじゃありませんでしたよ」

 叡司は書架へ向かって歩きながら話した。

 普段なら図書室での大声での会話は禁止だが、今は他の生徒は居らず、貸し出し担当の委員も帰り、いるのは叡司と教師の佐藤の二人だけだった。

「本当に?」

「はい、少し話しただけですけど、良いとこのお嬢様、って感じですし、執事の人もちゃんとした方でした」

「分からないわよ、少し話したくらいじゃ」

 佐藤も話しながら、後ろからついて来る。 

「だいたい、不審者が押し入ったのに警察も呼ばないなんて、何か後ろ暗い所があるからなんじゃない?」

 書架へ本を戻しかけていた叡司の手が止まる。

「――先生、何故それを」

「いけないわ、口が滑っちゃった」

 叡司は不意に後ろから抱きしめられた。

 後ろから佐藤が叡司の耳元へ(ささや)きかける。

「はぁ、残念だわ、もう少し先生ごっこが続けられるかと思ってたのに」

「先生!?」

 叡司は驚き、振り返ろうとするが、凄まじい力で抱きしめられ、身動きが取れない。

「先生……冗談は止めてください……」

生憎(あいにく)と、冗談じゃないの」

 叡司は必死で逃れようとする。

 だが、佐藤の腕の力が一段と強まった。もはや痛みを感じる強さだ。

「本当、残念だわ……貴方、可愛いとこあるから、先生お気に入りだったのよ……だけど、中途半端に頭が良いのも、考えものね……もう少しお馬鹿さんなら、気づかずに無事に帰れたし、もう少し頭が良ければ、気づかない振りをしてこの場を逃れられたかも知れないのに……」

 佐藤の右手が離れ、叡司の身体を拘束しているのは左手だけとなったが、それでも身動きは取れない。それほど凄まじい力だった。

「先生……」

「貴方の血は飲んであげない……私はまだ、自分の仔を持つことは許されてないの」

 佐藤の右手が叡司の胸元へ当てられる。

 ずるり、とその手が叡司の胸の中に入り込んだ。

 叡司は恐怖のあまり、悲鳴を上げることすらできなかった。

 冷たい汗と涙が顔を伝い落ちる。

 何よりも恐ろしいのは、佐藤の手が、服も皮膚も、筋肉や骨すら貫き、自分の体内に入り込んでいるのに、身体には何の痛みもないことだった。

「ほら……分かる?……今、貴方の心臓に触れているの……凄くどきどきしてる……このまま握りつぶしてもいいけど、でもそれじゃちょっと面白くないわね……」

「助けて……」

 多分言っても無駄だろう、叡司は頭の片隅で理解していた、それでも言わずにはいられなかった。

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