ポーカーフェイス強化教室
この作品は「第4回下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞」への応募作品の為、応募規定の1000文字以下の超短編小説となっております。
よろしくお願い致します。
とある学園のとある特進クラスの教室。
ここには、特別に優秀だと認められた貴族の令息令嬢のみが集められている。
そして授業終了の鐘が鳴り響いたその時、自身の右眼を手で押さえながら金髪碧眼の見目麗しい男子生徒が声を上げる。
「うっ!右眼が、ぼ…俺の右眼がうずく!」
先程まで教卓に立っていたはずの教師は素知らぬ顔で、しかし急ぎ足で教室を出て行った。
そして残されたクラスメイト達はそんな金髪碧眼の彼に反応することなく、表情を崩さぬよう、声を出さぬよう、表情筋と腹筋に力を入れながら耐えている。
なぜなら、金髪碧眼の彼はこの国の第二王子だからだ。
クラスメイト達は皆、親から「第二王子殿下は今、病にかかっている」と聞かされていた。
思春期にかかりやすく、後に「黒歴史」と呼ばれる後遺症を残すという恐ろしい例の病にだ。
もちろんこの病に特効薬はなく、時が解決するのを待つしかない。
だから殿下の病が治るまでは、クラスメイト達は殿下を刺激しないようひたすら空気に徹し、笑わないよう……もとい、反応しないように努めている。
「まあ!殿下、右眼をどうされたのですか?」
それなのに、そんなクラスメイト達の努力を無視して、栗色の髪の女子生徒が第二王子に声をかけてしまう。
彼女の恐ろしいところは、思春期特有の病によるものであるとは気付かずに本気で殿下を心配しているところにある。
「ち、近寄るな、お前にも俺の呪いがうつってしまう」
「まあ!呪いだなんて!」
「ぼ…俺が幼き頃に魔神オルガノレイドにかけられたものだ」
「魔神!そんな恐ろしいものが!」
栗色の髪の女子生徒はヒィっと顔を恐怖に歪めている。
彼女のせいで、殿下だけならば短時間で終わりを迎える寸劇が広がりを見せ、長編喜劇へと姿を変える。
「その魔神オルガ……えっと、なんでしたっけ?」
「ん?……魔神オルガノライドだ」
(いや、お前が魔神の名前間違えんなよ!)
そうツッコミたい気持ちを全力で抑え込みながら、今日もクラスメイト達は表情筋と腹筋と精神力を試され、鍛えられ続けている。
後に、殿下の中二病が治るまでの3年間を耐えきったこのクラスの生徒達が、どんな事態に直面しても慌てず騒がず、常にポーカーフェイスを崩すことのない貴族らしい貴族だと称賛を受けるようになり、国の未曾有の危機に一丸となって立ち向かうのは、また別のお話。
読んでいただきありがとうございます。
お題は「ポーカーフェイス」で考えてみたのですが、主人公がポーカーフェイスをする話が思い浮かばなかったので、周りがポーカーフェイスをする話になってしまいました。